秋田内陸縦貫鉄道

 角館逍遥は途中から雨に降られた。傘を差して歩き続けるほどの物見気分もなくて駅に戻るのであるが、角館駅前には「秋田内陸縦貫鉄道・角館駅」がJR駅と並んで位置している。 秋田内陸縦貫鉄道はJR田沢湖線:角館駅とJR奥羽本線:鷹巣駅を結んで秋田県の内陸山間部を縦貫する三セク鉄道である。 平成元年4月に鷹巣~角館間94.2Kmが三セク鉄道として全線開通した路線である。 全線踏破はとても無理だが、角館駅発14:58、阿仁マタギ駅着15:57 折り返し阿仁マタギ駅発16:13、角館駅着17:02ならば体験乗車可能とみて、急ぎ切符を購入して乗客となる。


 購入したホリデーフリーきっぷAタイプである。 この切符は何も知らずに窓口で「角館-阿仁マタギ」往復を求めたところ、こちらがお得ですからと勧められたのである。 茫猿はフリー切符の存在も、この日が日曜日であるという意識すらなかったのである。
  
 秋田内陸縦貫鉄道角館駅、右手はJR角館駅、駅前には角館の象徴・枝垂れ桜古木がある。 角館駅に降り着いたときにこの駅は目にしていたが、後ほど時間があれば覗いてみようくらいの興味しかなかったのである。 写真をあらためて見れば、赤い円形ポストもその確かな存在を主張している。
  
 画面左がJR角館駅、こまちが停車している。 画面右が縦貫角館駅である。 三セク在来線と新幹線車両が同じ目線で並んでいるというのは不思議な感覚である。 縦貫鉄道はのんびりとした(悪口的に言えば閑散)雰囲気であるが、JR角館駅だってそんなに騒々しさは感じなくて、十分に鄙びているのである。
  
 駅ではこんな撮影にも気軽に応じていただける。 ご機嫌な笑顔のMu-さんが被る制帽は駅長さんにお借りした正式制帽である。 実は駅長さん(窓口も兼務)に記念撮影をお願いし、窓から顔を出して下さいと依頼したら、それでは制帽を被りましょうと言われ、茫猿は彼と写っている。(掲載は割愛するけれど) その後で我が社の秋田美人もお貸ししましょうと言われて撮ったのがこの写真である。
  
 角館駅を発車する際には、彼女たちの笑顔のお見送りもついている。
  
 沿線風景-1 取り入れ前の稲田が線路脇に広がる。
  
 沿線風景-2 山あいに入ってくると、並行する道路も未舗装である。
  
 沿線風景-3 鉄橋とトンネルが多い路線である。 最長のトンネルはなんと5キロである。赤字ローカル線には不釣り合いな長いトンネルも農地を直線に突っ切る線路も、今から思えば”バブルの”置き土産なのだろう。今回折り返した阿仁マタギ駅を含む比立内駅~松葉駅間(北部と南部を結ぶ内陸線中央山間部)の開通は、三セク転換後の平成元年4月である。
  
 沿線ではこんな田圃アートもあり、乗客が図柄を確認したり撮影し易すいようにと列車は徐行する。
  
 車内には女性ガイドさんも乗車していて、気軽に秋田弁で応対してくれる。 Mu-さんが彼女に「阿仁マタギ」へお嫁に行きますか?」と尋ねたら、彼女曰く「私は高校生の娘がいるからお嫁には行けませんが、娘は本人が望めば許します。」とのお答えだった。 高校生の娘さんがいるとはとても見えない若く明るいガイドさんであった。
 写真で判るとおり、この車輌には我々二人以外の乗客は三人だけだった。
  
 我々の折り返し点、曇り空の下夕なずむ阿仁マタギ駅である。 当然無人駅、駅前にも付近にも人影は見えない。 日本の中山間地農村風景であるが、侘びしさも否めない。 高齢化や高齢者単身世帯も増えているだろう。 同行したMu-さんがしきりと田が荒れていないことや、手入れの行き届いた稔りの近い稲作に感心していたが、内実はどんなものだろうか。 集団委託営農も増えているだろうし、あるいは市街地からの通勤耕作もあるかもしれない。 青年や壮年世帯にとっては山間地での稲作だけでは生計が成り立たなくなっているし、子弟の進学問題だって切実であろう。
  
 駅前広場全景、遠く山沿いに人家が見えるが、都会の猥雑な看板など何もない透明な山里である。 それだけに、この風景がいつまで続くのだろうかと気懸かりである。 この風景を残してゆくために我々は何をすべきかとも思う。 秋田県は日本有数の稲作地帯であるし、同時に自殺者人口比率も高かったと記憶するのだが。
  
 駅前には田圃の他には何もないけれど、マタギのチェーンソーアートが迎えてくれる。 近くにはマタギの宿や温泉もあるという。 上っ面を流れてゆく旅はもう止めにする時期なのだと思う。 ベッドもウオシュレットも無くても、秋田弁に囲まれて薪で焚く風呂に入るという旅も悪くないと思うのである。 同時にそういった旅にひとりでもふたりでも誘われる(いざなわれる)ことが、この村を活気有るものに変えてゆくのだと思われる。
  
 途中の駅で離合した対向急行列車もりよし号。 急行列車と離合する待ち合わせ時間の間に乗務員さんと話したのだが、平日の日中にはほとんど空席状態で走ることもあるという。 通学高校生は少子化で少なくなり、さほど多くない通勤客は自家用車に流れ、今や平日の乗客の大半は車の運転ができない高齢者ばかりという。 毎年のように廃線が話題になっているが、沿線は日本有数の豪雪地帯だから、冬の貴重な足であり、ライフラインともいえる内陸縦貫鉄道である。
 
 JR角館駅で盛岡に戻るべく乗車した「17:15発こまち・東京行」 雨模様のなか灯影がにじむ人影の少ない在来線駅ホームには、なんとも不釣り合いな新幹線車両である。
  
※自殺率
 都道府県の自殺率(人口10万人当たり自殺者数)の上位10県を高い順にあげると、秋田、青森、岩手、島根、新潟、宮崎、山形、高知、和歌山、佐賀となっている。 最も高い秋田県の自殺率42.1は全国平均の23.8に較べて倍近いのである。 二位の青森は36.7である。 秋田県は高齢化要因(健康要因)と経済要因を合わせると全国で最も高く、高齢者の多さや景気の悪さから自殺者率が高くなる可能性をもっている。(2004/09・社会実情データ図録より)

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