標題は、清水千弘氏がモデレーターを務められる「空き家の有効活用と地域創生に関する勉強会」(大垣市都市計画部主催)の今月の回のテーマである。メタセコイア並木が色付き始めた大垣市情報工房で今月の講師、長嶋 修氏(インスペクター協会会長,さくら事務所会長)による二時間の講義を受講してきたのである。
講義の副題は「インスペクションの可能性と空き家の問題解決」であった。講義は新築住宅が大半を占めている日本に対して、中古住宅が過半を占めている米国不動産市場の現状説明から始まった。米国においてホームインスペクション利用が一般的となったのは90年代になってからである。日本においても中古住宅市場の進展とともにホームインスペクションの認知度は高まってゆくであろうと、長嶋氏は予測する。
(注)ホームインスペクション(住宅診断)とは、住宅に精通したホームインスペクター(住宅診断士)が、第三者的な立場から、また専門家の見地から、住宅の劣化状況、欠陥の有無、改修すべき箇所やその時期、おおよその費用などを見きわめ、アドバイスを行う専門業務である。
住宅の購入前や、自宅の売り出し前にホームインスペクションを行うことで、建物のコンディションを把握し、安心して取引を行うことができる。居住中の自宅について調べることもある。また、不動産仲介業者が物件の状況を消費者に明らかにするために利用す るケースも増えている。《以上、内閣府認証NPO法人日本ホームインスペクターズ協会サイトよりの引用》
我が国の全住宅流通量に占める既存住宅の流通シェアは約14.7%(2013年)であり、近年ではシェアは大きくなりつつあるものの、欧米諸国と比べると1/6程度であり、依然として低い水準にある。 また、これまで行われてきた住宅投資額の累積と、住宅ストックの資産額を比較すると、投資額の累積を約540兆円下回る額のストックしか積み上がっていない。
少子高齢化が進行して住宅ストック数が世帯数を上回り、空き家の増加も生ずるなか、「いいものを作って、きちんと手入れして、長く使う」社会に移行することが重要であり、政府としても、既存住宅流通・リフォーム市場の環境整備を進めていきますと、国交省サイトは述べている。
国土交通省では、中古住宅・リフォームトータルプラン(2012年3月)に基づいて、消費者が中古住宅の取引時点の物件の状態・品質を把握できるようにするため、第三者が客観的に住宅の検査・調査を行うインスペクションにつき、検査・調査を行う者の技術的能力の確保や検査・調査の項目・方法等のあり方について検討を行い、「既存住宅インスペクション・ガイドライン」をとりまとめた。《2013年6月》
宅建業者の建物評価実務の改善に向けた取組としては、2015年7月に公益財団法人不動産流通推進センターにおいて「中古住宅に係る建物評価の改善に向けた指針」の考え方を反映し、「既存住宅価格査定マニュアル」の改訂を行った。
同じく2015年7月に不動産鑑定評価における「既存戸建住宅の評価に関する留意点」の策定を行った。 不動産鑑定士が既存戸建住宅の評価を行うに当たって、建物の性能やリフォームの状況等を的確に反映し、信頼性の高い価格情報を市場に提供することを目的として、2015年7月に「既存戸建住宅の評価に関する留意点」を策定・公表した。
国交省は他にも多くの中古住宅市場活性化対策事業を用意している。
[1]長期優良住宅化リフォーム推進事業
[2]住宅団地型既存住宅流通促進モデル事業
[3]消費者が安心してリフォームができる市場環境の整備
[4]検査と保証がセットになった既存住宅・リフォーム用の保険制度の整備
[5]事業者間連携の推進
[6]住宅リフォームの推進のための税制措置
[5]事業者間連携の推進事業は不動産鑑定業界にも関連があり、住宅ファイル制度として事業が推進されている。《詳しくは近畿不動産活性化協議会の住宅ファイル制度サイトへ》
国交省の肝煎りで様々な中古住宅市場活性化施策が遂行されるなかで、中古住宅インスペクションや住宅ファイル制度の進捗が期待されるのである。長嶋氏は講義の中で岐阜市の「立地適正化計画」《いわゆるコンパクトシテイ》についてもふれられた。
立地適正化計画は、都市再生特別措置法の一部改正(2014年8月施行)により、市町村が策定できることとなった計画で、都市全体の構造を見渡し「コンパクトシティ+ネットワーク」の考えで住宅と生活サービスに関連する医療、福祉、商業等の利便施設がまとまって立地するよう、ゆるやかに誘導を図りながら、公共交通と連携したまちづくりを行うものである。
岐阜市においても、今後は人口減少とさらなる少子高齢化が見込まれており、健康で快適な生活を確保し、持続可能な都市経営を推進していく必要があることから、岐阜市立地適正化計画を策定するのである。計画では都市再生特別措置法に基づき、住宅及び都市機能誘導施設の立地の適正化を図る区域(居住誘導区域、都市機能誘導区域)のほか、主に以下の事項について定める。《素案公表2016年9月》
・住宅及び都市機能誘導施設の立地の適正化に関する基本的な方針
・居住誘導区域に居住を誘導するための施策
・都市機能誘導区域に誘導すべき施設及び当該施設の立地を誘導するための施策
大垣市の講義が終わったのが15:00、一時間後には場所を岐阜市に移して、清水教授の「推計された価格指数・比準表の信頼性検定方法」と題する講義が予定されているのである。長嶋氏の講義を聴講して疲れたのと、岐阜市へ移動し教授の講義を伺い、さらに夜分に運転して帰る自信がなかったので、心残りではあったが清水教授の講義は割愛したのである。七十の手習いも難しいものだと、老いを自覚せざるを得ない茫猿だった。
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平成25年の中古シェアについて国交省は、取引された居住用中古住宅16万8千戸と新築着工数98万戸を比較し、14.7%とした。
しかし、新築着工数には、居住用だけでなく貸家35万6千戸も含んでおり、居住用の中古シェア計算としては不適切。
貸家を除いた62万4千戸を基に計算すると、21.3%に6.6ポイント上昇する。
引用:北洋新聞4月1日号
http://www.hokuyonp.com/2016/04/01/
ご指摘いただき有り難うございます。