公示&選挙

2013.02.20 土地鑑定委員会は、平成26年地価公示分科会の担当区域及び所属可能な評価員の上限数を決定しました。 地価公示評価員の上限定数制が始まったのである。
(公社)日本不動産鑑定士協会連合会のH25年役員選挙は、いつのまにやら終わった。正副会長並びに大半の常務理事は無風のまま選任された。《東京選挙区及び東北選挙区はそれぞれ定数一名を上まわる立候補者があり、03/13〆切の投票が行われている。》

公示評価員の定員数とは、平成26年地価公示において、各分科会毎の所属可能な評価員の上限数をいうものである。 継続、新規の委嘱者は、それぞれの委嘱上限数の枠内で委嘱されるというのである。 委嘱可能評価員数は2,717名(継続委嘱2,583名、新規委嘱134名)である。この委嘱可能評価員数をH25年地価公示評価員委嘱数2,740名と比較すれば23名の減少であり微減だといえる。(最近の日鑑連会員数は5,679人である。)

しかし、この委嘱可能人数についてはひとつのカラクリがあり、総数は微減であるが継続委嘱者上限数でみれば約5%減ということになる。しかも委嘱可能な人数であり、必ずしも上限枠いっぱいに委嘱されるという保証はないのであり、あくまでも委嘱上限数なのである。 また、新規委嘱可能人数についてみれば、H25年公示における応募者総数2,810名、委嘱者数2,740名を比較すれば、委嘱されなかった応募者は70名に過ぎないから、新規応募者が大きく増えなければ委嘱者総数の減少も予想できるのである。
(注)継続委嘱可能者数については、70歳停年を迎える評価員も考慮すれば5%減も概ねは現状維持という結果になることも推定できる。 同時に高齢者の地価公示早期リタイアを願う声が囁かれるのかもしれない。

このH25年地価公示における応募者数と委嘱者数の差70名を詳細にみると、70名のうち50名は東京都が占めており、多くの地方圏においては明らかな過誤が認められない応募者は全て委嘱されているのである。《明らかな過誤とは、重大な計算過誤や事例の重複採用過誤などを指す。》

新規応募者が少ない地方圏においては、委嘱評価員数の5%前後の定数削減が行われるということになる。 地価公示が地価調査、相続税路線価評価、固定資産税評価等の公的土地評価と連動し、しかも評価業務全体に占める割合が高い地方圏においては、削減対象となる5%前後の評価員にとっては業務実績に直接関係する死活問題といえるのである。 公示評価書に重大な過誤があるのであれば、非委嘱もやむを得ない。 しかし明白な過誤が認められないなかで、相対的評価により公的土地評価から閉め出されることとなりかねない者にとっては、とても座視できないことであろうと考えられる。

これらの問題は2012.06に行われた「地価公示事業公開レビュー」当時から、予想されていたことである。 国交省平成25年度予算概算要求においては、地価公示について行政事業レビューの結果を踏まえ、地点数及び予算を10%強削減するとともに、外部有識者による委員会を設置し、制度のあり方まで含めた抜本的検討を行うとされているのである。 外部有識者委員会(地価公示のあり方検討会)は、まだ中間報告を示していないが、既に地点数の10%削減、委嘱評価員数の5%削減が始まるのである。

地価公示評価員の委嘱上限数を定めた土地鑑定委員会委員の一人は、日鑑連次期会長に再選が決定した「緒方瑞穂氏」なのである。 他にも、過去に鑑定協会副会長を務めた経歴をお持ちの石橋 勲氏(常勤委員)、都築武保氏を合わせれば土地鑑定委員会委員七名のうち三名が斯界関係者なのである。 だからといって業益を守れというのではない。 斯界の進むべき方向について時宜をえた適切な指示、示唆が見られなかったことを嘆くのである。

役員選挙が無風・無投票に終始したということは、業界の安定平和を示すものとして歓迎されるべきかもしれない。 しかし会員の死活問題につながりかねない地価公示改革、水面下では不満がくすぶっている新スキーム改善の方向性など、閉塞感が重苦しく立ち込めている鑑定業界が安定平和であるとはとても云えないなかで、無風選挙という事態をどう受けとめたらよいのであろうかと、茫猿は考え込むのである。

地価公示の(土地取引の指標としての)現代的意義について日鑑連は如何に考えるのか、公的土地評価等における地価公示の意義・役割について日鑑連は如何に考えるのか、地価公示の評価主体である鑑定士の組織体として、社会に鮮明にする義務を等閑にしてきたのではなかろうかと考えるのである。 取引資料を共有共通化しデジタル化が進んだ現在に於いても昭和40年代の複数評価制度を堅持する必要があるのか、地価公示のデジタル化ウエブ化は鑑定評価が本来有している鑑定士の意見表明という鑑定的側面を希薄にし、評価秤量比較的側面を肥大化させてきたのではないのか。

同時に取引価格情報の調査並びにその利活用に深く関わっている日鑑連であればこそ、 取引価格情報を不動産市場において如何にして有効に活用すべきかについて、組織としてその立脚する位置を社会に鮮明にする義務があろうと考えるのである。 取引情報というものについていえば、デジタル化やウエブ化が進むと云うことはコモデイテイ化が進むことに他ならないのであり、その認識を共有した上で自らの採るべき道を探さなければならないのである。 いわば、不動産鑑定士のレーゾンデートルが問われていると考えるのである。

気楽な立場の茫猿が『鄙からの発信』で吠えたてるのとは異なり、枢要な地位におられる方々にしてみれば軽々な物言いができないと云うことは十分に理解できる。 しかし、枢要な地位にあればこそ、座視や無為は許されないのであり、自らの所見、識見というものを具体的に明確に会員に問うことが待ち望まれていると茫猿は考えるのである。 然るに多くの会員自らが座視し無為に推移した結果が無風選挙なのだとすれば、それも「以て瞑すべし」なのであろう。

年度末が近いことから、「地価公示のあり方検討会」が中間報告を公表する時期も遠くないであろうと考えるが、「大山鳴動、鼠一匹」に終わるのか、さらなる改変が示されるのか、気に懸かるのである。 またH25年度は、不動産価格指数:商業地指数についての検討が始まるのであるが、現行の不動産取引価格情報調査を補完するものとして何が加えられ何が削られるのか、これもとても気に懸かることである。

《追記》
地価公示分科会幹事による評価員の相対的評価の実施(序列化)と、その評価も基礎資料とする評価員(5%)の継続委嘱停止は、鑑定士により鑑定士を制する措置であり、何やら植民地統治の鉄則を見る思いがすると云えば穿ちすぎか。

国際化業務や証券化業務等に特化しつつある鑑定士群、価格調査やデュ‐デェリジェンス業務等業際分野に特化しつつある鑑定士群、さらには公的土地評価の依存度が高まる地方圏域鑑定士群に、業界は分離分解しつつあると云うこともできよう。 そこでは、共通基盤とか共通利益というものが見出し難くなっているのである。

役員選挙のうち、東京選挙区では評価報酬額1,000百万円強、評価件数19,000件強を占めるS社(同社サイトから引用)の専務執行役員N氏が常務理事候補者として立候補されている。選挙結果を待たなければ軽々なことは云えないが、S社が鑑定協会運営に一石を投じようと云う現れなのであろうか。

 

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