東京の桜は満開だというに此の地では、鄙桜《山桜》がようやく開花し始めました。鄙桜を見ると思い出すのは、点滴治療の帰りに車椅子の母と眺めた散り初めの鄙桜です。雨上がりの肌寒いなか毛布を膝に掛けた母と、はらはらと散る桜を眺めていました。 あれが母と息子の名残の花見だったと思い出します。
あれから、早や三年が過ぎた今年も桜は変わらず咲き始めています。桜を見れば幾つかの歌が浮かんできますが、茫猿の今の心境に最もちかいのは「願わくは花の下にて春死なん そのきさらぎの望月の頃」《西行》でしょうか。 二輪咲いているのを見つけた鄙桜です。
さまざまのことおもひ出す桜哉 《芭蕉》
鄙桜は咲き初めですが、染井吉野桜は既に七分咲くらいでしょうか。生憎の花曇り空のもとですから、美しさも半ばです。
赤とピンクの花を一つ樹に咲かせるツバキは満艦飾です。もうすぐに樹の下には落花の絨毯が敷かれましょう。
先ほど庭先を巡っていて、そういえばこの春は土筆《ツクシ》を摘んでいないなと思い出し、今日の昼は土筆とじ丼を作ってみました。袴を取り除いた土筆と菜花を雪平鍋で煮立て、麺ツユで薄口に味を調えてから溶き卵を回し入れて、火を止めてしばらく余熱で蒸してから丼御飯に流し掛けました。
菜花の緑、土筆のほんのりと赤、卵の黄色が彩る春の丼ができました。 淡い味付けには塩昆布の付け合わせがほどよく似合い、土筆と菜花のほろ苦さも茫猿の食卓にはふさわしいものよと頷くお昼でした。
はなぐもり おもかげよぎる 昼下がり 《茫猿》
三月初めに通販で注文したものの、いつになっても配送されず心待ちにしていた御衣黄桜と大山桜それに大島桜が、先ほど届けられた。 早速に畑先に定植したのである。 今はまだ親指ほどの幼木だけれど数年後には腕くらいの太さに育ち、若木なりに花見ができるだろうと楽しみである。 十年後のことなどは量り知るよすがもない茫猿であるが、数年先ならば花見を願ったとしても、欲深ということにはならないだろうと淡い夢をみている。
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