かんぽの宿と鑑定評価

 郵政民営化の一連の過程における、「かんぽの宿売却問題」が国会やマスコミにおいて繰り返し話題になっている。 自公政権下においても、当時の鳩山総務大臣が「出来レースではないか?」と一括売却に難色を示したという経緯もある。
 この問題に関連して新しい展開が生じた。今回は関連する不動産鑑定評価が、国会質疑で正面から取り上げられたという点で等閑視できないものである。


 去る8月2日の衆議院予算委員会において松野頼久議員(民主党)が「かんぽの宿売却に問題はなかったか。」と質問したのに対して、原口総務大臣は先に公表したガバナンス検証委員会の報告を引用して、売却価格決定に際して求めた鑑定評価に関連し、「当初内示額307億円が、一週間に2度の内示額提示が行われ、68%減額の98億円に変更された。」と答弁した。 また日本郵政側の答弁は「不動産鑑定士に対して売却可能な額か?」という質問を行ったというものであった。 これらの答弁に対して松野議員は関与した鑑定士の参考人招致を予算委員会理事会に要請した。
『衆議院インターネット審議中継(録画)』2010/08/02:予算委員会:松野頼久議員質疑
 松野議員の質問は、先の国会で廃案になった郵政民営化見直し法案の再提出と国会通過を睨んだ、民主党と政府・総務省の出来合い質疑という背景が存在するのであろう。しかし、そこに不動産鑑定評価が俎上に上がり、一週間に2度も内示額提示が行われ、当初提示額の約三分の一に減額されたと公表されることの影響はとても大きい。
 総務省:日本郵政ガバナンス問題調査専門委員会報告書等の公表
 この問題に対して(社)日本不動産鑑定協会は、危機管理対応特別委員会(委員長:協会会長の神部富吉氏)が早速に対応して、会員宛に「かんぽの宿への対応について(報告)」と題する文書を公表している。
 先には不動産証券化における鑑定評価について金融庁の疑義が示されたこともあるから、この問題は単に一鑑定業者の「かんぽの宿鑑定評価への疑義」に止まるものではないと考える。 不動産鑑定評価全般に関わる社会の信頼を揺るがす大問題であり、まさに鑑定評価の危機といえるものである。だから鑑定協会・危機管理対応特別委員会が対処するのは当然のことであるが、問題は会員宛の声明ではなく、国会で疑義が示されたことを鑑定評価の危機と捉え、的確な十全の対応方針を社会へ如何に速やかにアピールするかということであろうと考える。 また、個別対応に局所化矮小化することで問題を糊塗することがあってはならないと考える。
 証券化対象不動産の鑑定評価に対する信頼の確保・向上を目指して
 (不動産証券化市場の健全な発展と透明性の確保に向けて)
  平成20年9月8日 社団法人日本不動産鑑定協会 会長 神戸冨吉
 茫猿は当時に、「NSDI-PT & めしin東銀座 & 会長談話(2008年9月13日)」という記事を本サイトに掲載したが、その後の協会対応は手緩いと考えている。協会執行部の対応も手緩ければ「リスクマネージメントのなんたるか」も理解できていないと考えている。
 08/09/13記事のなかで、茫猿はこう述べた。

 国交省:土地・水資源局長は鑑定協会への通達のなかで、「不動産鑑定評価制度に対する国民の信頼を大きく損ないかねないものである。」と言い切っていることの重みを過不足無く自覚することが大切なのである。
 鑑定協会・会員の一人として、不動産鑑定士の一人として言い得るのは、ピンチを転じてチャンスに変えるような、大胆な発想転換を協会執行部に求めるのである。
 それはマイナス情報こその開示であり、より積極的な透明性の確保なのだと、執行部並びに理事役員諸氏に申し上げたいのである。 ICT化時代における情報管理やリスク管理のあり方こそが、今まさに問われているのだと申し上げるのである。
 会長談話は、【調査内容を充実させて実施し、当協会としても、遺漏なく、フォローアップを行うことにしております。】というが、それは当然のことなのであり、問題はそのフォローアップ(追跡調査)結果を広く社会に情報開示してゆく姿勢の有無が問われているという認識こそが大切だと申し上げるのである。

 これらの問題は、清水千弘氏が云うところの「Client Influence Problem」に関わる問題であろう。(中略)鑑定士に対してクライアントの影響がどの程度作用を及ぼしているのかといったことが研究されている。日本においては,パワーバランス問題として指摘されている。もし,このような問題があれば,不動産投資の持続的な成長を実現するための大きな隘路となりかねない。
 (注)Client:依頼人、顧客
 (注)Influence:影響、(この場合は、威光とか権勢と訳した方が判りやすい。)
《この稿は続く。》

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