新スキーム問題の現状

新スキーム改善問題をテーマとする士協会会長会議は頓挫したと言ってもよかろう。少なくとも大かたの士協会会長に理解が得られたとは認められない状況にある。 ただ広く意見を聴取する士協会会長会議と、会務執行について審議決定する理事会とでは構成比が異なるから、今月半ばに予定される理事会での審議状況はまた別のものとなる可能性も否めない状況にあると云える。
そのような状況のなかで、各士協会の意向を茫猿なりに取りまとめてみようと考えます。個別にヒアリングしたわけではなく、この数ヶ月間に様々な場面で様々にお聞きした話を総合すれば、各方面の意向はこのようなものではないかと集約するものである。


先ず会員全体数の40%を占める東京会であるが、目だった意見は聞かれない。 全国の事例資料が会員事務所端末からオンライン閲覧できれば結構なことであるが、士協会事務局まで出向けと言われるのであれば、現状と何ら変わることが無いのだから、特段の意見を言い立てる必要も無いのであろう。 わずかに懸念されるのは、地方圏の高額閲覧料に引きづられたり、オンラインネットワーク構築費や維持費の負担が高額になり、全国の趨勢からすれば低額な現行の閲覧料が引き上げられることである。 また無意味な喧噪が今以上に資料の閉鎖性を増す方向に導きかねないことも懸念されているようだ。
既にオンライン閲覧を実施する東京会や大阪会などの都市圏域士協会にとって重要なのは、域内会員の非正規利用の蔓延であろうと考えられる。 分科会交換資料などが非正規に流通することは、閲覧収入の減少につながるし、資料利活用の安全性担保の上からも見逃せないことである。 その意味からは安全性担保と透明性確保は重要な課題であると考えられているようである。
現にRea Net もしくは士協会独自のイントラネットを利用して、安全に資料の利活用を図っている士協会にすれば、現状を変更しなければならない積極的な理由は認められないと云える。 Rea Net 等による安全管理を施した利活用を既に実現しているのであるから、いまさらに新規の管理閲覧システムを構築しなければならない理由は認められないと言うのも頷けるものがある。 Rea Net に不備や不十分な点があれば、その点を改良すれば済むことであるというのも妥当性が認められるし、新規構築システムが高価なものと予想されるのであれば、不必要な負担には応じられないと云うのも理解できることである。
資料作成後、即座に閲覧に供したいという新規システム構築理由に対しては、一部士協会では現在でも月一回以上のデータ更新を行っており、これ以上の更新速度は費用対効果の面からも合理性が乏しいと主張する。(五次データの更新は納品確定後であるが、三次データのデータ更新頻度は士協会会長などに委ねられている。)
士協会構成員数が少なく、一県一分科会の小規模士協会にしてみれば、過去に問題を起こしたこともなく、現状のままで不都合な点も認められず、会員全体の共用に至る時間も特に不満はないのであり、費用負担も軽くない大仰なシステム導入に必然性は認められないと云うのも無理からぬことである。
総じて、鑑定協会の一元管理の必要性に幾分かの理解は示しても、鑑定協会が一元管理することにより今以上の費用負担を求められかねないことに懸念を示すのであり、さらには一元管理の名のもとに、自らが自主的管理する資料を手の届かないところへ持ち去られる不安や不満を払拭できないというのが現況ではなかろうか。
また、そもそも論として語られるのは、新スキーム改善問題が資料利活用の脆弱性を払拭するものであればともかくとして、この脆弱性を後回しにする改善には、その必然性も緊急性も認められないと云うのが大勢なのであろう。
それでは、そのような各士協会の意向を承知しながら、なぜ鑑定協会執行部は改善を急ごうとするのであろうか。 この点に関しても会長はじめ執行部の意向を忖度する以外にないのであるが、推し量ってみればこのようになるのではなかろうか。
一つは、昨年末から今年初めにかけて、所管庁から現行制度の改善について何らかの示唆を受けたと思われる。 現行制度発足以来五年間、試行からすれば七年間ものあいだ、問題点の指摘を受けながらも無為に過ごしてきたこの問題について、放置できないと認識するに至った働きかけがあったと思わざるを得ないのである。
一つは、現行スキームの対外的管理責任者は鑑定協会会長である。ところが現実の管理は各士協会に委託されており、全国的に見れば多元的管理状況にある。 安全性担保を指摘された時には、全国士協会の管理状況すら正確に把握できていないのが実情である。 同時に万が一の事態が生じた時には、トレーサビリテイすら実施できない状況であるから、早急な一元管理(リアルタイムな閲覧記録管理)の実施を希求するのも当然のことであろう。(現行Rea Net においてもLog管理は実施されているのであり、その一旦は閲覧者自身が自己の閲覧記録をReaNet サービス利用履歴から確認できるのである。)
一つは、各士協会が管理する資料は各士協会のものではなく、歴史的経緯からして士協会管理に委ねられているにすぎず、一歩譲ってみても資料作成の経緯や費用並びに役務負担に報いるために便宜上預託されているに過ぎないものである。この点を鑑定協会内部として早急に整理する必要があると考えられたのではなかろうか。(異動通知書閲覧申請書を発行できなくなった五年前に、新スキーム問題は端を発している。)
もう一つ見過ごせないのは、五次データはともかくとして、三次データについてそのディスクローズ状況が全国一律ではなく、随分と差があることを協会内外から問題視する向きが増えていることも指摘しておかねばならないであろう。
以上のように現況を整理してみれば、今必要なことはこれらの課題点を膝を交えて解きほぐすことではなかろうかと考える。 そう思えば、この半年間の喧噪も無駄なことではなく、課題点を洗い出すという観点からすれば意味あることのように思えてくる。
執行部がいかなる打開策を打ち出してくるのか、注目しておきたいのである。
茫猿は新スキーム問題は依頼者プレッシャー問題と根底を同じくすると考えている。両者に共通するのは、鑑定業界の情報に対する基本的な認識が時流に遅れていることであると考える。 レインズやウエブに増え続ける取引情報を云うまでもなく、情報の開示こそが時代が求めることであり、可能な限り情報は開示するという基本姿勢を共通認識とすることから出発しなければならないと考えるのである。 不動産鑑定評価が事例の独占や寡占性(囲い込み)の上に成り立った時代は過ぎ去ったのであり、情報の分析解明能力によって、市場にその存在価値(意義)を問う時代に既に至っているのだという認識こそが求められていると考えるのである。
不動産センサス制度創設提案 -1-
不動産センサス制度創設提案 -2-
Rea Review 制度創設提案
Rea Review Q&A
不動産価格・動向指標の整備
千載に悔いを残すな (2004年9月9日)

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