これもリーマンショック後遺症

 某月某日、某政令指定都市の一角にて、リーマンショック後遺症のひとつをみかけた。
こういうことである。 裏通りとはいえ木造町屋が密集し耐火造建物も介在する街角に、結構な構えの建て売り住宅を見かけた。屋内が開放されていたので、案内を請い後学のためにと見学させて頂いたのである。


 建物の外観は一文字瓦葺き、聚楽塗り、銅製樋使用の純和風設えである。内装は思ったほどではなく、壁、天井ともビニールクロス貼り、集成材の使用が多くて、いわゆる建て売り程度よりは上級であるが、高級というほどではない。 それでも設備は床暖房システム、システムバスルーム、システムキッチンなどなど、見場は整えてあり即日入居可能である。庶民感覚からすれば豪邸の部類に入るのであろう。
 敷地165.64㎡、延べ床212.00㎡屋内車庫付き6LDK、中庭有り、 南側4m市道、地下鉄駅私鉄駅までともに徒歩7分、小学校や商業施設にも近い。都心近くにありながら喧噪にはまあまあ遠い町筋である。売り出し価格は138,000千円である。 それでなぜリーマンショック後遺症というのかと云えば、建物の完成時点が2008年4月なのである。 築後2年4ヵ月経過しても売買契約が整わないのである。2008年完成だから敷地を手当てして、建築が計画されたのは2007年当時であろう。
 サブプライムローンが問題となったのは2007年、リーマンブラザーズが破綻したのは2008年9月のことである。たまたま管理していた売り主と思われる初老の建築会社関係者は「この前のバブルの頃だったから、すぐ売れると思っていた。事実この建物のしばらく前に完成した物件は指し値で売れた。これが、まさかここまで売れないとは思いもよらなかった。」と述懐する。
 「パンフレット表示の価格は二年前の価格ですから、お値段はご相談に応じます。」と、名前や住所を教えてくれと言うから、買う気などまったくない茫猿は間取り図や工事仕様書などを頂いて、早々に退散し帰宅してから少し調べてみた。
 先ず地価であるが、相続税路線価をiNETで調べると、2008年路線価が205千円、2010年路線価は185千円と約10%の下落である。2008年当時の路線価をもとに公示価格ベースに換算してみると4,250万円である。 つまり残余9,550万円が税込み建物価格である。(坪換算約150万円)
 この建物価格はいかにも高すぎる。そこで、もう少し取材してみると、敷地時価はもう少し高いのではと思われる。土地総合情報システムで、地価公示価格や開示されている土地取引価格から推定すれば30~40万円と判断されるから、残余建物価格は推定値引きを考慮して6000万円前後と思われる。二年半の店晒しを考えれば5000万円でもよかろうが、それでも総額はまだ一億である。
 これ以外には何もない、ただこれだけの話であるが、頂いた資料の内、公図写し交付日は2005年2月である。この頃から話が始まり今に至ったということであろう。この新古住宅のこれからが些か気になるところであるが、通りすがりの鄙人(ひなびと)茫猿としては、親切に説明してくれた関係者のためにも、ただただ良い買い手が現れることを祈るのみである。

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