島早春賦Ⅱ

美術館の次に向かったのは、心臓音(クリスチャン・ボルタンスキー)、島キッチン(安部 良)、空の粒子(青木 野枝)などである。
心臓の鼓動アーカイブは、美術館が視覚アートと云うならば、聴覚アートとでも云えるものである。海に面した松林のなかに小さな建物があり、中には心臓音に合わせて電球が明滅する部屋や、世界中から集めた心臓音が聴ける視聴室、さらに希望する者は自分の心臓音を採録する録音室で構成されている。


静かな浜に面して建てられている心臓音である。風景にとけ込んで好ましいたたずまいである。 心臓音の部屋に入ると、薄暗い部屋に心臓の鼓動音がこだまし、鼓動に合わせて一つのランプが点滅している。 それだけであるが、人の鼓動を聴くということは、非日常的な体験である。 また視聴室で知り合いの鼓動音を聴くというのも面白い体験であった。

アーカイブ館の海側に築かれている石垣は、島産の石を用いて島独特の斜め積みがされている。この積み方は棚田の石垣などに用いられており、島の随処で見ることができる。

アーカイブ館前の浜はあくまで静かである。この浜は王子ヶ浜と云うそうである。王子と云うからには、熊野古道の王子と同じく修験道に連なる名前であろうか。惜しむらくは松枯れにあった松が伐採されることなく放置されていることである。それさえなければ美しい浜である。

島キッチンは、食とアートで人々をつなぐプラットフォームとして作られた。出会いを生む広場を設計し、人々をもてなすための作品をつくることで、島を起点に人のつながりを広げようという試みである。  芸術祭期間中は東京のホテルと提携するレストランが毎日営業されていた。現在は金土日営業が続けられている。 広場の中央に位置する柿の古木は印象的である。《島キッチンBlogはこちらから

島の浜で見掛けた蛸壺の列。アート作品ではないけれど、浜を前に山を背景にして整然と並べられているとこれもアートに見えてくる。 蛸アパートと呼んでは、いかにも通俗的なので、なにか佳いキャプションを考えてみたい。 例えば、『あなたの心を預かります』とでも呼んでみようか。

島の浜では、鉄製のオブジェが陳列されていた。 実は海苔養殖イカダに使われる定置用の碇なのである。蛸壺といいイカリといい、何やらアートに見えてくる。『矛を納めて』などと呼べば如何だろうか。

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