Rea Review

 Rea ReviewとはRea(鑑定評価)のReview(レビュー・再審査、論評)ということである。ただし、既に行われた鑑定評価書を不動産鑑定士の誰かが審査するという類のものではない。依頼者に提示済みの鑑定評価書を然るべきサイトに公開することにより、利害関係者や不動産鑑定士をはじめとする多くの人によるレビューを受けようというものである。


 当然のことであるが、不動産鑑定士には不動産鑑定評価に関する法律第6条で秘密を守る義務が課せられているから、自らが作成した不動産鑑定評価書を開示することはできない。 しかし、依頼者の許可が得られる場合はその限りではない。 鑑定評価書を公開するも公開しないのも、依頼者の自由である。正本であれ写しであれ、評価書を受け取ったものの自由な行為とも云えるのである。 なお裁判所が行う競売事案に関わる評価書は、既にネット上にその全てが公開されているのである。
 では依頼者は受け取った鑑定評価書を公開することに何らかの利益とか、公開への積極的意味といったものが存在するのであろうか。 国や地方自治体等が鑑定評価を依頼した場合は、公費でまかなうものであるとともに、特段の事由がない限りは公開の対象とされるべき行政行為であろうと考える。 同時に国民市民の利害に関係するものである以上は、本来的に公開されるべきものであろうと考える。さらに、鑑定評価書の公開は行政への信頼も増すであろうと考えると同時に、不動産の適正な価格形成にも少なからず寄与するであろうと考える。
 不動産の証券化等に関わる鑑定評価書についていえば、その結果の当否は多数の利害関係者に大きな影響を及ぼすものであり、既に部分的ではあるが公開の方向へ向かっている。評価書の公開は当事者自らの社会的責任(Corporate Social Responsibility)についての企業姿勢を明らかにするものとして、あらゆるステークホルダー(利害関係者:消費者、投資家等、及び社会全体)からの要求に対して適切に応えるものとして、積極的に受け止めてほしいと考える。
 さらに筆者は、鑑定評価書の納付即開示と短絡的に考えているものではない。用地交渉の始まる前に評価書の全てを開示することが妥当かどうかは一考の余地があるし、証券化等の場合でも不動産の取得交渉中に鑑定評価書が開示されることは、交渉について良くない影響をもたらす場合もあろう。
 であるから、開示、非開示をはじめ、開示の時期も含めて、依頼者が決めるべきことと考えるのであり、事後に何らかの問題が第三者から指摘された場合には直ちに開示できる準備を予め整えておけばよいと考えるのである。 問題はそのような措置並びに行為を鑑定士が自主的かつ自律的に不動産市場に対して提案することに意義があると考える。 以下、具体的な手順について述べてみる。
一、鑑定協会のReaNetに「Rea Review」と題する鑑定評価書登録保存サイトを設ける。
二、鑑定業者は鑑定評価業務を受託するに際して、依頼者から開示の諾否及び開示時期についての意思表示を、書面にて受ける。
三、鑑定業者は鑑定評価書を依頼者に納付するに際して、「Rea Review」サイトへ以下の事項を登録する。ただし、登録は義務ではなく、鑑定業者の自由意志である。
 1.登録年月日及びメールアドレス
 2.パスワード(評価書の差替、登録取下に使用する)
 3.鑑定業者コード、公開の諾否、公開の時期(直ちに、1年後、2年後等)
 4.対象不動産の表示(都道府県、市区町村コード)、価格時点
 5.不動産鑑定評価書の全部または一部のPDFファイル
 6.登録したメールアドレス宛に、登録済証を自動交付する
四、公開時期の到来した評価書ファイルは、公開サイトへ移動し開示される。
 以上である。不動産鑑定評価書は公開を諾とした場合に、指定する公開時期からサイト上で公開が開始され、鑑定士、利害関係者、一般市民のレビューを受ける。 公開を否とする場合でも、依頼者が事後に公開を許諾した場合は公開の対象となる。
 同時に、鑑定業者は当該鑑定評価書に「Rea Review」登録を行った旨、記すことができるものとする。このサイト登録を行うことにより、鑑定業者並びに不動産鑑定士は依頼者からの不適切な申し出を回避できようし、何よりも公開して社会のレビューにさらされるということ自体が、鑑定士の倫理向上の大きな支えになるであろうと考える。さらには、公開レビューに耐えうる不動産鑑定評価書を作成しようとする意欲を強くするものにもなろうと考える。
 最初は「Rea Review」などは荒唐無稽に思えるかもしれない、しかし「Rea Review」が不動産市場に浸透してゆけば、「Rea Review」登録評価書であるか否かが鑑定評価の信頼性を示すものとなってゆくであろうし、鑑定士の自主、自律規範をより確かなものにしてゆくであろうと考える。 同時に「Rea Review」登録は、鑑定士の説明責任を担保するものであり、評価書の説得力を高めてゆく力にもなろうと考える。
 (社)日本不動産鑑定協会は、この試案を前向きに検討していただき、実現に向けて前進願いたいのである。この試案の実施は「Client Influence Problem」の具体的かつ有効な改善策となるであろうし、昨今話題の公益法人改革においても、有力な公益事業のひとつと位置付けられるであろうと考えるものである。
《補足》
 この種の自主規制制度を創設しようとする時に、最大の難関は鑑定協会構成員の意識が実態に追いついていないという現状認識格差である。 次に問題となるのは制度の創設並びに維持費用である。
 現状認識を改めさせるには協会執行部の強力な指導力が求められるのであるが、それとても、既に述べたように、全会員に登録実施を強制するものではなく、任意参加を前提とするものであるから、おおかたの賛意を得れば十分である。徐々に「Rea Review」登録が鑑定評価書のステータスとなるように育ててゆけば良いことである。
 自主的に制度を創設し維持する費用に関して、「Rea Review」はとても安価である。若干のシステム構築費(ReaNetを利用すれば、追加経費は百万円前後であろう。)と年間数十万円以下のファイルサーバ維持費用を計上すれば足りると見込まれる。あとは然るべく広報すれば良いのである。

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