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情報の開示と共有

 2011.02.23付 鑑選委第5号及び第6号にて、鑑定協会平成23年役員選挙の経緯(会員閲覧専用)が送られてきました。 立候補者が三名届けられた会長選挙に関わる経緯と、副会長三名並びに全地区無投票に終わった理事選挙結果についてです。 未確認情報で伝えられていたとおり近畿選挙区では定数8名のところ立候補者は6名であり、2名の欠員が生じるという結果でした。
 さて、鑑定協会公式サイトでは、「不動産鑑定業将来ビジョン研究会(報告)」が掲載されています。 ビジョン研究会ではA.新ニーズの整理・産業組織改革、B.グローバル化対応、C.依頼者プレッシャー対策が検討されていると報告されております。
 茫猿はこれら三つのテーマの内、C.依頼者プレッシャー対策について、先にパブリックコメントが募集された際に、コメントを投函しましたが、先日来報じられている「鑑定事務所家宅捜索事件」と今回の選挙に鑑みて、改めて上申書を事務局を通じて提出致しましたので、『鄙からの発信』に開示します。


 なお不動産鑑定業将来ビジョン研究会の統括責任者は緒方瑞穂副会長、同研究会責任者は新藤延昭副会長(新理事当選)、及び熊倉隆治常務理事(新副会長当選)の各位です。
「依頼者プレッシャー(Client Influence Problem)対策」について(上申書)
不動産鑑定業将来ビジョン研究会 御中
 貴研究会・Cチームにおかれては、将来ビジョン策定に関連して「依頼者プレッシャー対策」が、昨秋以来検討を重ねられていると承知します。
 小生は貴研究会のパブリックコメント募集に応募して、Client Influence Problem 対策として鑑定評価情報の開示に関わる「Rea Review制度創設」を提案させていただいた者ですが、先月に公表されたパブコメ報告では、この提案が「Cチーム」の項にではなく「ニーズ」の項に分類されており、投稿コメントの趣旨が的確に伝わっているや否やを危惧しております。
 また昨今話題の旧かんぽの宿に関連する鑑定事務所家宅捜索事件などに鑑みて、改めて「依頼者プレッシャー対策」について上申させていただきます。
(1)依頼者プレッシャー(Client Influence Problem)なるもの
 評価依頼者が鑑定評価報酬を支払うという契約態様からすれば、報酬支払い者が自己にとって都合の良い評価書を期待するのは責められないことであり、その是正について不動産鑑定士の倫理性のみに期待するのは、不動産鑑定士にとって過重な負担とも云えます。 このことは国土法届出といわゆる第三鑑定に関連する経緯を思い起こせば十分であろうと考えます。
 過大な評価を強要したり過小評価を強要したりするのは論外ですが、日常的に自己に都合の良い「匙加減」を依頼者が期待することは止められず、同時に不動産鑑定士がそれに可能な範囲で(閾値を超えない範囲で)応えようとするのもまたやむを得ないことと考えます。
 そこに不動産鑑定士の高度な倫理性のみを期待するのは、的はずれとも考えます。
特に、評価業務が潤沢に市場に存在する時ならいざしらず、既往の業務が縮小しつつあり、評価報酬の縮減も進みつつある昨今においては、依頼者とのあいだに強固な信頼関係を築いている一部の鑑定業者を除けば、評価業務獲得のためには閾値に近づいても業務受託を遂行しようと云う鑑定業者並びに不動産鑑定士のみを責めることはできません。
(2)不動産鑑定評価なるもの
 あえて原理原則を申し述べますが、不動産鑑定士なるものは不動産鑑定評価の社会的公共的意義を理解し、その責務を自覚し、的確かつ誠実な鑑定評価活動の実践をもって、社会一般の信頼と期待に報いなければならないものです。
 また、不動産鑑定評価はその結果を通じて、適正な不動産価格の形成に資するものでなければならないと考えます。 すなわち不動産鑑定評価は閉ざされたものではなく、その情報が広く社会一般に開示され共有されねばならないと考えます。 先ずは不動産鑑定評価書に関して情報開示の原則を確立すべき時期にあると考えるのです。
 当然のことながら、不動産鑑定士等には法第6条において「正当な理由がなく、鑑定評価等業務に関して知り得た秘密を他に漏らしてはならない。」とする守秘義務が課せられています。 この守秘義務は、一義的には依頼者に対して、次いで職務遂行上知り得たその他の秘密について保持が課せられていると解することができます。
しかし、「正当な理由」すなわち「依頼者が開示を承諾すれば」評価書に関わる情報開示と情報共有は可能であろうと考えます。
(3)依頼者が評価書の開示を承諾する正当な理由とは
 個人的依頼者を除く多くの評価依頼民間企業は評価書等の開示を行うべき正当な理由が存在していると考えられます。 評価書の開示は企業のコンプライアンスの根幹を為すものであろうと考えられるからです。
 JREIT然り、私募債然り、時価会計然り、現物出資然りでしょう。企業が自らの社会的存在である意義や意味を考える時に、企業活動に伴って求めた不動産鑑定評価を広く利害関係者に開示することは、責務であると言ってもよかろうと考えます。 提案するこの評価情報開示制度は社会が依頼者に求めるCSR(Corporate Social Responsibility)に応えるものであると考えます。
 官公庁が求める不動産鑑定評価書は、その公共的意義からすれば、もとより情報開示が原則であろうと考えられます。
(4)不動産鑑定評価情報開示の時期と方法
 情報開示が原則といっても、まさに取引の渦中にあるときに情報開示を行えば初期の取引目的を果たせない場合も多くあるだろうことは論をまたないものです。 ですから開示は事後における開示約定で十分であろうと考えます。 評価書の発行後、三カ月後から一年後の然るべき時期に開示が為されれば、当面は初期の目的が果たされようと考えます。
 開示の方法は、
a.評価受託契約時に依頼者から「開示時期を記載した開示承諾書」を受け取る。
b.評価書納品交付時に、鑑定協会が用意する公開サイトに評価書データを送付し、データ受理届を受け取る。(この時点では、評価書データは非公開である。)
c.鑑定業者は交付する評価書に「開示データ受理届」写しを添付して発行する。
※鑑定評価書に「開示データ受理届」が添付されているか、否かが、評価書のステータスを決めるものであると同時に、それ以上に依頼者のCSR・ステータスを明らかにするものと考えます。
(5)情報開示システムの具体的な例
a.開示承諾を得た鑑定業者は、評価書交付前に開示システム(以下、Rea Reviewと称する)に開示所要事項を入力し、同時に評価書をPDFファイル化して送付する。
受理したRea Reviewは、折り返しメール添付PDFファイルにて受理届を鑑定業者に交付する。
b.情報開示その1
 情報受理と同時に、Rea Review:開示情報一覧サイトに、一部の開示予告情報を掲載する。 掲載項目は、受理日付、物件所在地、Rea Mapにリンクする地理情報、種別類型、詳細公開予定日付 等であり、依頼者名及び受託鑑定業者名等は要検討課題である。
c.情報開示その2
 開示予定日付に至った評価書PDFファイルはRea Reviewにて全面開示され、鑑定協会会員のみならず、利害関係者、さらには広く社会全般からのレビューを受けるものとなる。 一般開示は開示後三年程度とし、以後は保存ファイルとして鑑定協会が管理し、必要に応じて開示すればよい。
d.開示資料の活用と共用
 開示評価書には様々な共用が好ましいデータが含まれているものであり、それら入力データをデータベース化することにより、会員が情報を共有し今後の鑑定評価書の精度向上に資するものとなろう。(ここに緯度経度等地理情報が付加される意味も大きいのである。)
e.情報開示システムの維持費用
 システムは特殊なプログラム構築を必要とせず、現在稼働しているRea Netの機能を拡充すれば事足りるものである。 強いて言えばレンタルサーバの容量を必要に応じて拡充すればよいだろう。
(6)開示に伴うノウハウの流失
 評価書の開示は鑑定業者固有の重要なノウハウが流失するという懸念が言われますが、本当のノウハウは鑑定評価書に記載されるものではなく、その紙背にこそあると考えます。
 流失の懸念が存在するのであれば、その部分を秘すれば良かろう。また事例等基礎資料について守秘すべき事項は適宜マスキングすれば良かろうと考える。 同時に、開示システムに掲載される鑑定業者は自らのステータス誇示につながるものであり、開示に伴うパブリシテイ効果は大きかろうと考える。
(7)依頼者のコンプライアンス
 評価書の開示は、評価依頼業務担当者レベルにおいては、さほど好ましいものではないかもしれません。 しかし、企業経営者レベルにおいては「企業のコンプライアンスあるいはCSR」をアピールする絶好の機会であろうと考えます。 いわば情報開示企業であろうとするのか、非開示閉鎖的企業であり続けるのかという選択なのです。
別の表現をすれば、Rea Reviewはマイナス情報の開示ではなく、プラス情報の開示を行うものであることに大きな意味があると考えます。
 ここに鑑定協会が大きなクサビを打ち込む意味があり、ひいては鑑定評価に対する社会の信頼並びに信用を勝ちとる方法なのであろうと考えます。 ですから、鑑定協会は「評価書開示原則確立」を社会にアピールして「企業コンプライアンス」を促すという広報が求められるのです。 この広報には、証券取引等監視委員会をはじめ、金融庁、総務省、もとより国交省の支援が不可欠でしょうが、理解は得られるものと考えます。
(8)鑑定評価依頼と入札問題、または低廉報酬問題
 Rea Review制度の創設は、ただちに入札問題や低廉報酬問題を解決するものではありません。 しかし、開示登録を前提にすれば、その評価業務内容との関連から、極端な安値入札や低廉報酬受託は避ける方向に向かうであろうと考えます。
 いわば、「安かろう杜撰だろう」は市場が淘汰するであろうと考えます。 ひいては秩序ある鑑定評価受託競争(報酬低廉競争から評価書の質的競争へ)に向かってゆくであろうと考えます。 細部については検討課題が幾つか存在するであろうと考えますが、本提案すなわち「鑑定評価書を開示して下さいと、社会に対して提言する提案」を一度俎上に乗せていただきたく上申致します。 (以上)
 さて、茫猿は会長を除いてこの度決定した新役員並びに現役員の諸氏に当サイトを通じて、以下の提案を申し上げたいと考えます。
『新旧役員諸氏への提案』
1.鑑定評価の有用性がなぜ薄れたのか、お考え下さい。
2.鑑定評価の信頼度がなぜ低下したのか、お考え下さい。
3.それを復旧させる具体策はなにか、お考え下さい。
4.それらの糸口として「この鑑定評価書」を、お読みいただければと存じます。
 重責を担われている、あるいは担おうとされる各位に対して、はなはだ失礼な問いかけであることは重々承知しています。しかし、鑑定協会が現在直面している「依頼者プレッシャー(Client Influence Problem)」について真剣に考えることは、協会役員たるものにとって何よりも重要な喫緊の課題であろうと考えます。
 「依頼者プレッシャー(Client Influence Problem)」対策について考える時に、不動産鑑定士の倫理に期待しているだけでは、問題の先送りに過ぎないであろうと考えます。 Client Influence Problem を考えるときにも、Corporate Social Responsibility を考えるときにも、先ず検討されるべきなのは、情報の公開と共有であろうと考えます。
 今こそ鑑定業界の閉鎖性を打破すべきであるし、世慣れた現実論を排すべきときであろうと考えます。ですから、あえて積極的な情報開示制度を提案公表して、会員各位並びに関連業界や社会一般の批判を仰ごうとするものです。

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