情報開示進む・H29地価公示

少しばかり旧聞になりますが、2016/08/29に 国交省土地・建設産業局の平成29年度予算の概算要求が公表されました。概算要求書には興味深い事項が二つほど盛り込まれています。 一つは不動産情報の整備・提供の充実等であり、もう一つは既存住宅・不動産流通市場の活性化です。 [H29土地・建設産業局予算概算要求書・PDF]

一、不動産情報の整備・提供の充実等
(1)地価公示の着実な実施 3,691百万円《前年同額》
不動産取引の指標、課税評価の基準等の役割を担う重要な制度インフラである地価公示について、その役割を十分に果たすため全国26,000地点で着実に実施する。

(2)不動産情報基盤の整備 96百万円《新規》
不動産取引の円滑化及び不動産関連ビジネスの創出・充実等を図るため、不動産関連データのオープン化やデータ提供方法の改善を行う。

※当該事業は、地価公示情報と不動産取引情報の公開拡大である。地価公示については2013年公示から鑑定評価書1頁がPDF公開済みであったが、H29年度からは・鑑定評価額及び評価概要(価格、所在地、前面道路等官報記載事項)・比準価格算定内訳・収益価格算定内訳・積算価格算定内訳等のデータがCSV形式で提供される。

※不動産取引情報については不動産の属性情報について開示事項が増やされた。データ提供については平成21年度よりCSV形式にて提供されている。

二、既存住宅・不動産流通市場の活性化
インスペクションや適正な建物評価の普及促進による既存住宅市場の活性化の支援
予算額  21百万円《前年同額》

※継続事業であるが、「適正な建物評価手法の実務における定着の促進」という項目に注目する。「 既存住宅価格査定マニュアル等を用いた査定結果と実際の成約価格の相互分析、金融機関による担保評価の実態把握を実施。また、既存住宅価格査定マニュアル等を用いた適正な評価のために必要となる宅建業者や金融機関が習得すべきノウハウの整理・周知 等」とある。宅建士による建物評価が充実拡大する傾向にある。鑑定士は中古住宅市場において、廉価もしくは無償の宅建士・建物評価とどのように向き合ってゆくのか懸念されるのである。《多勢に無勢、衆寡敵せずと達観するに如かずか。》

三、地価公示情報の公開データ充実について
一(2)当該事業は唐突に計画されたものではなく、少なくとも地価公示評価書第一頁のPDF開示当時《2013年公示》から、近い将来の開示案が鑑定協会連合会に内示されていたであろうと推定される。だから、評価書のcsv開示に向けての準備が重ねられてきたであろうと思われる。

しかしながら、(前号記事で地価公示取引事例資料について若干触れたが、)連合会の事例閲覧事業は全国オンライン化が可能な状況でありながら、オンライン閲覧は単一士協会内部に限られており、他の都道府県士協会会員は閲覧を希望する単位士協会事務局に出向き閲覧しなければならないという差別的行為が未だに継続している。

取引事例についての閉鎖的体質を堅持するについては、それなりの理由も認められるが、情報に関して内向き閉鎖体質は否めないのである。そのような体質をもつ不動産鑑定業界が、地価公示評価書情報のCSV開示に十分に対応できているかと懸念するのである。

四、地価公示評価書の価格試算過程の開示に懸念されること
地価公示情報として新たにCSV形式で開示される予定の事項は、比準価格算定内訳、収益価格算定内訳、積算価格算定内訳、開発法による価格算定内訳である。このうち比準価格算定内訳では、取引価格、推定価格、標準価格、査定価格の各項目が開示される予定である。

取引価格から推定価格に至る事情補正率や時点修正率の開示は予定されていない。推定価格から標準価格に至る標準化補正率も、標準価格から査定価格に至る地域格差補正率も開示は予定されていない。しかしながら、一旦開示へと方針が転換されたら遅かれ早かれ全面開示へと向かうであろうことは想定されることである。既に代表標準地と評価対象標準地との標準化補正要因内訳並びに地域要因格差内訳は項目毎の補正率が開示されているのであるから、比準価格試算過程においても補正率内訳の開示が求められることであろう。

全面開示以前であっても、推定価格/取引価格、標準価格/推定価格、査定価格/標準価格という計算を行えば、其々の試算工程における補正率は計算されるのである。

そんな計算を行う暇人など何処にいるのかとお考えかもしれないが、不動産学を選考する学生にとっては格好の卒業論文対象であろうと考えるのである。前項に示す各対比率の大小やバラツキ、地域毎あるいは住宅地・商業地等種別毎の傾向などを分析すれば、なにがしかの傾向が現われてくるであろうと推測されるのである。

《CSVデータをエクセルに流し込んで、若干の集計セルを用意した上で、Visual Basicでも動かせば、誰でも簡単に初歩的な解析を行い、平均とか分散とかのグラフを作成することくらい出来る。》

地域毎・種別毎に類似性の高い取引事例の有無及びその多寡や、分析して見えてくる地価公示価格試算過程の対比率からみる信頼性などと云ったものが浮き彫りにされるのではと懸念するのである。収集した多数の取引事例からどの事例を採用して試算基礎とするかは、アナログ時代のように鑑定評価員の判断で有ると云う表現で事足りるのかと懸念するのです。

例えば、例示で引用した東京・中央5-1標準地の代表標準地との地域要因格差内訳は大半が環境条件であり、両評価書ともに30%前後の格差率を示していますが、「環境条件とは何ぞや?」とか「環境条件格差の詳細は?」といったツッコミが入りそうな予感がするのです。

情報開示は時代の流れですから、地価公示評価書の開示は今後ますます加速してゆくであろうと予想されます。であればこそ、一般市民が容易に納得できる価格試算過程の開示が求められるのであり、鑑定士側の説明責任も問われるのであろうと考えるのです。誤解のなきように申し添えるが、茫猿は格差補正率や試算過程各価格対比率が小さければ良いと考えているのではない。格差判定に至った経緯の説明責任が問われるであろうと考えているだけである。

地価公示に代表されるルーティーン化した多数地点一斉評価にこそ「AI評価」的な思考方法が求められるのであり、そのAI評価プログラムを構成するアルゴリズムが問われてゆくのであろうと考えるのです。地価公示・比準価格試算過程においても数値比準表が採用されているであろうが、その比準表構成アルゴリズムが問われようと云うのである。

《距離条件など数量的要因については経験値的に比準表を構成しても大きな問題は生じないかもしれないが、居住環境の良否とか繁華性の有無などと云う定性的要因に関しては、要因格差のアイテムもカテゴリー区分も多くの困難が伴うのである。例えば、居住環境を「優る・普通・劣る」と区分した場合に、この区分の客観的基準、そして各区分の判定格差点の設定基準をどのように考えたかが問われる。 この件に関して茫猿は「鄙からの発信」で、”数値・数量化比準表:投稿日: 2014年6月6日”など、多くの記事を掲載済みである。 》

《閑話休題》
海外旅行に旅立つ家人を最寄り駅まで送った帰り道、飲み物を求めに立ち寄ったコンビニで、”こち亀”掲載漫画誌が平積みになっていた。両津勘吉のファンでもないし少年漫画誌は手に取ったことも無いが、40年間連続掲載と云う偉業に敬意を払って購入した。茫猿は今日から十日間、命の洗濯をするシルバーウイークである。秋の種蒔きも苗植付けも草刈りも一段落している。芋類の収穫にはまだ間がある。老人独り鄙に閑居して不善を為す秋とでもするか。20160917kochikame

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