今、不動産鑑定協会並びに不動産鑑定士が直面している大きな問題は「社会の信頼性低下」にあるのだろうと考えますが、その大きな原因は依頼者プレッシャー問題や新スキーム改善問題を先送りしてきたことにあるのだろうと考えられます。
依頼者プレッシャー問題に関して云えば、依頼者から鑑定評価報酬を得ながら立つ位置を中立に堅持して鑑定評価書を発行するという不動産鑑定評価制度の根幹に、問題の根はあります。 依頼者が様々な示唆、教唆、依頼者の意向に有利なデータ提供などなど、多くの働きかけを鑑定主体に行うであろうことは容易に想像できることです。 しかしながら、この解決策は遅々として進まず、以前として鑑定士の倫理頼りに終始しています。
新スキーム問題に関して云えば、新スキームの試行が開始されてから既に七年余が経過しましたが、当初から指摘されてきた資料管理の安全性確保、資料利活用の透明性確保という二つの課題は、今年も先送りされました。
一.Client Influence Problem(依頼者プレッシャー問題)
依頼者プレッシャー問題は、著しく適切さを欠く鑑定評価が露見するたびに話題になり、懲戒処分等が課せられてきましたが、一罰百戒にて事は落着し鑑定士にその倫理高揚を促すのみでした。 根源的な解決策が講じられることなく、鑑定士の高い倫理観に期待するのみとも云えましょう。
鑑定士の倫理観を高揚するという考え方を否定するものではありません。 しかし、倫理意識に依存するという いわば性善説的な思考方法だけではなく 人が陥り易い落とし穴を如何にして回避させようかという考え方が求められていると考えるのです。
2011.08.26付 国交省土・建局長発 国土鑑第14号文書に応えるものである「鑑定評価業務の適正な実施の確保について」と題する鑑定協会長名文書が、国交省宛に既に発出されたものと思われます。 同文書は1.依頼者プレッシャー等を調査するための鑑定評価等監視委員会の設置、2.実務指針の見直し、3.依頼者プレッシャー通報制度の構築について述べています。
これで対策は十全かと云えば大きな疑問が残るのである。今回の懲戒処分対象となったような、いわゆる不当鑑定と称される類の事件は稀であり従来から対策が講じられてきたものである。 ここに云う依頼者プレッシャーとは「Client Influence Problem」と総称するものであり、鑑定評価が依頼者と鑑定士とのあいだ以外に情報が非公開(守秘義務)となることから生じがちな問題なのであり、通報制度とか倫理向上では根絶が困難な問題なのである。 だいいちに通報そのものが鑑定士の倫理観に依存する自主申告制度なのである。『関連資料:第285理事会配布』
Client Influence Problem(依頼者プレッシャー問題)を、どのように考えるかが問われているのであり、偶発的な不当鑑定に対処するという観点に立つのか、制度の根底に潜む信頼性に関わるリスクなのであり情報開示が必要という観点に立つのかで、その対応策は大きく異なるものとなる。
二.新スキーム改善問題と危機管理
新スキーム改善問題は、安全管理確保や利活用の透明性確保といった課題が、地方圏士協会を中心とする反対で頓挫し年を越したものである。先頃送られてきた2012.01.17理事会開催通知にも関連議題は上程されていないから、先行きはいまだ不透明である。
両者はその根底に共通する課題を抱えているというのはこのようなことである。
不動産鑑定協会にはリスクマネージメントの視座が欠けているのではと危惧するのである。 リスクマネージメント(危機管理)なるものは、危機が生じた時の凌ぎ方ではないのであり、危機を(事故を)起こさせないためというよりも、引き寄せないための日常管理なのである。
そこに倫理頼りでは何も生み出さないだけでなく、ただの思考停止に過ぎない。 事故による危機はいつか必ず発生すると予見した上で、その発生時の対処方法を予め用意しておくだけでなく、発生させないための日常管理(施策)を実施し続けることにある。
鑑定評価書の存在意義について熊倉副会長は「鑑定評価の成果は、依頼者にとって参考資料であり、利用者には第三者証明の有力資料です。地価公示は将来の地価動向を示唆する機能を求められています。」と述べ、新藤副会長は「鑑定評価書は、依頼者だけではなく、その背後にある一般市民・一般投資家・会社株主等々への公表又は開示を前提とした公益的性格が一層顕著なものになっています。」と述べられている。
このお二方の論旨を課題解決の背骨とし、より普遍的かつ確固たるものへと昇華して頂きたいと願うのです。「であればこそ、どうする。」という視点を求めます。
そして解決のための視座は、自らの利害得失ではなく(現在の会員)、次世代そして未だ見ぬ世代にとってより良き制度とはなにかという視座でなければならない。 自らには辛い解決策であっても次世代のためにより良き施策が求められると考えるのです。
『鄙からの発信』の提案
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