公示オンライン化-2

 H19事業計画の冒頭に掲げられる幾つかの事業が重要でないと云うのではない。どれも重要である。と同時に、鑑定協会で今期の課題となっている「地価公示のオンライン化」は、多くの会員の今後に関わる重要な課題である。またこの問題が的確に認識されていないことから、実は性格の異なる課題が一緒に議論されるているように感じる。


 先にも引用したように、この件に関して鑑定協会H19事業計画書は、情報通信技術特別委員会の項に次のように記載する。

「昨年度、委員会を設置した趣旨に即して、国土交通省の『地価公示の枠組みによる取引価格情報の収集・提供制度』の実施に関して、士協会システムの具体化と地価公示のオンライン化を主目標に、電子ネットワークの活用による業務の円滑かつ適正な実施について必要な検討を行ってまいります。」

 
 この記述の何処が問題かと云えば、「士協会(ネットワーク)システムの具体化」とはインフラ整備事業なのであり、「地価公示のオンライン化」とはそのインフラを利用した事業目標であり、電子ネットワークの活用による業務の円滑かつ適正な実施の一つなのである。
 この性格の異なる両事業が混同されているところに大きな陥穽が潜んでいる。ネットワーク構築というが既に新スキーム実施のためのネットワークは稼働しているのである。周知のとおり「取引事例収集新スキーム」は地価公示の枠組みにおいて行われるものであり、新スキームネットワークと地価公示オンライン化事業が結びつくのは、ある種必然とも云えるのである。
「取引事例収集新スキーム」はUSBトークンとASP型(Application Service Provider)のサーバを利用するシステムであるといえよう。公示のオンライン化も同様のスタイルになるであろう。即ちiNetからUSBトークンによる安全管理の元で、中央サーバにアクセスしてWeb対応型・地価公示支援ソフトを利用するというスタイルである。
 なぜそうなるかといえば、第一は管理者側の必然性である。公示評価員管理、データ管理、データ集計・利用、安全管理のいずれをとってもASP型の利便性は高い。利用者である評価員にとっても、毎年々々支援ソフトを更新する経費が省けるし、データ送付やソフトのバグ対応などの煩瑣な業務から解放されるのである。何よりも分科会幹事にとって分科会開催毎の、データ集計・印刷・配布という手間と無駄な用紙費消が無くなるのである。納期に遅れる評価員に苛々したり、督促したりという次元の低い業務からも解放されるのである。
 それでは、良いことずくめかというと、そうはならない。物事には裏面というものがついてまわるのである。地価公示評価員は先ず最初に管理・安全を優先するシステムやソフトの硬直性に泣かされるであろう。データの多面的利用に制約が課せられる畏れも否定できない。また公示支援ソフトが一つのものに限定されることによって評価ソフトの更新や改善が停滞する可能性も否定できない。
 何より、一般評価員にとっては、作業の進捗状況がマニュアルどおりに管理される「モダンタイムズ的状況」におかれることとなる。一秒といえども納期遅れは納期遅れであり、冷酷な管理が得意なコンピュータは、当該公示年度終了時期に冷酷且つ厳正な採点簿を管理者に提示するであろう。
 最も懸念されるのは、鑑定士協会ネットワーク構築というインフラ整備事業がこれで終わってしまうことである。新スキームが事実上(財)土地情報センターの主導で実施されているように、地価公示のオンライン化も(財)土地総研もしくは(財)土地情報センターの主導・管理下におかれる可能性は高いであろう。その時には、地価調査も相続税評価も固定資産税標準宅地評価も視野の外であろう。
 これは杞憂でも何でもなくて、現にマイシェルター利用が地価公示に限定された事実でも予想できるのである。同時にそのようにならざるを得ない制度的制約の存在も指摘できる。
 地価公示評価員の任期は毎公示年度ごとに前年七月頃から当該公示年度三月末に限定される。三ヶ月前後の空白期間が生じるのである。ASP型サーバへのアクセス権限の管理、具体的にはUSBトークンの有効期間管理、公示評価員の新任交代等管理、公示支援ソフトのメンテナンス等の業務に要する期間が半月ないし一ヶ月は必要であろうと推量される。このメンテナンス時期は六月中であり、それは地価調査の最盛期にあたるのである。
 他にもネットワークの双方向性の十全の維持、分散処理、情報共有・グループウエアなどが軽視されたり無視される懸念が高いのであるが、公示のオンライン化という事業目的が全面に出てくれば、安全、廉価、簡便な鑑定士協会ネットワーク構築というインフラ整備事業目的が雲散霧消するであろうと予想することが無理からぬと理解されるのではなかろうか。
 違う表現をすれば、業務として情報を扱う鑑定士にとって情報流通ネットワークというインフラ構築事業は最大最優先課題なのではなかろうか。にも関わらず鑑定協会H19年事業計画に正面切って取り上げられていない。この不自然さが何を意味するのだろうかと考え込むのである。
【この項続く】

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