彌天芙敬に倣う(8月の経過-2)

 ”彌天芙敬に倣う”シリーズも、この章を結びにする予定であったが、思ったよりも稿量が増えている。取り敢えずはもう一章を書き終えてから、08/18にEsophageal Cancer 除去手術に臨む予定である。

《2020/08/03 月曜》 周術期術前指導を受ける。
 今日の知識:周術期の意味が分かった。手術周辺の時期、術前、術中、術後を云う。呼吸器リハビリテーション科で理学療法士の診療やガイドを受ける。スクワット、呼吸法、背筋の強化法などを教わる。そこで会話中に、先月末から続く「不安」、多くの病院関係者は私の話を誰もが抱える術前の”不安”と表現する。私にはその”不安という片付け”が不満なのだと云うことが、中々に理解されない。

 多くを、時に全てを数値化して表現する。施術例数xyz、罹患率x%、治癒率y%、縫合不全率z%等々である。デジタル化された数値と云うものは個性が滅却された無味乾燥物なのであり、私と云う今を生きているアナログ的な存在とは凡そ異なるものである。こんな話をしていたら、いい所がありますよと、写真左の相談会を案内された。私を若く見たわけではなかろうに、今更就労支援とは是如何に。

 そこで、07/29に「愚痴零し」をした入退院支援センターのT看護師にもう一度お会いしたくて、窓口を訪ねたら、こちらを紹介された。中のパンフ、がん相談支援センターである。そして右のパンフ(国立がん研究センター刊行)の冒頭にはこう記してある。

『ガンと診断されたあなたに心がけてほしいこと』
1.情報を集めよう。担当医は最大の情報源です。看護師、薬剤師、ソーシャルワーカー、栄養士などが専門的な経験や視点であなたを支えます。

2.病気に対する心がまえを決めましょう。病状や治療方針、今後の見通しなどについて十分に説明を受け、納得した上で、自分なりの向き合い方を探してゆきましょう。《最大の情報源であり十分に説明が得られるはずの担当医にまだお会いできていないのだが。》

 がん相談支援センターでは面談頂いたS看護師に、こう言われた。「08/13に担当医師の面談があるようですから、今のあなたの疑問やお話になりたいことを、書き出しておいて、漏れ無くお尋ねになったらいかがですか。」そこで、茫猿答えて曰く「08/12に別の診察で此方へ参ります。その折に書き出したものを持参しますから、ご覧いただいてアドバイス頂けませんか?」快く応じていただき時刻の予約も受けて頂いたので、明日からは想定問答集作りである。作りながら自身の「心がまえ」自ずと定まってゆくだろう。

《2020/08/04 火曜》
市民病院入退院支援センター・T看護師から「クロピドグレル服用停止」について注意喚起の連絡電話を頂いた。この電話で昨日教わった”スクワット”、”呼吸法”、”背筋の強化法”を思い出して、トレーニングを行う。

《2020.08.05 水曜》
 血液凝固防止剤クロピドグレルの服用停止を開始する。この薬剤の服用停止は脳梗塞再発のリスクを高めるから、一種の二律背反である。 

 入院までにと予定した一連の野良作業(庭木の刈込み、枝落とし、畑の除草、土手の動力鎌草刈、除草剤の散布)の大半を終えた。本日の気温34度、am08:00〜12:00 の作業を終えてから水風呂に入って、火照った身体を冷やす。主治医との想定問答集を検討する。

《2020.08.06 木曜》 異常降雨水害と新型コロナ感染症蔓延のなかで75回目の原爆忌、茫猿は食道癌に振り回され未だ泰然自若にほど遠し。

《2020.08.07 金曜》 曇り
 任意医療保険適用について、代理店でレクチャーを受ける。退院後に保険請求するのが、複数の手間を省き簡単であると説明される。先進医療については相談センターを紹介される。東海、近畿近縁の陽子線治療を実施する先進医療施設のウエブサイトをチェックしてみるが、食道癌治療実績について言及し実績を明示する施設は一箇所だけである。いずれの施設も「主治医の紹介状と診療情報提供」を求めている。先進医療については主治医との相談が必須のようである。

神戸陽子線センター  神戸市中央区港島南町1丁目
食道癌治療実績 2017年12月~2019年12月実績 成人食道癌 7例
大阪重粒子線センター 大阪市中央区大手前3丁目
食道癌治療実績  先進医療適応 治療実績の表示無し
名古屋陽子線治療センター 名古屋市北区平手町1丁目
食道癌治療について言及無し
静岡県立静岡がんセンター放射線・陽子線治療センター
静岡県駿東郡長泉町下長窪 食道癌治療について言及無し 
成田記念陽子線センター(愛知県 陽子線)  豊橋市白河町
食道癌治療について治療法と治療期間の言及あり

《2020.08.08 土曜・立秋、今日から日曜と山の日を挟んでお盆休暇》
 食道という管を数センチ輪切りにするだけのことと思っていた癌治療が、「食道亜全摘胃管再建手術」と題するものであり、10時間にも及ぶ大手術だと様々な資料を通して分かってきた。食道がんの標準的な治療として上げられる治療法では、がんを含めた食道と胃の一部を切除し、同時にリンパ節を含む周囲の組織も切除する(リンパ節郭清[かくせい])。食道切除後には、胃を使って食物の新しい通路をつくる手術(再建術)を行うと云う。

食道は体の中心部にあり、気管、心臓、大動脈や肺などの臓器や背骨に囲まれていて、食道の周囲にはリンパ節がある。多くの臓器が集中する部位であることから、術後の合併症発症リスクも高いようである。

《2020/08/09 曇り 日曜》
病状を聞き付けて見舞いに来てくれた義弟が「義兄さんは俎板の鯉なんだから」と言う。そう言う彼が、包丁を構えて俎上の鯉を見下ろす調理人に見えた。 白布を被りて俎上に横たわる我は居並ぶ皆を見上げおり。

 今日は75度目の長崎原爆忌。前栽に打ち水をしながら、ふと思う。この秋深くに紫式部の濃紫の実の連なりを見られるだろうか、万両の赤い実は、ツワブキの黄色い花は、年越えて枝垂れ梅の花はなどと思いは走る。本日の鄙の気温34.5度、鄙でも厳しい。

《2020/08/10 晴れ、最高気温35.5度》
 山の日、2016年新設の新出来休日。
甘藷畑のチガヤ、カヤツリグサなどの野草を抜く。
手術症例における癌の5年実測生存率 は千差万別である。
食道癌 52.2%、胃癌 72.5%、大腸癌 74.8%、肝臓癌 55.3%、肺癌 73.5%
食道癌 I期 79.6%、II期 51.7%、III期 27.1%、IV期 13.1%
《国立がん研究センターがん情報サービスの提供資料、2009-2011手術症例》

《2020/08/11 晴れ》
 甘藷畑の野草は抜き終える。父の妹(1927年生、茫猿より17歳年長)が逝きし今、両親につながる唯一の血縁となった母の妹(1932年生、茫猿より12歳年長)の見舞いに行く。盆前に為すべきことを終える。

 何故、こんな記事を延々と語るのかと自問自答する。
1.脳梗塞に次いで癌を患い、残るは心筋梗塞ぞと戒める。
2.俺も並みの高齢者だと自虐自賛する。
3.如是、逡巡する自分を後の為に綴っておく。
4.癌に突然死はない、なれば往く道を語ることも意味あろう。

《2020/08/12》 想定問答集を持参し、周術期術前指導を受ける。想定問答と云う所以は、掲げたほぼ全ての質問について予想される回答をすでに用意しているからである。これを主治医にお見せする是非も含めてS看護師にカウンセリングしていただくのである。少し早いが、余裕のあるうちにと、叔母の新盆のお供えを用意しお参りする。

 いくつかのカウンセリングを受けた感想として、「77歳後期高齢者」と云うステレオタイプのイメージが医療側にも保険代理店にもあるように感じる。食道癌症例集と云う森を見て、患者の茫猿という木は見ていない感じと言えようか。そんなカウンセリングに割く時間が無い、割いても診療点数が増えないと云うことだろう。喰えない患者だ。

 茫猿は現役を65歳でリタイアした後、十年以上晴耕雨読の暮らしを続けている。毎朝5時前後に起床し、7時前後に朝食を摂り、8時から12時までの数時間を畑農作業、雑木林の下草刈り、動力鎌による200mの土手の草刈りなどをして過ごしている。冬なれば起床して星空を眺め、夏なれば朝露を踏んで野菜を採り朝食の準備をする。テレビの番と横丁の散歩に明け暮れる並みの年寄りではない積もりなのだが。それもこれも自意識過剰か。

まだ終わらない、(8月の経過-3)に続く

《ご寛恕下さい》本記事は公開予約投稿です。2020/08/15以前に記事を作成し、08/20以降にサーバに公開予約をして開示するものです。したがいまして、本記事をご覧になってお問い合わせなどのメールをお寄せ頂きましても、筆者茫猿はメールを読むことも、当然お返事を書き込むことも叶いません。入院に際して病室に「MacBook Air」は持ち込んでおりません。またWi-Fi環境も有りません。悪しからず、御了承下さい。

《表題について》「彌天芙敬に倣う」とは我が父母の法名(一般には戒名とも云う)彌天(父)、芙敬(母)に倣う(ナラウ)である。父母の旅支度及び旅立ちを手本としてまねると云う意味である。

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