公益法人改革:衣の上の鎧

 衣の下に鎧が見え隠れするというのが普通であろうに、衣の上に鎧を着せて不思議と思わないのが、鑑定協会における公益法人改革なのである。地元会でも新公益法人への移行に向けた作業が大詰めを迎えているようで、新定款案が先頃示された。 新制度においても地元会は「公益法人※※不動産鑑定”士”協会」を名乗る意向である。 士協会の名称を名乗るにもかかわらず、正会員Aは県内に事務所を有する不動産鑑定業者なのである。
 士業併存組織であるからには、やむを得ないと言ってしまっては議論が先へ進まないし、何よりも現在より一層のこと公益性を重視するというのであれば、株式会社などの営利法人(鑑定業者)を会員資格のトップに据えることはあるまいにと思うのである。


 さらに、一般法人でなく公益法人移行を選択する所以は、何よりも固定資産税評価、相続税評価そして地価公示、地価調査等のいわゆる公的評価において入札による業務委託を避け、随意契約を選択されるよう求めたいからであり、その為には公益法人を名乗る方が有利と考えるからである。 それは日本不動産鑑定協会においても都道府県鑑定士協会においても多少の認識差はあれ同様なのである。 同様である所以は、協会及び士協会における、それらいわゆる公的評価関連収入が総収入に占める割合を見れば一目瞭然なのである。
 自らの業務根幹を為す公的評価業務の入札制移行を阻止し、随意契約制を維持したいと考えることは、あながち非難されることではないと考える。 しかし新公益法人制度移行の根幹はやはり公益事業なのであり、それは不特定多数即ち、国民、都道府県民、市民へどのようなサービスを提供できるか、鑑定士としてはいかなる情報をいかなる方法で提供できるかに懸かっていると云えよう。 そしてそのことは究極の処、情報開示の拡充に他ならないと考えるのである。
 にも関わらず、ご親切にも(お節介にも)鑑定協会が先頃示した士協会モデル定款(案)は以下の様に会員資格を例示しているのである。(2010.09.08:企画委員会発)
士協会モデル定款案 第5条 当協会の会員は次の4種とする。
(1)正会員(A) ○○県内に事務所を有する不動産鑑定業者
(2)正会員(B) ○○県内に勤務地を有する不動産鑑定士(ただし、前号の不動産鑑定業者の代表者を除く)
(3)特別会員  不動産鑑定評価又は公益法人運営に関する学識経験者又は不動産鑑定評価について経験豊富な者で、理事会の承認を得た者
(4)賛助会員  当協会の目的に賛同し、事業を賛助するために入会した個人又は団体
2 勤務先を有さない不動産鑑定士で○○県内に住所地を有する者は、前項の第2号会員となることができる。(以下略)
 このモデル定款案の言わんとするところは、新公益法人の構成者は、鑑定業者並びに鑑定業者所属鑑定士なのであり、事務所を持たない鑑定士は「第2号会員となることができる」存在なのである。 これが鑑定業者団体でなくしてなんであろうかと茫猿は言うのである。 営利法人で構成する公益社団が良くないと言うのではない。公益事業の遂行を目指す営利法人が集合して公益社団を構成しても非難されることはないであろう。 しかし、営利法人が集結して、自らが営む主要営利業務の安定的かつ有利な受託を目指すとすれば、それがなんで公益法人なのであろうかと指摘するのである。
 これぞ衣の上の鎧と揶揄するのである。 いわゆる公的評価業務の安定的維持拡大を望むのであれば、それを第一目的とするのであれば、「一般社団法人」移行を目指すべきであり、資格者団体として(現状は資格業者団体である)あるべき姿を希求するものとして評価されようと考える。 欺瞞に満ちた組織変更は究極のコンプライアンス否定とも云えるのである。
 この問題は根深い問題だから、もっと丁寧に多くを語るべきなのかもしれないが、もう茫猿は疲れました。 業容を縮小し名目上の事務所を維持するに過ぎなくなった茫猿は、今や地元会にも居場所が無くなりつつあります。 来年度が始まるまでに、茫猿に残される選択肢も限られてきました。
 委員会出席のために出向いた岐阜市内、県庁前にて(公孫樹)
 
 県庁前広場にて(南京黄櫨)
 
 今日の朝焼け(2010.11.19 06:00)
 
 

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公益法人改革:衣の上の鎧 への4件のフィードバック

  1. 後藤雅文 のコメント:

    業界の良心として苦言を呈し続けて下さい。鑑定業界はお相撲さんの世界と違うことを示して行かないとこの先はないと思うのですが。公益法人化、相当に甘い展望で進んでいると私も当静岡について危惧しています。

  2. bouen のコメント:

     続けてくれと申されても、茫猿は今や絶望しています。
    公益法人化問題は、4年前には企画委員会に所属していたこともあり、「新公益法人へ移行」で思考停止している鑑定協会の現状を機会ある毎に指摘してきました。しかし、「既に決まっていること。」とか「公益法人移行は当然のこと」などと返答されて、茫猿の指摘は歯牙にもかけられませんでした。 願わくば、鑑定協会や士協会の望む方向で公益法人へ移行してほしいと思っていますが、予断は許されないと思います。
     かんぽの宿に代表される「依頼者の不当な働きかけ問題」についても、Rea Reviewを神戸会長宛に提案してから既に4ヵ月、その後に目新しい進展は見えません。
    総じて受け身姿勢に過ぎると思いますし、危機管理能力を疑いますし、リスクテイク意志が見あたりません。 地価公示に存亡の危機が囁かれているというのは、そのまま固評にもつながるのだという危機意識がほしいのですが、無い物ねだりのようです。
     このような様々な問題は、鑑定協会や士協会の執行部を責めるだけでは何も解決しません。 会員一人一人が自らの問題として、自らの頭脳で真剣に考えることが求められると考えます。 執行部の有り様は、すなわち会員一人一人の有り様を反映するものだからです。 だから絶望しているのです。 鑑定士が茹で蛙になるのでなければよいがと杞憂しているのです。

  3. 高椅雄三 のコメント:

    真面目さと熱意に敬意を表します。
    10年程前からお気に入りに入れて全てのコメントを見ています。
    鑑定士のブログとしては唯一、見るに値するブログだと思うからです。
    業界の存立基盤を厳しく見つめなおす姿勢に敬意を表します。

  4. bouen のコメント:

     書生論に熱くなるのが若者ならば、
    書生論を楽しめるのが老境であろうと思います。
    書生論はいずれにとっても、青春と存じます。

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