テロ対策と国益

 福田赳夫元総理の息子福田康夫総理と、田中角栄元総理の政治的嫡子ともいえる小沢一郎民主党代表が党首会談をした。近々二度目の会談をする予定だという。国会で予定されていた党首討論を延期しての二人きりの会談である。小沢代表は「総理の求めで会談したのであり、一国の総理が会いたいというのを断る理由はない」と言う。本当にそう言ってよいのだろうか。


 安部前総理がその椅子を投げ出して以来、確かに国会は膠着状態にある。政治の停滞は甚だしいと云ってよかろう。でもそれは、安部晋三氏を総理総裁に選出した自民党の責任であり、その結果参議院選挙に負けた安部総裁並びに自民党の責任である。宛先不明年金番号問題も、薬害C型肝炎問題も、防衛事務次官過剰接待問題も、その間ほぼ一貫して政権の座にあった自民党の責任であると云ってよかろう。何よりも、安部前総理も福田現総理も衆議院選挙の洗礼を受けていない総理であり内閣である。議院内閣制における衆議院選挙とは、なによりも政権選択選挙であるはずだが、両総理はその民意を問うことをしていない。かろうじて前安部総理は先の参議院選挙において「この選挙は、小沢民主党代表と安部とどちらが総理大臣にふさわしいかの選択です。」と国民に問うた。そして敗れた。
 議院内閣制下における憲政の常道からすれば、自民党はとっくに下野すべきなのである。野党第一党の民主党に政権の座を譲り、民主党選挙管理内閣のもとで解散総選挙を実施すべきなのである。その常道を踏み外して、政権に連綿とした安部前総理を一旦は支持したのが自民党であり、ついで福田現総裁を選出してたらい回し内閣を組閣したのも自民党である。その自民党福田内閣に対して、国会における党首討論で対峙することを避けて二人だけの非公開会談を行ったのであるから、小沢民主党代表は密室会談に応じたと批判されるのが当然である。その昔、角福戦争をあらそった二人の政治的嫡子達が、今や与野党に別れて密室会談を行ったと云うべきものであろう。
 今国会の最大課題は「テロ対策特措法」問題であろう。テロ対策特措法の延長に反対を公言した小沢民主党代表が何をおいても為すべきことは「特措法延長に反対する理由」を掲げて国会で討論をすることではなかろうか。それを延期放棄して「総理の求めに応える」という、一見もっともらしく見える理由で秘密会談を行うことは、政治の私物化であり野合といっても差し支えないと考える。小沢さんよ、あなたもやはり戦後自民党の申し子なのかと問い質したいのである。
 さて、今国会最大課題のテロ対策特措法についてであるが、茫猿は次のことを糺したいのである。
一つはテロ対策とは何であろうか、どのような対策を云うのであろうかということである。
この特別措置法が対象としているテロ対策とはそもそも一体何を指すのであろうかということである。2001/9/11のアメリカ同時多発テロ事件首謀者への報復として、米国がアフガニスタン・タリバン政権に行った武力攻撃即ち「War in Afghanistan」こそが、日本が自衛隊補給艦をインド洋に派遣し海上給油・給水を行って有志国連合を支援するテロ対策なのである。
 それは「不朽の自由作戦 (OEF: Operation Enduring Freedom)」として今も継続し、その後米国大統領の「悪の枢軸発言」に端を発して、結局発見できなかった大量破壊兵器保有問題を理由に2003/3にはイラク戦争が始まったわけである。
 とっくにアフガン・タリバン政権もイラク・フセイン政権も消滅してしまったにもかかわらず、未だに治安が納まらず戦争状態が継続するのはいったい何故なのかを、先ず最初に糺すべきであろう。小泉元総理が言ったというよりも嘯いたという方が正しい「其処が戦闘状態にあるかどうかなんて私には判らない。自衛隊のいるところが非戦闘地域なのです。」といった珍妙答弁にハグラカサレてはならないのである。現福田総理はこの特措法成立当時の小泉内閣官房長官なのである。
 改めてその背景を問い質し、「不朽の自由作戦 (OEF: Operation Enduring Freedom)」なるものが、その発展継続型であるイラク戦争がアルカイーダ・テロ対策にふさわしいものなのか否かを糺すべきである。同時に武力行使だけがテロ対策なのか、民政安定こそが真のテロ対策なのではないのかと問うべきなのである。そもそもアルカイーダとはアラビア王国に源を発しパキスタンで育てられたテロ集団なのであり、時には米国CIAの庇護のもとにもあったというし、何よりも中東湾岸諸国や南西アジアの政治的後進性に遠因が求められるのであり、それはいわば南北格差、東西格差の歪みが生み出したものとも云えるのである。
 二つ目に見逃せないのはテロ特措法問題に関連する「日本の国益」発言である。福田総理も石破防衛大臣(この人も二世政治家)も「インド洋のテロ対策は日本の石油輸送シーレーン確保に直結するものであり、シーレーン確保は国益に叶う。」という。この論法は大きな落とし穴がある。世界最大級の貿易国である日本は油だけでなく穀物や石炭や鉱石などを世界中から輸入し、自動車や電子機器などを世界中に輸出しているのである。この論法にしたがえばインド洋だけでなく、北太平洋も南太平洋もパナマ運河もスエズ運河も大西洋だって、日本の国益を左右する重要なシーレーンではなかろうか。日本の安全保障に重大な影響を及ぼす周辺地域という表現が行われ、その周辺地域とは日本領海の公海上近海だったのであり、その範囲に関わる解釈で国会が揺れたのはほんの十年ほど前なのである。
 「アラビア海に至るシーレーン確保は日本の国益」というのと、70年前に「満蒙開拓は日本の生命線」といったのと、どう違うのか明らかにしてほしいものである。
 センセーショナルで揺れやすい情感に訴える政治家のアジテーション発言は今も昔も要注意なのである。特にテレビをはじめとするマスコミがこの種の短絡情動発言を吟味することなく垂れ流し、さらに悪乗りする時代には要注意なのである。国益発言などにだまされてはならないのである。
 今話題の渦中にある守屋前防衛次官であるが、この過剰接待問題の背景には防衛装備品購入に伴なう利権問題が存在するというし、沖縄の米軍普天間基地の辺野古移転問題には海上埋め立てに伴う利権が絡むという。地上最強の軍隊である米軍をかかえる米国はまた最大の軍需産業国でもある。軍需産業にとって紛争や戦争は最大の市場であり展示場なのであるという背景も忘れてはならないであろう。ネオコンの最大の支持者は兵器産業であり軍需産業であるということも憶えておきたいし、今や軍需産業は兵站輸送や後方警備を請負うまでに拡大成長しているということも憶えておきたい。
 日清日露戦争のロジックで太平洋戦争を戦って敗れたのが日本帝国であるが、同じような古く単純な戦時紛争論理で複雑に絡み合った現代の戦時紛争を理解しようとしてはならないのである。

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