技術力と技能力 Ⅱ:少子高齢化

先日アップした「技術力と技能力」と題する記事は、「神門善久氏著:日本農業への正しい絶望法(新潮選書)」に触発されたものである。 時を同じくして、デジタル化に伴う鑑定評価技術の進化充実と、並行して衰退する技能力というものを考えさせられる出来事に出会った。
『技術と技能とは類似する用語であるが、ここでは技術=(デジタル)テクニック、技能=スキル《技術を利活用する能力、あるいは技術というものに向き合う基本姿勢》と云う意味で考えている。』

先ずは人口推移予測と鑑定評価に与える影響並びに地価予測という問題である。
発端は、先頃、不動産カウンセラー協会が開催した「空家対策」をテーマとした公開講座についてである。 急速に進む少子高齢化のなかで、国土は「無居住エリア」と「可住エリア」に分かれ、前者では活用のできない宅地や空家が急増し、後者ではスマート技術を活用したコンパクトシティ化が進むであろうと予測されると云う示唆がSNSにて書き込まれた。

これについて茫猿は、「国交省・人口推移・予測で検索した結果」、ヒットした資料をざっと眺めて以下のような感想を得た。《総務省等予測によれば、2050年には総人口9500万人、高齢者が占める割合40%弱と推計されている。》
1.高齢者《65歳》で一括りされているが、一括りでよいのか疑問に思う。
2.「離島、中都市近郊住宅団地、中都市近郊農村集落、大都市市街地」のそれぞれに自身もしくは近親者が居住しているが、「高齢者のあり方と活力、居住者の意識格差」などに随分と差があるように感じる。
3.現在に於いても「高齢化への危機意識」を地域全体で共有されている度合いに大きな差が認められ、同時に僅かずつではあるにしても、現実のものとしてとられつつある対策の有無も問題である。

いささか抽象的であるが、高齢者世帯の存在を若年層が認知し、認識を共有している度合いに随分と差があると感じる。 SNSその他にて指摘される総てについて、既に現実のものとなっている地域から何を学ぶのか、同時に現実の問題化していない他の地域が、いかに支援するのかから未来が見えてくるように考える。 そして高齢化対策には高齢者の状況《過ごしてきた人生、収入及び資産状況》が、地域内でも一律ではないことから困難な問題が多いしマイナスイメージが強いけれど、比較して少子化対策《結婚、出産、子育て》は共通性が高いし、プラスイメージが高いと考えるのである。 高齢者である小生自身の実感として高齢者対策よりも少子化対策こそが喫緊の課題であり、優れた高齢化対策なのだとも実感している。

なお、筆者が云う少子化対策とは、結婚・出産・定住等の祝い一時金などの釣り餌で、第三次ベビーブームを引き起こそうなどと云うものや、ましてや産めよ増やせよ対策などではなく、若年層が結婚や子育てに安心感と希望を抱くことができるような対策であり、ひいては高齢者が安心感と希望を抱けるような対策である。 もう少し付け加えれば、グローバル化という美名のもとで進められてきた階層分化の進行を止めることであり、消えつつある中産階級を復興することであろうと考えている。

しかし、SNSのフォローコメントで見る限りにおいては、エリア《大字》毎の人口推移予測等をもって地域格差比準を説明しようと云うような、《技術的考察》に止まっているように見受けられるのである。鑑定評価が不動産を対象とする社会科学であるとすれば、人口の推移予測は地域社会の有り様から始まって、不動産の有り様に至るまで広汎な内容を含むものであろう。 単に地価推移や地域格差の変化などという問題に止まるものではなく、農地林地住宅地の有り様に影響するものであり農地林地及び宅地見込地などの概念にまで影響するものであろうと考えるのである。

離島や中山間地における限界集落の存在にとどまらず、都市近郊の幾つかの住宅団地においても限界集落化しつつある現状を、不動産の専門家としてどのように考えるかという、基本姿勢というか哲学になぞらえられるような考察が求められていると考えるのである。 そのような基本的な立脚点あるいは哲学を欠いた鑑定評価に如何ほどの意味があろうかと考えるのである。

折しも、(公社)岐阜県不動産鑑定士協会では、7月29日(月)に 第6回市民公開講座「人口減少時代の都市政策」~ドイツのまちづくりに学ぶと題して市民公開講座が開催される。まだ席に余裕があるようであり、「ドイツ在住の環境ジャーナリスト・村上敦氏」が講師であることから、多くの関係者が聴講することが期待される。

そして、鑑定士限定の会議ではあるが、2013年10 月18日(金)には第1回日中韓鑑定評価協力会議が名古屋市にて開催され、その第一分科会のテーマは「人口動態と不動産価格」なのである。 《会議詳細は日鑑連会員サイトにてご覧下さい。

「このテーマは技術力と技能力 Ⅲへ続く」 中古住宅市場活性化対策に関連して、地価情報と統計の利用に関連してなどについて述べてみたいと考えています。

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