新スキームの行方-2

最近の新スキーム(取引価格悉皆調査)に関わる事柄を考えていて、『鄙からの発信』に掲載した近年の関連記事を読み直してみた。改めて、茫猿の指摘はそれほど的はずれではなかったと安堵している。 しかし、安堵というのも奇妙なことでもある。一連の動きは鑑定業界にとって、その根幹を揺るがす大事件なのであり、《少なくとも茫猿は、そのように考えている》、指摘が的はずれでなかった云うのは自画自賛行為に過ぎず、茫猿の指摘が的はずれであればこそ鑑定業界は安泰なのである。


以下に、関連する記事の掲載目次を示してみる。 読者にお時間があれば、お目通しして頂ければ幸いなのである。
第45回総会  (2009年6月18日 03:10)
新スキームが全面施行されて既に三年になります。いつまでも新スキームという呼称ではなかろうと思われます。調査の実態を的確に表す表現、例えば不動産センサス、せめて取引価格悉皆調査などという表現を採用される時期に至っていると考えます。
いわゆる新スキームは確たる法政令などに基づかない、いわば「砂糖細工」のスキームです。いつ何時どのように変わってしまうかもしれない脆いモノです。この脆さについて協会役員の多くは正しく認識していながら、会員にその本質を伝えようとしません。 だから、茫猿は実態を表す呼称に変え、さらに事実上の標準(ディファクトスタンダード)として社会に認知されるスキームに転換してゆかなければならないと提唱するものです。《部分抜粋》
新スキーム(名)を捨てる時  (2009年6月20日 20:27)
不動産取引悉皆(全数)調査または不動産センサスという当該事業にふさわしい名称を与えるべきなのに、新スキームという内輪でのみ通用する呼称・名称に、いつまでも寄り掛かっていることはすなわち、鑑定業界の内向き性格を如実に表していると思われるのである。 この点を指摘すれば業界筋は、「所管庁にお考えがあるようですから、いずれそのうちに」とお答えになる。
鑑定協会自らが、”社会に認知される”、”社会に認識される”名称を用いるべき時期にある。 事業の実態を正しく説明する呼称である「不動産取引悉皆(全数)調査または不動産センサス」等を社会に自らが提議して定着させるべき時期に来ていると考える。 だから”新スキーム”という事業略称名を捨てる時と云うのであり、パラダイム転換を果たすべきと申し上げるのである。《部分抜粋》
地価データの有効活用  (2010年4月 1日 08:42)
悉皆調査(新スキーム)はその当初から社会的存在であり、その蓄積である地価データは社会的資産と云わなければならない。 その社会的資産を社会に有益な情報として還元してゆこうとする姿勢こそが、今の鑑定業界に求められるものであり、そのことが鑑定評価のすそ野を広く大きく育てるものであり、同時に鑑定評価の精度という頂きをさらなる高みへと導いてゆくのであると述べた。
さらに、2010年度のNSDI-PTは外部有識者を含めたプロジェクトチームに再編成され、悉皆調査結果の社会還元モデルを構築することに着手すべきであろうと考える。 その研究テーマは悉皆調査結果を基礎とする地価推移の傾向分析並びに予測モデル等の構築を行うことにあり、その成果をWebサイトを通じて世の中に問うことが鑑定業界の為すべきことであろうと考える。《部分抜粋》
不動産のリスクマネージメント  (2010年4月14日 05:39)
不動産リスクマネージメント研究会を開催する国交省土地市場課は「不動産取引価格情報開示事業」の主管課である。価格情報開示制度の目標とする一つが、「リスクマネージメントの一環としてデータの明確化を指向し、不動産市場に関するデータベースの整備・充実を推進すること」にあると読みとることができよう。
この指向するところの詳細は、2009年度報告の公表を待たねばならないが、不動産取引価格情報開示制度(鑑定業界で云ういわゆる新スキーム)が目指すところは、不動産市場に関するデータベースの整備・充実にあり、単なる取引事例の収集と開示に止まるものではないのは言うまでもない。
不動産鑑定業界では未だにこの制度を”新スキーム”という内部にのみ通用する名称で呼び、鑑定評価に必要な基礎資料である「取引事例の収集」という一面からのみ捉えているように思える。 だから、事例資料の管理のみに関心があり、閲覧や開示について閉鎖的であり、なかには収集に伴う費用や役務負担をことさらに取り上げる傾向が強い。《部分抜粋》
遺す言葉  (2010年7月30日 02:01)
2.鑑定業界の為とか、地元の士協会の為などと考えない方が良い。
鑑定評価という業務は、地価公示を始めとする鑑定士の協同作業(事例等評価基礎資料の協同作成)の上に成り立っている業務である。いわば [One for all,All for one] の世界である。とは云え斯界の為とか、地元士協会の為などというお題目は疲れるだけである。先ず自分のためを優先すべきである。 ただし、目先の自己中心主義はいただけないし、斯界の協同作業を乱すだけであろう。 自分の為とは云っても、高い戦略目標としての”自分の為”である。 間違っても、業界のためなどというお題目を唱える必要はないし、そんな唱えは欺瞞である。
3.せめて五年、できれば十年追いかけるターゲットテーマを持ってほしい。
自分の為、結果として斯界の為にもなる、そんな戦略目標を持ってほしいし、高く掲げてほしいと思います。
もう一点付け加えれば、デジタル化の進展は否応なく鑑定評価という商品にコモディテイ化を招くものであり、であればこそ、『フラット化する世界 』のなかでフリードマンが説く次の一節に納得させられるのです。
医師、弁護士、建築家、会計士などの知的職業にたずさわるアメリカ人は、人間同士の微妙な触れ合いに精通しなければならない。なぜなら、デジタル化できるものはすべて、もっと賢いか、安いか、あるいはその両方の生産者にアウトソーシングできるからだ。
バリューチェーン(価値連鎖)をデジタル化でき、切り分けることができ、作業をよそで行えるような活動は、いずれよそへ移される。 誰であろうと、自分たちの付加価値がなんであるかを、見据える必要がある。《部分抜粋》
融解する地価公示(Evaluation No.39)  (2010年11月 9日 04:14)
地価公示は鑑定評価である。すなわち地価公示に認められる問題点は即鑑定評価の問題点であるとも云えるのである。
一、電卓利用もままならないアナログ時代に始まった鑑定評価であるが、今や電算利用はおろかネットワーク利用が当然であるデジタル化時代に、相応しい評価制度設計となっているかどうか再確認が求められている。 それは悉皆調査の実施と相俟って大量データの統計学的処理という、従来とは次元の異なる評価スタイルの導入も視野に入れられるべき状況下にあると云えよう。
一、PC利用が所与となりデジタル・オンライン納品が進められている地価公示は、ややもすればデジタルリテラシーが優先し、不動産鑑定士としてのリベラルアーツが何処かに置き忘れられているという憂慮されるべき事態も垣間見えている。《部分抜粋》
ReaNet接続の全面開示を求める  (2010年11月13日 01:00)
提案者は、新スキーム試行当時からネットワーク構築を提唱しそれはReaNetとして現在に至っております。さらに三年前にNSDI-PTを提唱し、以後その実現に向けて微力を傾注しております。NSDIとは「National Spatial Data Infrastructure」の略称です。地理空間情報のインフラということです。
ReaNetもReaMapもインフラ整備の一環なのであり、先に提唱しましたRea Reviewも広義のインフラ整備です。Rea Reviewがなぜインフラかといえば、それがKnowledge managementツールとして位置付けられるからです。 鑑定評価業務においては、取引事例にはじまる事例収集も、多くの要因資料収集も、それらの整理管理も単独では為し得ず、協同作業を前提とするのが鑑定評価業務の特殊性であり、他の資格業種と大きく異なる特性です。
Rea Reviewもそれが機能し始めれば「Client Influence Problem」問題に対応するものに止まらず、広くKnowledge managementツールとして機能するであろうと予測されるからです。
Rea Net、Rea Jirei、Rea Map、Rea Review といった鑑定業界に必須のインフラが整備され一元的に運用されるときに、鑑定業界の業容底辺が拡大し底上げされると期待されるからこそ、先ずはReaNetの全会員加入が待たれるのです。《部分抜粋》
取引価格情報開示制度の行方  (2011年6月 5日 03:49)
一.新スキーム負担と受益の均衡化施策
Mr.Xの言うフリーライダーを排除し、調査を担当する公示評価員と調査済み事例を利用する受益者との間の不均衡を是正するためには、Rea net-Rea Jirei を拡充するのが近道であり合理的であると考える。
いわゆる三次事例(新スキーム事例)も五次事例(公示等作成事例)も、その閲覧はRea Jirei による閲覧に限定する。 限定することによりRea Jirei のLog(閲覧記録)を利用して閲覧利用に伴う課金を請求すればよいのである。
この手法は「ReaNet接続の全面開示を求める」記事にその一端を示しているのであるが、要するに事例閲覧を希望する会員は鑑定協会が提携するクレジットカードを登録し、カード会社は閲覧Logを基にして会員に閲覧料のカード引き落としすればよいのである。 この方法を採用すれば鑑定協会における事務負担はほとんど発生しないのである。
事例作成役務を提供した会員には、集められた閲覧料を作成件数に応じて配布すればよいことである。 この際に士協会毎の閲覧料の多寡とか、個々の事例における利用頻度などをどのように配分するかが問われることであろうと予想されるが、取引価格情報開示制度の本質は鑑定士の協同作業であり、近視眼的閲覧頻度とか利用価値などは無視すべきであると考える。 すなわち取引事例なるものは網羅性にこそ意味があり、個々の事例の有用性とか限られた期間における利用価値などは捨象すべき事項であると考えるからである。
Rea Review制度やRea Jirei制度提案に一瞥も与えない役員や会員が多いことは承知している。しかし、現実的でないとか、意味が理解できないとか批判する会員に限って、無意味な精神論や倫理論を言うだけであり、実現可能な実効性有る対案を示した例を、茫猿はかつて知らないのである。《部分抜粋》
新スキームの行方  (2011年6月23日 17:17)
新スキームのあり方が話題になっている。しかもスノビズム的〔snobbism〕に話題になっている。どういうことかと言えば、さる6月1日に公表された不動産鑑定業将来ビジョン研究会報告書のⅢに明らかにされている。
報告書のⅢは「ビジョン実現に向けた取り組みの提案」を行っており、(1)研修の充実、(2)情報・データベースの整備、(3)取引価格情報提供制度(新スキーム)を通じた事例情報の収集・管理・利用体制の整備、以下(14)項に至るまで縷々述べられている。
幾つかのお題目はお題目として、見逃せないのが(3)項なのである。(3)項はこのように述べている。『取引事例を始めとする個人情報の安全管理について、データの取扱い可能な範囲を明確にする必要がある。その際、地価公示の鑑定評価員が事例作成のコストの多くを負担しているという観点から、鑑定業界の中での適正なコスト回収策として透明性の確保された閲覧制度等を構築し推進していくことがポイントとなる。』《部分抜粋》
国交省組織改編  (2011年6月28日 19:30)
さて、この組織改編公表を受けて、先の新スキーム特別委員会(2011.06.20発)の説明資料を改めて読めば、その背景がよく理解できる。 すなわち、以下の記述について「国交省は斯くの如く考える」と前置してみればよいのである。《部分抜粋》
総てを読み切るのは大変だろうし、そんな酔狂な方も珍しいから、肝と考えるところを抜粋してみたのである、お読み頂いて如何であろうか、指摘の適否などはどうでもよいことである。 関連記事一覧には示さなかったが、茫猿は新スキームに関わった当初から「新スキームが内在させている問題点」を指摘し続けてきた。2009/06開催の第45回総会からでも既に2年が経過している。 まさに茫猿遠吠の二年間であり、七年間なのである。 この問題がどのように落ち着くか、予断は許されない。
改めて知らされるのは、ことは鑑定協会と士協会それに所管課などという小さなレベルではないのであり、鑑定評価並びに不動産取引情報に関心を有する総てに関わることなのである。この期に及んで、無関心を装う多くの鑑定士諸氏、的確な情報を示そうとしない鑑定協会執行部、まさに溶解(メルトダウン)する新スキームであり地価公示である云えば、言い過ぎだろうか。 瓦解は始まったときには、そうとは見えないのが通例である。後日振り返れば、「あの時が始まりだった。」と気付かされるものである。リスク管理とはその予兆に気付くか、気付かないかに懸かっている。
そういえば、鑑定協会には緒方新会長を委員長とする「危機管理対応特別委員会」なるものが設置されている。他にも鑑定評価業務適正化特別委員会(委員長:今西芳夫常務理事)も存在するし、当然のごとく新スキーム特別委員会(委員長:後藤計氏)も設置されている。 さらに常設委員会として地価調査委員会(委員長:小川隆文氏)、情報安全活用委員会(委員長:磯尾隆光氏)が存在する。対応すべき組織が幾つ存在したところで、組織いじりに終始していれば混乱を助長するだけであろう。
平成23年度事業計画に認められる、鑑定協会執行部の当面関心事は、Ⅰ.新公益法人制度への対応、Ⅱ.連合会体制への移行対応、等々が列挙されⅧ項に至ってようやく「取引事例をはじめとする情報の安全管理と利用の透明性の確保」が示される。 地価調査委員会にしても、列挙事業項目の第5項に至って「新スキームの方向性、鑑定評価員の負担軽減と受益者負担の検討」という項目が見えるのみである。
肝心な新スキーム特別委員会は短く次のように述べている。
将来にわたって取引事例を収集し、一般鑑定に利用できる体制を維持するため、新スキームで収集した事例資料の安全管理と利用の透明性についての改善策を検討する。
全てにわたって、事業優先順位を改めるべきではなかろうかと思われる。ことは鑑定評価の根幹を形成する事例資料に関わることであり、地価公示の行方を左右することである。さほど大きくない鑑定協会の資金力並びに人的パワーの総てを注ぎ込んでもよかろうと思うのであるし、左様に気付かない理事会であれば、まさに無用盲腸理事会なのであろうと考えるのである。
新公益法人問題や連合会問題は総会審議事項としては決着をみているし、移行期限である平成25年11月までは、まだ二年以上の時間余裕が存在するのに比べれば「新スキーム問題」は喫緊の課題であり焦眉の急であろうと思われる。 時に応じて事業優先順位を大胆に変更するのも政治なのである。鑑定協会運営も畢竟するところ政治なのであり、政治は結果責任が問われるのだと役員諸氏に指摘しておきたい。
当然のことであるが、この数年間の役員諸氏の不作為を責めてみても何も始まらないどころか、事態を紛糾と混迷の坩堝(るつぼ)に落とし込めるだけである。とはいってもこの数年間、協会の中枢にあった方々の率直な御感想を伺ってみたい気もするのではあるが。
振り返ってみれば、この数年の間、茫猿は警鐘を鳴らし続けてきたような気がする。そして、その警鐘は虚しく闇の中に消えていったと思うし、今もまた理解されることなく喧噪という霧のなかに埋もれてゆくのであろうと思っている。 でも茫猿の今は、痩せても枯れても協会理事なのである。 やるべきこと、言うべきことを為さなければ、茫猿が批判してきた無作為役員諸氏の轍を踏むことになってしまう。2009年第45回総会における茫猿の質問を再掲しておきます。二年間を無為に過ごさせてしまった慚愧の思いを潜めて再掲します。

 いわゆる新スキームは確たる法政令などに基づかない、いわば「砂糖細工」のスキームです。いつ何時どのように変わってしまうかもしれない脆いモノです。この脆さについて協会役員の多くは正しく認識していながら、会員にその本質を伝えようとしません。 だから、茫猿は実態を表す呼称に変え、さらに事実上の標準(ディファクトスタンダード)として社会に認知されるスキームに転換してゆかなければならないと提唱するものです。

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新スキームの行方-2 への2件のフィードバック

  1. 福田勝法 のコメント:

    まさしく、SSSですね。”頂門の一針”。失礼ながら、獅子吼をお願いします。

  2. bouen のコメント:

     コメント氏がふれられている「SSS」とは、茫猿が以前から不動産鑑定士に不可欠な3Sと述べてきたSSSであろうと思います。ご記憶頂きお礼申し上げます。
    ・市場と情報に対するセンサー【Sensor】が鋭敏であること。
    ・あふれる情報を取捨選択できる柔軟で豊かなセンス【Sense】を持つこと。
    ・専門家としての矜持を胸に、筋目を糺すスピリット【Spirit】を持つこと。

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