世間はクリスマス&忘年会の季節、鑑定士の多くは締め切り迫る地価公示業務に大わらわというところでしょうが、氷雨そぼ降る鄙里は閑かなものです。 舞い込んできた報せは年下の幼なじみの訃報だけです。 でも、業界外の知友とiNetからクリスマスプレゼントが届きました。
地理情報は進化しています。予想を上まわる速さで進化しています。 NSDI-PTに取り組み始めた2008年には想像も出来なかったことが、今やいとも簡単にサクサクと仕上がってゆきます。
市区町村単位とか、町丁目単位で作成されているデータを、なんの予備知識もなしで、地図上にビジュアルに表示できるようになっているのです。 驚いているのは世間に疎い茫猿だけで、読者の皆さんは先刻ご承知なのかもしれませんが、でも茫猿は驚いています。 そして、この外部環境の変化をどのように鑑定評価に取り入れてゆくのか、どんな種類のデータをどのように加工して地図上に表示するのかが問われていると思うのです。
国勢調査をはじめ、国や地方自治体が公開している実に様々なデータを、どのように加工分析するのか、そこから何を導き出すのか、そして、その結果をいかに判りやすく地図上に表示するのか、数字の羅列からは容易には見えてこないものを、引き出し(解析し)地図に表示することで判りやすく依頼者に説明するだけでなく社会に公開する、そんな時代にもう入っているのでしょう。
驚かされたGISツールは「ジオ·ヒューズ(ロケーションインテリジェンスツール)」です。
このツールを判りやすく解説しているのは「 INTERNET Watch :インターネット地図ウオッチ」に掲載されている「統計データを地図上に簡単に可視化できるツール Geo Fuse 」です。
このGEO-FUSEを使って、東京都区市部の不動産取引情報、過去五年間を地図に表示してみました。2012年取引件数は第三四半期までしか公開されていませんから、前年度の傾向値を基礎として、2012年取引件数は前年同期比による推計値を用いてみました。
東京都区市部の不動産取引件数の推移:2007年~2012年.PDF 《 tokyo-gis 》
(注)図中に「伝説」と表示されているのは、翻訳ソフトによる誤訳です。正しくは凡例です。
この程度のものは、見る方が見れば、お絵描きに過ぎないでしょうが、GIS素人でもここまで出来るということは、今やGISの知識や勉強はさほど問題ではないのであり、溢れている様々なデータを鑑定評価というよりも不動産市場解析資料として、どのように扱ってゆくのかが問われていると考えます。
もう一つ気付かされたことは、このように地図表示したことにより、基礎データから何を引き出すかが見えてくることです。 単なる各年毎の取引件数の表示では物足りないのであり、(a)前年対比プラスのエリアとマイナスのエリアを地図表示する。(b)件数と面積を加工して表示する。(c)用途分類されているデータを利用する等々、様々な展開も見えてきます。
各年毎の取引件数で八王子市が多いのは山林等の取引が多いのではと推定されますが、他にも理由があるでしょう。千代田区が少ないのは皇居の存在が多きことも自明でしょう。 次にデータが入手できれば、マンションの新築件数、取引件数、そして取引床面積などを地図に表示したら何が浮かんでくるのかは、これからの宿題にします。
《2012年12月23日 12:32 tzaemon さんからコメントを頂きました。 記事を読み込んだ頂いている、とても嬉しいコメントです。 察するところ tzaemon さんのGIS知識は、茫猿などよりも随分と高みにおられるようです。 コメントは長文なので、本文に転載します。》
いつも拝見させていただいております。情報のご提供、ありがとうございます。
それにしても、すごいことが手軽にできる時代になりました。
GISは大変強力なツールですが、これまでは元データの作成や、重ね合わせに当たっての座標系などの統一、そのほかデータ形式の変換など、利用するにあたっての敷居が非常に高かったように思います。近いことがグーグルアースでもできたかと思いますが、地図データ以外は各自用意しないといけないうえに、専用のデータ形式に変換する必要があったように思います。(主題図機能はなかったかな?)
ところが、このGEO-FUSEでは、表示したい元データの形状(エリア、ライン)を用意することがなく、その属性データをエクセルやCSV形式で入力すれさえば、結果が表示されるという点が、大変画期的かつ、利便性が高いシステムになっているように感じました。
つまり、電車の路線等のラインデータや、行政界等のエリアデータはいわゆる「あちら側」で用意されているということなんですよね。この点がまず大変ありがたい。
また、結果として表示したい形状データを自動的に判別してくれる点も見逃せません。ポイントデータは座標が要求されますが、項目名をcountry,cityとすると対応する行政区等のエリアデータとして、railnameとすると対応する電車の路線のラインデータとしてあちら側でマッチング処理をして自動判別され、結果として表示されるということなんだと思います。(どう処理しているのでしょう?項目名に対応したポイント、ライン、エリアのデータセットがあちら側で整備されているということでしょうか?それとも入力されたデータから自動判別しているのでしょうか?いずれにしてもすごい便利です。)
その他、ポイントデータについては、ヒートマップ形式の表示が用意されているのも便利ですね。ご指摘のように新築の着工件数や取引件数や建物取り壊し件数等を表示して年度間の分析をするとエリアごとの代謝の状況等も見えてくるのでは!等と妄想が膨らみます。
いずれにしても、一昔前まで高価なGISツールやデータを用いないと把握できないような情報が、だれでも手軽に手に入れられる状況になったのは喜ばしいことであると同時に、専門家としての立場からすると正直大変な脅威でもあります。
このようなITによる情報のコモディティー化が進む中で、専門家としての介在価値は、情報を収集、集約化し、わかりやすい形で表示することはもちろんのこと、個々のデータから明示されていない行間や因果関係を読み、またそれを予測や世の中で発生している問題解決にあたり説得力がある形でどのように生かしてゆくのかということなのだと思います。
これまで先生や清水先生がおっしゃっておられることを、私なりには現時点でそのように解釈しております。
まずは、個人でいろいろと模索しつつ、同時に自らが属する組織でいろいろと共有し、共に鑑定士の明るい未来に進んでいければいいなあと思いますが、最近は、この共有できる範囲でいろいろと思い悩んでおります。さしあたっては、深く考えず個人で掘りつつ、まずは近しい人や志と近しい人といろいろとやれればなあというのが自分の結論です。(tzaemon)
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