国会図書館にて藍色書簡

 過日、国会図書館へ向かった理由はただ一つ、我が鑑定協会の代表に就任された緒方瑞穂氏が今をさる二十数年前に発行され、今は絶版となって入手できない歌集「藍色書簡」を読むためである。 幸いなことに、国会図書館法のさだめる納本制度によって、我が国の出版物は国会図書館に収蔵されているのである。 国会図書館の書誌検索システムによって探せば、「藍色書簡」は収蔵されているという。 我が(社)日本不動産鑑定協会の代表者がまだ若き時とはいえ、どのような創作活動を行ったか、同書を読めば氏の人となりを知り得ることも多かろうと考えたのである。
 国会図書館では、一般者入館手続きを行い所定のICカードを入手した上で、書籍検索を行って閲覧請求をして待つこと暫し、図書カウンターに目的の図書が届きましたとモニターにカード番号が表示されたから、図書を受け取って所定の閲覧場所にて、閲覧を行ったのである。


◆先ずは、検索して貸与された書籍
歌集:藍色書簡  緒方瑞穂著 S60.06.24 布井出版刊行
【著述された歌を読む前に】
 藍色の布カバー装幀がなされた歌集を開けば、まえがきも序もなく、いきなり歌が目に入るのである。 初頁から歌を読み始めて、ふと刊行への著者の想いはと考えて末尾を見れば、「あとがき」が記されている。 先ずはあとがきを紹介する。
◆あとがき
 短歌は創作でなければならない。 事実ありのままや、身辺瑣事は歌わない。
いかなる結社、集団にも属さない。 このような信念で時時、思いついたように歌を作ってきた。
 指導者や批評者を持たない常で、作品には多くの独断や誤謬が認められよう。 しかし謬りもまた偏頗な信念の報いである。 それはそのまま読者の判断を仰ぐことにした。
 この歌集が、長年の逡巡に決心をつけさせてくれた東京布井出版の上野幹夫氏の助言によって生まれたことを感謝する。  S60.05.01 緒方瑞穂
◆そして、収録された歌である。 なかで、筆者が印象に残った数首を転載する。
 暮れなずむ  隘路を行けば  情念の焦がれる  思いまた  生《あ》れにけり

 あかねさす  真昼の夢は  束の間の  無惨となりて  蝉時雨降る

 夜霧に  街は籠れり  戻るべき  空間座標の  原点いずこ

 大正の 情緒《さんちまん》  よみがえり来て  電気ブランは  炎の琥珀

 百日紅  美しき火事燃ゆるなか  否定詞ひとつの  書簡を得たり

 婚姻序曲《マリアージュ》  驟雨のごとく鳴り  燦爛として  青年の屍ひとつ

 こころ深き  暗礁こえられず  わが真夏すぎゆく  藍色書簡

 
『そして、筆者の読後感』
 著者が、あとがきに記すように、掲げた歌は事実や身辺に生じたできごとを歌ったものではなかろう。似たような思いを若き日に味わったにしても、著者が述べるように歌の背景は創作であろう。 その創作の幾首かをならべてみれば、そこに一つの物語が浮かんでくる。 この紡がれた物語のあらすじをどのようにふくらませて、一編の戯曲にするかは、読者の思いのままであろう。
 時は夏の終わり秋の初め、場所は異国のバザールの片隅かそれとも廃墟の近く、横浜の元町裏通りあたりでもよかろう。 過ぎゆきた想いを抱えた旅人ひとり、酒場の隅で傾ける杯ひとつ、数刻前に届けられた短い便りを、ほの暗い灯りのしたで読みいっている。 遠く聞こえるマリアージュを聞き流すその胸に浮かぶのは・・・・。
 以上は、筆者の勝手な読み方である。著者の意に添うものかどうかも判らない。でも書籍は著者の手を離れたときからは、読み人の思いのままである。まして歌は読み人しだいである。 とても興味深い、失礼ながら面白い歌集であった。花鳥風月などを期待した訳ではない。先入観なしに読ませて頂いて、好きなようにふくらませていただく佳い時間を過ごさせて貰いました。
 このような紹介も著者の意にはそぐわないかもしれない、でも著者は「それはそのまま読者の判断を仰ぐことにした。」と述べていることをたよりにして、記事にさせていただきます。

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国会図書館にて藍色書簡 への1件のフィードバック

  1. 緒方 瑞穂 のコメント:

    若書きの歌にお目を留めていただき、汗顔のいたりです。
    もはやこのような歌のことなど、考えてはいませんが、
    茫猿様の読後感には興味を覚えました。
    さまざまな読み方ができるのは、読む人の能力と感性によるものです。
    それにしても、作者の好みと読者の好む歌は違うものだと、
    改めて認識しました。
    私が好きなのは、これ。平凡ですが。
    真蒼なる月かかる夜は 戈壁(ゴビ)の野の騎馬民族をわが祖と思う
    天鵞絨(びろーど)の肩暖かく陽に濡らし 毒草園に瀕死の恋待つ
       → チェーザレ・ボルジアのことです・・・。

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