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新スキーム問題の根源:寄稿

八月にカナダ・ブリティッシュコロンビア大学(The University of British Columbia)へ赴任される清水教授から、新スキーム問題の根源に関わるe.Mailを頂きました。 清水教授からは広く鑑定士のあいだで共有してほしいというお申し出を頂いておりますので、寄稿として掲載させて頂きます。
鑑定士の方は是非ともご一読頂き、この問題の根源がどこにあるのかについて理解を共通にしていただきたいと思います。 せめて、問題の根源が何処にあるのかの理解を共有するところからしか、この問題の解決方向は見えてこないと思われます。


《以下、清水教授からの寄稿です。》
日本の仕事が,8/2の都市計画審議会だけとなりました。復興関係の会議のため,どうしても出ないといけないので,審議会に出た後に,成田に向かいます。
「不動産鑑定」か何かにまとめないといけないと思っていますが,長文のため,先生方の関係者で共有いただく,または,森島先生のホームページでアップしていただく,など,以下の情報を共有してください。

「以下,e.Mail 本文です。」
新スキームの設立に参加したものとして,あの時の論点をまとめます。私は,たまたまリクルートの立場で参加しました。規制改革会議では,都市再生WGで議論が行われ,リクルートの当時の河野社長が副主査を務めましたので,社長の代理で参加してほしいという要請があり,実質的に私が作文を含めて行いました。

それを引き受けるに当たり,リクルートでは,私の下に,リクルートの顧問弁護士と臨時に雇った弁護士を複数入れたプロジェクトチームを作りました。常に,リーガルチェックを受ける必要があったためです。私個人でやったのではなく,弁護士にきちんとサポートしていただきました。それも複数の弁護士にです。大きな会社ですから,それだけの資金力がありました。

その時の議論の発端と論点は,下記のとおりです。
1.士業に対する規制改革の中で,不動産鑑定士,士協会は,独占禁止法違反の疑いがあると指摘された。士協会が事例を囲い込み,その士協会に入ることに協会員の推薦が必要になっていることが原因だった。
その議論が出たときに,そもそも取引事例とは何かが出ました。そうしたところ,

2.そもそもの事例が,公示地価という公用利用のために集めているのに,なぜ士協会が保有しているのか,という指摘があった。また,なぜ民業に利用しているのかといったことが指摘された。
その作成プロセスがチェックされた時に,

3.法務省から固定資産税課にわたっていた登記済み異動通知書の仕組みそのものが,法違反であることが判明した。
ということの三点が論点となりました。

そのような批判から守るために,国交省は,「情報整備と開示」の社会的重要性の論点に切り替えて,新スキームの構想を作りました。「透明で中立的な不動産市場の整備」だったと記憶します。

公示地価そのものの存在の必要性に関しても議論されました。
今でも鮮明に覚えていますが,答弁に立った地価調査課の方が,規制改革委員会で,「あなた達は,日本の地価公示制度に基づく情報整備システムを崩壊させるつもりですか」と怒鳴っていました。それくらい,必死に,皆さんを守ろうとしたのです。言葉が強すぎたので,規制改革委員会の委員から,あの担当官をどうにかしないといけないなど,個人的にも責められてしまいました。結局,国交省を退職されたのです。

まず,2,3の改革から着手しました。3については,国交省が地価公示法に基づき,法務省から0次データをもらうことに切り替えました。0次データが利用できなくなり不便ですが,そのような背景があったのです。

2については,アンケートの主体が国交省となり,その中で,一般鑑定への利用を明記するということとしました。ここは,岐阜県モデルが参考となりました。
当時,岐阜県では,県の名前でアンケートが発送されていることを知っていました。そのことで,回収率が高いということも知っていました。そうであれば,国交省がアンケートを出すことがいいだろうという判断をしたのです。そして,アンケートに一文入れることで,鑑定にも利用できるようにするということを考えました。ドイツではアンケートではないですが,公証人が取引価格を,税務当局と州統計庁,鑑定協会に届けることとなっていましたので,その制度も参考にしました。

最後に,取引価格の登記簿への掲載も行おうとしました。ここは,法整備まで進めようとしたのですが,途中で,公益性が不明確ということで,実現ができませんでした。

今,私が座長を務める「不動産価格指数」の委員会で,法務省の方にも入ってもらっていますが,その議論の中で感じていますのは,登記に不動産価格が強制的に載るような欧米型のシステムを作ることは,私が生きている間には実現できないということです。

2については,詰めの甘さがありました。アンケートの中に入れればいいというように,弁護士と相談し,すすめたのですが(ただし,一名の弁護士がグレイだといっていました),その明記の仕方が,「鑑定士協会」からの「お願い」になっているということです。これを本文に入れるような努力をそこでしておくべきでした。

実は,1の独占禁止法違反は何も防御ができませんでした。どうして,鑑定士だけが事例を持つことができるのかということです。
当時の土地市場課の方が考えたのは,「不動産価格情報とは,価格情報があるだけでは駄目である。公法上の規制や最寄駅,そこまでの距離などの属性データがあって初めて情報である。その情報整備を不動産鑑定士が行うので,鑑定士協会で保管していく」というものです。とてもいいアイデアだと思いました。しかし,弁護士からは,ここも黒に近いグレイといわれました。

以上が,10年近く前になってしまいますが,当時の記憶です。
出発点が,このようなところにありできてきたシステムです。国交省で一生懸命,皆さんを守ったのです。
規制改革会議,仕分けなど,政権が変わるたびに,いろいろなことが将来も出てきます。そのようなときに,どのような批判からも耐えうることができるスキームにしておかないといけないというのが,現在の国交省の担当の思いです。

議論の出発点を間違えてしまうと,なかなか合意形成が難しいと思いました。
・元の固定資産税課で転記してアンケートをする方式に戻したほうがいい
→3の議論からありえない
など,出発点を変えれば,いろいろなことがわかれはずです。

どうぞ,次世代の鑑定士が安心して仕事ができるスキーム作りをしていただければと思っています。今から,出発の用意をするため,返事が書けなくなってしまいます。
落ち着きましたら,きちんと当時の資料を整理してまとめます。
どうぞよろしくお願いいたします。
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清水千弘:Chihiro Shimizu
麗澤大学経済学部 教授
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《以下は、清水寄稿を受けての茫猿の感慨です。》
2004年当時に新スキーム特別委員会に関わっていました茫猿は、この問題の根源は個人情報保護法ほかにあろうと考えていました。この時期に多くの関連記事を掲載しておりますが、なかでも「千載に悔いを残すな」は、今にして思えばよくここまで書いたなと思われます。

さて清水氏からの寄稿を私なりに要約すれば、4Kに集約できます。
1.国民共有資産(共有:KYOUYUU)
新スキーム即ち「不動産取引価格情報制度」に関わる基礎データは法務省提供データであり、同時に同調査には国費が投ぜられているものである。それらは国民共有資産であることを再確認することから始まる。

2.情報開示要請(開示:KAIJI)
新スキームの背景には、不動産価格情報開示に関わる閣議決定がある。
2004年03月19日付け閣議決定「規制改革・民間開放推進三カ年計画」のなかで「取引価格情報の開示」は重点項目とされている。

3.安全性担保(機密性保持:KIMITU)
新スキームの背景には個人情報保護法が存在する。 重要な個人情報でもある不動産取引価格情報には高度な安全管理措置が求められている。

4.一部士協会の閉鎖的管理(公正取引:KOUSEI)
不動産取引情報は鑑定評価に欠かすことのできない基盤資料であることは云うまでもないが、不動産取引価格情報制度に関わる個々の事例調査は、地価公示スキームのなかで地価公示受託評価員(不動産鑑定士)が担当しており、その負担は重いものがある。この重い負担について軽減策や代価支払いを考えなければならない。

同時に応分の負担(閲覧料)のもとに鑑定士が等しく受益を享受すべきものでもある。閉鎖的管理は許されないと知るべきである。 また2項との関連からも、広く社会的な開示の方向性を堅持するものでなければならない。
《この問題に精通しコアポジションに在るであろうと推量される匿名氏から、厳しいコメントが寄せられています。惜しむらくは、解決への処方箋に具体性がやや乏しいのが残念です。》

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