新スキームと取引価格情報提供制度

先の記事「地価公示と日本再生戦略」(2012.08.09)に記述する『不動産価格指数とは、国土交通省が実施する「不動産の取引価格情報提供制度」により蓄積されたデータを活用し、個別物件の品質を調整して推計した指数』という説明が判りにくいと考えられるので、若干の補足を加えます。

不動産価格の動向指標の整備に関する研究会(国交省)が平成24年2月27日付けで公表する説明資料62頁「情報の流れ」には、不動産鑑定士の関与部分が記載されています。それには「不動産鑑定士による現地調査」と記載されています。 地価公示スキームによる鑑定士の現地調査を背景として、不動産鑑定士が地価公示等の公的土地評価において取引情報の優先的利用が認められているのが現状なのです。《一般鑑定評価等への利用は流用とも云えるものであり、オーソライズされてはいない。 ただし、照会者宛の鑑定協会発依頼文書に断りは書き込まれている。》 新スキームなるものの実態はこの関与部分なのであり、この関与(現地調査)が地価公示スキームで行われているのです。

別の表現をすれば、この現地調査があるからこその「事例情報の優先的利用」なのであり、現地調査が鑑定士から離れれば、優先的利用のディファクトスタンダードは消えてしまいます。消えてしまったからといって、地価公示等の公的土地評価における鑑定士の事例情報利用が直ちに排除されることにはならないだろうと考えますが、現状とは大きく異なる利用形態になるであろうと考えられます。

であればこそ、「不動産鑑定士による現地調査」は他者の追随を許さない、意義有る確固たるものとしなければならないと考えます。 現地調査の精度及び速度は云うに及ばず、情報利用における情報の安全管理、情報の共同利活用の的確さ妥当さが求められると考えます。 さらに地理情報座標値の取得なども情報の精度向上に大きく寄与するものと考えます。 また現地調査に関与するからこそ実施が可能な情報の解析や、付加価値を大きくする事業もあると考えます。 当然のことながら、それらは国民に広く開示する公益事業として行われるものでなければなりません。

いま、不動産鑑定士協会連合会に求められているのは、『不動産鑑定士であればこその現地調査』なのであり、『不動産鑑定士なればこその情報の解析や付加価値拡大』なのであろうと考えます。 そして、それらの事業を主導することを通じて「不動産の取引価格情報提供制度」における不動産鑑定士の関与を強固にし、ディファクトスタンダードとしての不動産鑑定士の関与をさらに確かなものにしてゆくのであろうと考えるのです。

とは云うものの、昨年初めに新スキーム改善事業に着手して以来の一年半、情報の安全管理についても、的確かつ妥当な共同利活についても具体的な成果は未だに見られません。 ましてや、地理情報座標値の取得については何んの動きもありません。 そのあいだに「不動産の取引価格情報提供制度」により蓄積されたデータを活用し、個別物件の品質を調整して推計する不動産価格指数」の構築は着々と進んでいるのです。 取引価格情報提供制度の充実と不動産価格指数の稼働は、地価公示価格の位置を相対的に低めてゆきます。 実施が停滞していた公的土地評価の一元化は、事業の重複を避ける観点からようやく進められようとしています。

着手可能な対応策は限られていると考えますし、残された時間も多くはないと考えられます。 それでも、情報の安全管理、妥当な共同利活用、地理情報座標値の活用については主導的に進められる施策が多いと考えますし、国民にとって望ましい公的土地評価の一元化についても主導的に提唱してゆくことは可能と考えるのです。 今や業益維持などという視点は捨て去るべきであり、国民市民にとって望ましい地価公示、取引価格情報提供、不動産価格指数とは、どのようなものであるかという観点に立って、鑑定業界のあり方を考えてゆきたいものです。

そこからこそ、鑑定業界のプレゼンスは高められるのであり、社会の信頼感は増すのであろうと考えます。 そしてプレゼンス拡大と信頼感向上こそが一般鑑定評価需要も増してゆくものと考えます。  読者各位は、このような茫猿の考え方は迂遠であり、不動産鑑定士の負担ばかり増すものとお考えなのでしょうか、お伺い致します。

 

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