桜の話ばかりで些か気が引けるけれど、鄙暮らしの身であれば許されるだろう。居室の灯りを消して部屋の窓一杯に広がる夜桜を眺めている。年ごとに樹は成長し花の数も増やしているから、闇に浮かぶ白い花影を我ながら悦に入っている。
陋宅の窓越しに眺める今宵の夜桜である。雨雲が低く垂れている空模様であるだけに闇に浮かぶ花が鮮やかである。そこで駄句を幾つかひり出してみる。
・くるま椅子 停めて見上げる 桜かな《茫猿》
・花影や 幾多の顔の 浮かぶ宵《茫猿》
・やみ空に はなかげ白く 春ふける《茫猿》
・こぞ(去年)のはる きたる春とて 花に酔はむ
年に一度、陋宅の窓に写る夜桜を肴とするようになって、はや七度目の春が移ってゆく。春宵や値千金とはよくぞ言うたものよと、また桜を眺め直している。巡り来る次春にも変わることなく夜桜を前にしていたいものである。