鑑定士修了考査-4

鑑定士修了考査解答案を記事にしようと思ったキッカケは、福田勝法氏、武藤正行氏が不動産鑑定士協会連合会記事をFBシェアした書込みに悪戯心《遊び心》を刺激されたからである。 三次試験を受験したのは半世紀近くも昔《1972年・第7期》のことであるし、現役を退いてからでも七年も過ぎているから、まともな解答案が記述できるとは思ってもいないことである。頭の体操と云うか、現役を離れた気楽な身であればこそ書けることもあろうと云う気軽な思いでの挑戦であった。

日本不動産鑑定士協会連合会の修了考査委員会が1月12日(金)に公開した、第11回修了考査・論文式の考査のテーマは、このサイトから確認できる

設問1は老兵にも向き合えるけれど、設問2の意味が不明で、日本語としても回りくどい悪文である。回りくどさに落とし穴があるのだとすれば、何をか言わんやということでもある。特に「各試算価格の説得力を判断する観点から、各試算価格に商業地としての市場参加者の行動原理がどのように反映しているか具体的に述べよ。」と云うの設問の意味するところが愚昧には理解できないのである。

【 設問2 鑑定評価額の決定に際し各試算価格の説得力を判断する観点から、あなたが行った案件に即し、各試算価格に商業地としての市場の需給動向と市場参加者の行動原理どのように反映しているかを具体的に述べなさい。なお、記述の冒頭であなたが判定した最有効使用を記載しなさい。 】

そこで出題者を確認したいと考えて不動産鑑定士協会連合会サイトを確認してみたけれど、修了考査委員会の委員名簿等は開示されていなかった。公認会計士協会は出題委員名簿を公開している。不動産鑑定士の社会的存在感《&責任感》を高めたいのであれば、開示を検討すべきであろうと考える。さらに模範解答を読んでみたいものである。せめて解答指針くらいの公開が待たれるが出題委員名簿すら開示していないから、期待するのも無理なことであろう。

◎さて、商業地市場参加者の行動原理とは何を云うのであろうか?
◎行動原理が比準収益両価格にどのように反映されていると云うのであろうか?
◎それが各試算価格の説得力にどのように反映すると云うのであろうのか?
正直なところ、自信ある解答が思い浮かばなかった。【鑑定士修了考査-3】記事に記載した内容は、思い浮かぶままの苦し紛れと云うのが妥当なところである。

一般に市場参加者の行動原理とは、投資行動に伴うリターンとリスクを天秤にかけて、ローリスク・ハイリターンを選択し、ハイリスク・ローリターンを排除するものであろう。不動産はその有する自然的特性として固定的であって硬直的である。人文的特性として、可変的であってかつ伸縮的であることに、他の財と異なる市場特性を有する。同時に、市場参加者の行動原理も不動産市場特有のものが認められるのであろうか、リスク負担に特に留意するであろうと考えるが判らない。なお不動産のリスク特性は利回りに特に反映されるものであろう。

インターネット不動産市場の開発普及により、従来に比べれば随分と開放的にはなったとはいえ、一般的に不動産市場は閉鎖的であり情報は偏在し非対称的である。一生に一度か二度しか参加しない当事者《供給者及び需要者》にとっては優しいものではない。

投資収益物件市場もまた閉鎖的であるが、J-REIT市場は比較的開かれており、投資法人の資産 の取得及び譲渡について不動産鑑定評価書概要も含めて開示されている。また投資収益物件市場参加者の大半は、市場練度が高いものとされている。
投資信託協会】サイトより会員各社のサイトにアクセスできる。
銘柄一覧 】、【 利回り一覧 】その他の開示情報については、前記サイトを参照。

リスクとリターンは比例するものである。ローリスク・ハイリターンは市場参加者の皆が期待するところであるが、同時に競争が高くなるから、現実にはローリスク・ローリターンに落ち着く。そこで敢えてハイリスク・ハイリターンに挑戦する者が時に大きな成果を獲得する。いわば虎穴に入らずんば虎子を得ずである。ハイリスク・ローリターンは論外であろう。

比準価格試算過程にリスク判定項目は存在しないが、敢えて言えば事情補正項目が該当するであろう。買い進みと評価主体に判定される補正率が需要者にしてみれば「市場価格の騰貴」を予測するものであるかもしれないし、「売り急ぎ補正率」は価格の騰落を予測するものであるかもしれない。いずれも安易に補正されるべきものではなく、取引当事者は正しく市場の先行きを見通しているのかもしれない。

収益価格が将来生み出すであろうと予測される純収益の現在価値の総和である以上、試算過程には将来予測が避けられず、収入項目も必要諸経費項目も予測の確実性が問われる。また還元利回り等の利回り判定には将来のリスク判定が避けられない。このリスク判定に際して参照する類似事例資料には市場参加者の行動原理が反映していると云えよう。

証券化対象不動産の鑑定評価に関する実務指針  】
《恥ずかしながら、この記事を書くまでは実務指針など、退隠の身には必要が無いから読むこともなかった。終了考査設問はこの実務指針を熟知していなければ何も書けないのである。》

3収益還元法   (2)DCF法  8)予測《実務指針より引用》
収益費用の予測には不確実性が伴うために、予測主体によって判断が大きく分か れることも少なくない。証券化対象不動産の鑑定評価においては、当該不動産の価 格が、将来において獲得することができるであろう収益を見通した上での収益性及 び投資採算性を基準として形成されることを前提に、合理的に行動する典型的な市 場参加者が収益費用の将来動向をどのように予測して行動するかの把握及び分析に 努めなければならない。

9 )各種利回り
また、予測時点において入手可能な情報を有効に活用し、客観性と合理性を有する予測を行うことが重要であり、予測に関する判断が、典型的な市場参加者が合理的な判断のもとで行うであろうところと整合するように、市場参加者の動向を常に注視しながら鑑定評価を行う必要がある。

なお、最終還元利回りは、一般的には、以下のリスクが想定されるため、価格時点の還元利回りより大きくなる場合が多いと考えられている。
① 期間の経過による不動産の価値下落のリスク
② 保有期間後の純収益の見積もりリスク
③ 売却等に係るリスク
《設問の意図するところは、①〜③について如何に考え、如何に試算価格に反映させたかを、具体的に述べよと云うことであろうか?》

さて、さはさりながら、投資収益物件市場などと云うものは、大都市圏域に偏在するものであり、長く地方圏域に居住する者にとっては垣間見ることさえ叶わない話である。

「不確かな将来予測と欲望に支配される拝金主義市場」と「社会における適正な価格の在り処を追求する不動産鑑定評価の存在意義」は互いに相容れるものであろうかなどと、異なる次元に足を踏み入れそうである。

これ以上、この種の問題に関わってはますます馬脚を現すだけだから、ここらで筆を置くとする。なお、以下の記事は実務指針を踏まえて書き直すべきであろうが、もはやその意欲は無い。
鑑定士修了考査-1】 【鑑定士修了考査-2】 【鑑定士修了考査-3

《雪の朝  切り撮り》
北陸や東北・北海道の豪雪に比べれば、薄化粧であろうが、当地もこの冬初の積雪である。雪景色と云うものは、非日常であり、非日常であるが故に心躍らせる。このようにモノトーンの風景を楽しめるのも、毎日が日曜日だからである。これから、タイヤにチェーンを巻いて出勤する身であれば、楽しんでもいられない。

《 雪の朝 行き着く頃は 昼前か (茫猿)》

雪のなか、今日も来ているヒヨドリ、待てどメジロはやって来ない。

関連の記事


カテゴリー: 茫猿残日録 タグ: , パーマリンク

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください