何故に今、士会なのか

【茫猿遠吠・・何故に今、士会なのか・・04.06.10】
 不動産鑑定士の諸君が「不動産の鑑定評価に関する法律」について、士業併存の現況が、望ましい、或いは好ましいと考えられるのであろうか。
(茫猿はあえて、混在の現況とも、鵺『ヌエ』のような現況とも云う。)


 業即ち、株式会社に代表される商業法人、財団・社団に代表される公益法人(本当の姿は業益法人)、さらには中間法人、個人事業者等々を指すのであるが、個人事業者や中間法人はともかくとして、商業法人や業益法人が高度な倫理性を有するものと云えるのだろうか、或いは高度な自治・自浄能力を有すると云えるのであろうか。
 個々には、そういって胸を張れる法人も存在するであろうし、評価される法人も存在するかもしれない。しかし、本来的に設立目的が異なるものである上に、不動産鑑定士が人事権をはじめとする指揮命令を不動産鑑定士でない上司や資本主から受ける法人において、不動産鑑定士の自主独立性を標榜しても、それは客観的外形基準を満たすものとはならないのである。
 何も(株)M自動車工業が多くの問題を起こしているから、(株)M自動車工業不動産鑑定課が悪の巣窟であるなどと、短絡した議論を提起しているのではない。外形的基準或いは標準というものは、それを示される者にとっては最低限度満たすべき基準なのであり、評価或いは選択を行う第三者にとっては、第一段階の選択基準なのである。
 判りやすく云えば、払い込み資本金1千万円以上、常時雇用従業員20名以上、不動産鑑定士5名以上という外形基準が示されたとすれば、借入金の多寡、不動産鑑定士の経験年数、評価練達度などは選択基準とならないのである。であるから、外形基準とは最低限度満たすべき基準であり、ADR機関に関して云えば、認証する側からすれば最低限度充足していることを求める基準であり水準なのである。
 我々の鑑定協会は、この外形基準を自らの希望的観測に基づく願望と、所詮具体的に示し得ない高度な倫理性と云う論外の理を全面に押し出す愚かさを演じているのである。
 考えても見て下さい。本人がアリバイ主張し、知人友人から人格・識見について高い評価を受けたとしても、状況証拠のみで具体的証拠が乏しければ、無実を証明することはとても困難なのである。 ましてや、その身内に行儀が悪く、日頃から何かと指摘を受ける者が多数存在していれば、そこで高度な倫理性などと主張すること自体がとても恥ずかしい行為なのである。
 行儀云々は、貸し剥がし、性急な取り立て、野放図な貸し付け、入札談合、度を過ぎたダンピング行為、カルテル行為、不人情なリストラ、これらの行為
のいずれにも我が法人は無関係である、潔白であると、天地神明に誓えますか。
いいえ、違法行為の有無を申し立てているのではありません。違法行為に及ばないのは当然のことであり、脱法行為にも限りなく遠いと云えるか否かを問うているのです。 勿論のこと、茫猿自身はそうありたいと願っても、反省を込めて云えば、茫猿が属する業者としてのT鑑定(株)はグレーゾーンに踏み込みかけた幾つかの経験を否定しません。 決して、茫猿のみ清廉潔白を主張するものではありません。
 実際の処、業益法人である(社)岐阜県不動産鑑定士協会や(社)日本不動産鑑定協会が、法によって設置される士会に変わったとして、それだけで直ちに倫理性が向上するものでもないでしょう。しかし、少なくとも不動産鑑定士と鑑定法人から、会が構成されることにより不動産鑑定士による自治と自浄行為は担保される訳であり、会を脱退した不動産鑑定士等は存在し得ないという外形的基準を満たすことになるのである。
 ちなみに、H15.9.29開催のADR検討会に社団法人日本不動産鑑定協会が提出した「総合的なADRの制度基盤の整備について」の意見(資料22-7)
を抜粋、掲載します。
(1) 不動産鑑定士の専門性
 不動産鑑定士は、「不動産鑑定評価に関する法律」により、土地、建物の所有権、または、所有権以外の権利の経済価値を判定することを職業とする資格者であります。
 不動産は、多岐に亘る法規の規制を受けることが多く、不動産鑑定士は、その業務上、民法や不動産関係の行政法規に通じております。それ故、全国各裁判所の調停委員に多数任じられており、特に宅地建物事件では、その専門性を発揮して、多くの紛争解決に、寄与して参りました。それらの事件を例示すれば、次の通りであります。
1.地代家賃増減額および更新料に係る紛争
2.借地権譲渡に係る譲渡承諾料を含む紛争
3.借地借家明け渡しをめぐる紛争
4.不動産を含む遺産分割をめぐる紛争
5.その他、不動産の価値、利用をめぐる紛争
 また、借地非訟事件の鑑定委員としても多数の不動産鑑定士が活躍させていただいております。以上から、当協会といたしましては、不動産の価値、とりわけ借地借家、地代家賃等に関わるADRセンターの設立を検討しているところであります。
(中略)
 民間ADRの健全な発展のためにまた、国民が安心して利用されるためにも是非、隣接法律専門職種のADR機関には、「時効の中断、執行力の付与、調停前置制度の不適用」及びADR代理権付与等の特例を定めていただきたいと存じます。  (引用終了)
 鑑定協会が設置しようとする、隣接法律専門職種のADR機関とは、具体的
に何物なのであろうか。補償コンサルタント兼業法人、宅建業兼業法人、金融業兼業法人、研究開発コンサル兼業法人、いいえ例示に止まらないのであり、いかなる業種を兼業しても、それらの資本的、人的指揮下にあっても鑑定業登録は可能なのである。そのような鵺のような存在に「裁判外紛争処理機関」としての認証を与え得るものなのか、代理権を付与できるものなのか、考えてみて下さい。
 既に、隣接法律専門職種については、総合法律支援法第三条において、その認定基準が示されているものであり、このことを無視した議論は無知の批判をかわしきれないであろう。
(注)1.文中の隣接法律専門職者について
総合法律支援法第三条(公布:平成16年6月2日 法律第74号)
 隣接法律専門職者団体(隣接法律専門職者が法律により設立を義務付けられている法人及びその法人が法律により設立を義務付けられている法人をいう。)
 http://www.ron.gr.jp/law/law/sogohori.htm#1-sousoku
(注)2.司法制度改革推進本部 ADR検討会 資料20-1検討状況整理案
 http://www.kantei.go.jp/jp/singi/sihou/kentoukai/adr/dai20/20siryou1.pdf
 ADR検討会全議事録並びに資料等
 http://www.kantei.go.jp/jp/singi/sihou/kentoukai/03adr.html
 相も変わらず、状況に流され、自らの主体的努力は放棄し、お上頼みに終始
し、三年寝太郎を改めようとしないのか、我が鑑定協会並びに会員諸君は。
 君達が、どのような選択を行おうと、それは君達不動産鑑定士の自由である。しかし、君達は、40年に及ぶ積年の悪弊を打破できる機会を目前にしているのであり、十分すぎる動機付けも用意されているのである。
 にも関わらず、君達不動産鑑定士が、一歩前に踏み出そうとしないのであれば、それは君達自身の選択の自由だけには止まらないのである。
今後、不動産鑑定士を目指す後輩達に、どのような弁解を申立ようとするのであろうか。
 後世は多分、斯様に云うであろう。
2003年から2005年にかけて不動産鑑定士法を改正し不動産鑑定士会を設置できる大きな機会があった。
しかし、当時の彼等ナマクラカンテイシ達はその機会を自ら放棄した。
いいえ、40年を経て再度、士業併存法と士業併存組織を選択したのである。
今に至っては、その選択を覆すに足りる十分な条件は見つけ得ないのである。
 くどいのを承知の上で、繰り返す。
 過去における法改正問題は我々のプレゼンス向上が主な動機であったが、今回はADRに真正面から取り組むという大義名分が存在するものである。
内部的にも高いモチベーションが与えられるものである。
この好機を逃すことは、後世に対して申し開きができない。
また、この好機を自ら放棄したという歴史的事実を残せば、今後永年に亘って士会設立の機会は得られないであろうし、士法制定の機会も得られないであろう。
 必ずしも法に拘束されず、紛争の実情に即し、条理にかなった解決を目指す点に特徴があるADRにおいて、代理権を得て紛争解決に寄与できる地位を得ようとしないどころか、自ら放棄する鑑定士が存在するのである。
しかも彼等は協会の枢要な地位を占めているのである。
 諸君は、大きく眼を見開いて、何故にその様な選択があり得るのか。
 士法への改正を妨害あるいはサボタージュしようとする彼等の利害得失は何処にあるのか。その背後をしっかりと見据えなければならないのである。 確かな理由があって、現行法と現行組織を維持しようと云うのであれば、それはそれで一つの見識である。
 しかし、変化に直面することに臆病で、行動を起こすことに怠惰であるだけで、現行法と現行組織維持を消去法的に選択するのであれば、それは罪であると云えましょう。
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