技術力と技能力

2014地価公示の支援ソフト購入案内が届いた。2010年に地価公示等を引退してから既に4年になるから、今や無縁のDMではあるが、2014支援ソフトの説明を読んでいて職業人の技術力と技能力について考えさせられた。

技術と技能とは類似する用語であるが、ここでは技術=(デジタル)テクニック、技能=スキル《技術を利活用する能力 ひいてはスピリット》と云う意味で考えている。

某社の2014地価公示支援ソフトの前年よりの改善点は以下のように示されている。
・比準機能による標準化補正や地域格差機能の向上
・充実したデータチェック機能
・図面カードに貼り付ける位置図や地形図の作成・編集が可能
・評価書に適した事例をより早く、より簡単に選択

デジタル技術的な改善は、年々着実に進んでいるようであり、評価業務に精通するアシスタントであれば支援ソフトを利用して相当部分の作業が進められるようである。 各社の支援ソフトも競合しているせいか、技術的な進歩改善は遅滞なく行われており、評価業務の準備段階というかデジタル的な部分に於ける個々の鑑定士の能力差は小さくなってゆくと同時に、技術の普遍化あるいはコモデイテイ化も進んでいるようである。 別の表現をすれば支援ソフトを適切に運用するのであれば、評価業務のある段階までにおいて個々の鑑定士格差はさほど生じないであろうと云えるのである。 《評価の基礎となる事例資料は共同作成・共通利用であるし、比準作業に利用する比準格差表についても共同作成・共通利用が一般的である。》

つまり鑑定評価における評価部分のデジタル化はコンピュータ界の通例に洩れることなく、コモデイテイ化が進んでおり、誰が作業しても同じという状況になっていると云えよう。そこで求められるのは鑑定業務工程に於ける技能力、つまり技術を的確に利用してゆく能力如何ということになるのであろう。 iNetの進化と情報の普及は、情報の海に埋没する状況を生み出しており、情報の取捨選択能力や真贋の見極め能力が必須となっているのであるが、鑑定評価の世界でも同様のことが云えるのではなかろうか。

支援ソフトを駆使する能力が求められることは当然であるにしても、それだけでは差別化を図ることはできないし、不動産鑑定士であることの必然性も危ういといえるのであろう。 このことを簡単に言うことは難しいが、それでも具体的に云えば、取引事例における事情の有無とその程度の見極め、複合不動産に適用する配分法の的確さ、評価対象に応じた比準項目の適切な選択と比準格差の適正な判定、複数の比準結果について最適結果の選択等々、デジタル化の及ばない鑑定評価作業というものも多く存在するのである。 何よりも、決定した鑑定評価額について簡潔にして明瞭な説明能力というものも不可欠なのであろう。

言い換えれば、マニュアル化が可能な技術というものは普遍化し低価格化が進んでゆくのが必然なのであるが、属人的能力である技能力というものはマニュアル化が難しく伝承或いは継承並びに不断の習得錬磨に依存しているのである。 職人が職人である所以であり、専門家が専門家たり得る所以なのであろう。 iNet時代の簡便さに安住するのであれば、差別化を図ることは難しく、ネット社会のコモデイテイ化に埋没するほかないのであろう。

鑑定業界が直面している大きな課題は、まさにこのことではなかろうかと思えるのである。 鑑定と評価の差異然り、評価額決定に至る経緯の説明責任然りであろうと考えるのである。 デジタル化の対極に存在するアナログ的思考過程の巧拙であり、その説明責任なのであろう。

そのような梅雨空的話題はさておいて、庭に埋めてある大瓶にて育てているスイレンが花を開かせた。 陽が昇るとともに開き、昼過ぎには閉じてしまう梅雨時の清涼剤である。

梅雨空を忘れさせる涼風といえば、クチナシの香りもこの時機に心なごむものである。

昨秋植え替えたから、この夏の花付きを心配していたが、沙羅《夏椿》も白い花を幾つか開いている。 新しい場所へ無事に定着した模様である。

夾竹桃は満開だし、木槿もしばらくすれば花開くであろう。 胡瓜と茄子に万願寺唐辛子は次々と花を開き実を成らせている。 玉蜀黍にオクラ、シシトウ、トマト、夏大根、ブルーベリーなどなど鄙の陋屋は夏本番間近なのである。

もう一度話変わって、国交省・都市開発事業における効果的なPPP手法の検討委員会から報告書が公表されている。 都市開発事業における PPP(Public PrivatePartnership)手法を検討し、特に、民間からの資金調達手法として主に米国で採用されているTIF(Tax Increment Financing)制度に着目し、我が国で活用する場合の課題と方策について検討したとある。《報告書の概要はこちら》  鑑定評価の裾野を拡げる一つの分野として一読しておきたいものである。

 

 

 

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