晴耕雨鑑から晴耕雨読へ

　全くの私事にはございますが、９月末をもちまして晴耕雨鑑から晴耕雨読に生活の全てを切り替えました。　二月末に事務所を鄙に移転してからも細々と鑑定評価業務を続けていましたが、先月末をもちまして地価公示委嘱を辞退して、鑑定評価業務からほぼ退隠致しました。　事務所登録は当分のあいだはそのままですから、依頼さえあれば鑑定評価業務を行いますが、昨今の状況では年間の依頼件数は十指はおろか五指も危ういことであろうと思っています。

　四月、五月と、母の看護に没頭していた頃には、業務受託中の地価調査を辞退することも真剣に考えていましたが、五月の連休明けに母の看取りを終え、辛うじて地価調査を完了することができました。　六月、七月と父とふたりだけの日々にもようやくに慣れ、この分であれば地価公示も滞りなくできるだろうと考えていたのです。
　でも、数年前に患った網膜剥離の後遺症はモニターの数字を見るときに以前より厳しく《2001/04/23 網膜剥離症にて岐阜大学病院へ緊急入院、即日手術を受ける。失明は回避できたものの、右眼視力は罹患前の半分となる。》、また百歳に間近となった父の『高齢者ブリ』も思っていたよりたいへんで、九月に始まった地価公示業務遂行は自らの衰えも加わって結構厳しいものがありました。　時に苛ついて父にあたることもありましたから、今の私の優先順位は何であろうかと、改めて考えてみた時に、父の介護を最優先し、母が慈しんできた畑や屋敷廻りの管理を優先すべきなのだと思い至ったのです。
　期中に公示を辞退することは、分科会幹事をはじめ関係する多くの方に迷惑をかけてしまうと逡巡したものの、年末近くになって滞らせて辞退するようなことになれば、さらに大きな迷惑をかけてしまいます。　であれば、まだ始まって間がない今の内に、ケジメをつけておくべきだと考えてのことです。　可能であれば、残り数年は地価公示に参加し、鑑定士人生を全うしたいと考えないわけではありませんが、老々介護の現実は地雷原を歩むようなものであり、時分の見切りが肝心なのだと考えました。
　猛暑のせいにしたくはありませんが、八月、九月と放置した畑の荒れようも見るに忍びなく、母が見れば嘆くであろうと胸が痛みます。　秋の深まりとともに、今一度美しく整った畑を取り戻したいと思っています。
　72年から主に岐阜県内ですが愛知、静岡でも携わってきましたし、二十数年前になりますが、筆禍事件で一年謹慎したこともある地価公示です。　地価公示について、思うことは多くありますし、今年になってから公示退隠の引き金となるような出来事が無かったわけでもないのですが、それを語れば”引かれ者の小唄”になるでしょうし、”守秘義務違反”にも問われかねませんから、何も書きません。　その先行きについては、当サイトでも幾つかの記事を掲載していますが、今は”地価公示の佳き明日”が見えてくるように願うだけです。そして優雅な無聊を楽しみたいと思っています。
　NSDI-PTについては、端緒から三年が過ぎ、この秋から来春にかけて一応の成果を形にできるのであろうと考えています。　いかなる形にせよ、あと暫く、微力を傾けて何か見えるものを報告できれば幸いと願います。
　鑑定評価から事実上退隠すれば、『鄙からの発信』も自ずと変わってゆくでしょうが、十年余もこのサイトの有り様であった”茫猿遠吠”と”只管打座”はこの先も変わらないであろうと思っています。　読者の皆様に、これからも折々には思い出して、このサイトをお訪ね下さるようお願いしまして、取りあえずの近況報告とします。
《 old soldiers never die， they just fade away. 》
《秋の切り撮り》
　例年より二週間近く遅れて咲き、朝露に光る曼珠沙華です。
　　　
　名も知らぬ秋の草花です。
　　　
　秋風に震え、動きが鈍くなってきた蝶を撮らえてみました。
　　　
　かぼすの実も大きくなりました。
　　　
　朽ちた切り株から、キノコが顔を出しました。もう秋はたけなわです。
　　　
《尖閣諸島問題について》
　尖閣諸島問題について考えるとき、この二件の記事がとても参考になるでしょう。
・JMM海外レポート：大陸の風：波間のパワーゲーム：ふるまいよしこ
・論長論短 No.125：日中の間、国の間：宋文州
《2010.10.05 追記》
　公示停年まで四年を余しての退隠を惜しんで頂く仲間の誰彼から、様々な有り難いお申し出をいただいております。　事情からして今回の委嘱辞退は了とするが、来期以降に事情が許せば復帰し、終わりを全うしてほしいとも仰有って頂きます。　有り難いことです。　仲間の友情に感謝しています。

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