コロナ禍を転じれば -1-

 新型コロナ感染症が禍(わざわい)であることは云うまでもない。禍福吉兆は糾える(あざなえる)縄の如しと云う。コロナの禍を転じて福と為す施策は無いだろうかと考えるのである。先ずは筆者茫猿の生業でありし不動産鑑定に関して禍転じて福である。

 先々号記事「新スキーム・制度創設当時: 2020年6月7日」で、事例資料のオンライン閲覧には根強い反対が存在すると記した。反対する側にも三分の理が有ること、都市圏域と地方圏との構造的対立などにもふれた。

 つい最近のことになるが、新型コロナ感染症対策でステイホームが求められ、都道府県境を越えての移動は自粛が求められた。そのことで不動産鑑定士は都道府県境を越えての業務が出来なくなってしまった。特に事例収集が難しくなり、なかでも都道府県士協会事務局を訪問しての事例資料閲覧が出来なくなってしまい、その対策としてオンライン閲覧が”緊急対策”として実施された。

 緊急対策以前の士協会事務局での閲覧も、事務局閲覧室から士協会パソコンを通じて連合会サーバにアクセスして閲覧するものであり、いわばアクセスPCを事務局PCに限定するスタイルのオンライン閲覧が、長年にわたり実施されていた。また都道府県各士協会所属会員においてはオンライン閲覧が、閲覧範囲を士協会エリア内事例に限って既に実施済みであったし、地価公示などの公的評価作業においてはオンライン業務が既に実施されていた。

 だから、セキュリテーを維持するオンラインアクセスは既に実施済みであり、個々の閲覧料金徴収もオンラインで行われていたから、緊急対策として全国オンライン閲覧(不動産鑑定士が各々のPCから連合会サーバにアクセスしての資料閲覧)が、容易に可能であった。つまり、都道府県士協会内部限定のアクセス制限を全国閲覧可能へと制限解除するだけのことであった。

 で有るから、この際に緊急避難措置を継続する常態措置にして欲しいと云う声が、澎湃として沸き起こるのは当然であり、今まで起きなかったのが不思議だったとも云える。単位士協会内部ならばオンライン閲覧が可能で有るのに、単位士協会枠を越えてのオンライン接続が何故出来ないのかと云うので有る。

 調査の現場が飛騨高山なのに、どうして資料閲覧の為だけに(しかもオンラインアクセスの為に)岐阜市内の士協会事務局へ出向かなければならないのか。、現場が釧路や旭川でも札幌の道士協会事務局へ出向かなければならない。

 漏れ聞こえてくる全国オンラインアクセスを制約する理由は、いずれも理解し難いものであり、噴飯ものとも云える理由で有る。
⑴ 目的外利用を防ぐと云う。 不動産鑑定士が鑑定評価以外の目的で事例資料を有料閲覧するとも思えない。研究目的の調査等であれば、然るべく方法が用意されている。

⑵ 個々の事務所閲覧ではセキュリテーが保てないと云う。 セキュリテー対策を講じたアクセスは既に単位士協会事務局での閲覧でも行われている。何よりも単位士協会内部では東京都をはじめとする大規模士協会内部でもオンライン閲覧が安全に実施済みである。

⑶ 多くの地方圏士協会の根強い反対が存在する。 閲覧させないと云うののならまだしも、閲覧”だけ”の為に単位士協会事務局へ出向かせるのは、「意地悪」にしか見えない。意味が理解できないのである。事務局へ出向く旅費負担、時間的ロスを考えれば、オンライン閲覧であれば、より多くの資料閲覧が可能となり鑑定評価の精度向上も期待できる。

 緊急対策ととして全国オンライン閲覧が実施できるのであれば、オンライ閲覧を常態とするのが時代の趨勢であり、鑑定評価の質的向上の為に目指すべきことであろうと考えられる。それすら出来ない、頑迷固陋旧態然たる反対論者を説得する努力を厭う事勿れ体質と云うものは、自ら進歩を遮る体質でもあろうと云えよう。

 「災い転じて福と為す」と云うのは、単に単位士協会内部でのオンライン閲覧を全国オンラインアクセスに転換しようと云うだけのことでは無い。これを機会に(a)公示標準地等だけでなく事例地の写真を閲覧開示データに追加したら良かろうと考える。標準地や事例地の写真撮影はほぼ必然であり、その撮影データを整理保存する為にもオンライン・クラウド保存は一般的であろうから、閲覧開示も特に難しいことでは無かろう。

 標準地や事例地の写真添付について茫猿は十年以上も前から提言しているが、一向に顧みられたことは無い。事例資料に付加価値を付け、評価の精度を上げようという試みに鑑定協会は関心が無さそうである。

(b)取引価格情報資料にいつまでも拘泥するのを改めたら如何であろうか。取引価格情報を蔑ろにというのでは無い。価格情報が大切なデータであることに今も昔も変わりはない。然し乍らデータ処理に関わる技術進歩は目覚ましいものがある。地理情報システムの進歩もデータの統計学的処理システムの進歩も目覚ましいものである。

 価格が含まれない取引情報即ち一次データは取引に関わる全数データであり、当初からデジタル化されたデータである。鑑定協会等には既に十年分以上の取引情報一次データがストックされているのである。このビッグデータについて地理情報システムを駆使した統計的解析を充実したら良かろうと考えるのである。

(a)は鑑定士個々の評価精度を充実し、説明資料も充実させるものである。(b)は鑑定業界全体として、AI処理をも含めて業界のバックアップし底上げを目指すものである。

《追記 2009.06.05の記事一部を引用再掲》
 先月末にネット経由で届けられた鑑定協会2008年度最終理事会報告のなかに、首を傾げる話が書かれていたのである。(2009.05.30頃の話)

「三次データの外部提供について」
 三次データの外部提供については問題点を検討のうえ慎重な対応が必要であり、提供する場合はルールを決めた上で行って欲しい。

 この話は取引事例悉皆調査結果のうち、三次データについて学術研究の用に役立てたいから利用したいという所管庁経由の申し込みについての、理事会等協議の顛末である。 理事会報告では「学術研究という名目で別途利用する場合もある。」などと開示に消極的であるのだが、何か基本的事項が押さえられていない話なのである。 

 この三次データなるものは、地価公示スキームのなかで国費を費消して得られるものであり、地価公示の仕様書にも国交省土地鑑定委員会の行う土地取引状況調査と明記されているし、鑑定協会は国交省から調査委託を受けて実施しているものである。 だから外部開示について鑑定協会が言揚げするものでは本来的にない。 国交省は調査委託先である鑑定協会に対して、紳士的にその可否を打診するものであろうと考えられる。

 その原則とか基本を等閑にして業益を優先し情報開示の流れに逆らうような議論に違和感を感じるのである。 地価公示と土地取引状況調査に関わる成果物の全部は国民の財産であるという基本認識の上に立った前向きの議論が好ましいと思うのだが如何なものであろうか。 とかく変わることに消極的な業界に気が重いのである。 何より消極的閉鎖的な対応を繰り返していると、そのうちに”業益優先、公益否認”とマスコミに叩かれる懸念も感じるのである。

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