夏には白い花が似合う。暮れなずむ光のなかにほのかに見える白い花は涼しげでとても好ましい。夏の陽射しと濃い緑と白い花の対比も美である。真夏の午後にふと気付くと、濃く長くなった日影を映して緑はいよいよ色濃く、、その深緑のなかの幾つかの白い花影が、秘やかな秋の気配を教えてくれるように微かに揺れるのである。
入道雲、青い空、麦わら帽子、白いシャツ、手作りの釣り竿、子どもの頃の遠い記憶である。旧盆が過ぎて、空が高く澄んでくると、夏休みも終わりが近くなる。庭の木々は緑いよ濃く、八月の日射しは木陰が長く陰影もくっきりとさせるから、白いダリヤやサルスベリの花をより鮮やかに見せてくれる。夏が往く、楽しかった夏が過ぎてゆくと、入道雲を見ながらなにやら寂しい思いに耽った記憶が何処かに残っている。
僅かに薄紅色が滲む木槿(ムクゲ)の花である。
夾竹桃(キョウチクトウ)の朱色も夏日に負けない強さを思わせるが、涼やかなのは白である。
木陰に見える梔子(クチナシ)の白さはたおやかでとても好ましい。
まだ花の時期が来ていないが、百日紅(サルスベリ)もその名のとおり赤い花が多いけれど、白も捨てがたい。
藪庭の樹は花を付けるに至っていないが、夏の白い花の王は「夏椿:沙羅双樹(釈迦入寂の沙羅双樹とは異種)」である。沙羅双樹の花の色 盛者必滅の理(コトワリ)である。
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