鑑定協会執行部への質問とご回答(3)

  質疑(1)においてこのような質疑の在り方が好ましいか否かについては議論があると書きました。この項並びに今回の質疑についての茫猿の感想を書いてみます。


一、鑑定協会に於ける執行部と会員の意見交換の在り方について
 鑑定協会も六千名に近い組織であり、会員と執行部の意見交流は簡単ではない。また理事会という代議制度がある以上、会員の質問に直接その都度答えてゆくというのは煩瑣である以前に、役員の負担が過重になることから賛成できない。
 茫猿はそのように考えるからこそ、一連の事件に関わる質問書を地元三重県選出の鑑定協会田中理事にお預けし、善処方をお任せしたのである。田中理事は理事会で質問書を開示され、文書回答をお求めになられたようである。その結果が前掲記事の御回答二通なのである。
 茫猿の疑問というか釈然としないのは、次のような背景を考えるからです。
「これだけの御回答を頂けること、それ自体が会長はじめ役員各位の誠意を示すものと考えます。敬意を表し感謝申し上げます。」 
しかし感謝とは別に、理事の仲介が存在するとは云え、一会員にこのような回答を届けるという先例は前述の理由により、好ましくないと考えるのです。それこそ、Web Site を上手く活用して、会員の意見を汲み上げると同時に協会執行部や事務局の見解を伝えてゆくという、双方向性を有する新しい情報交流スタイル構築こそが必要なのであろうと考えるのです。
 既に鑑定協会は会員専用ページを持つ公式Web Site やメールマガジンを利用しているのですから、直ちにでも可能なはずです。会員からの質問に相当性とか妥当性を認めるのであれば、サイトやメルマガに開示し、同時に執行部回答や見解を開示するという方策が実行できるであろうと考えるのです。 情報の共有と開示という問題について、改めて考えて頂きたいと思うのです。情報の開示と共有という事象こそが民主主義の基盤であろうと考えるものであると同時に、活力を産み出す源泉であろうと考えるのです。
二、Web Site への対応
 前項とも関連するのであるが、鑑定協会がインターネットをどのように考えるかという点に疑問があるし、然るべく対応して頂きたいと考えるのである。
『(質問.1) 会長談話公表にはしかるべき機関決定、または機関承認が必要なのではないか、お尋ねします。』
 なぜに、このような質問をするかと云えば、インターネットに公開した談話は回収が不可能だからである。勿論、訂正や取消は可能であるが、一旦Web Site に掲示した内容の回収は不可能なのである。この認識があれば軽々に会長談話を協会サイトに掲示しないと考えるのである。
 この点に関しては事務局の補佐も適切であったかどうか疑問なのである。
会長談話がインターネットを通じて社会に流布されれば、その瞬間から発信者の意図に関係なく「鑑定協会公式サイトに掲載される会長談話」というものであり、それは「鑑定協会の公式見解」なのである。
 この認識のアマサ、懸念するのはこの認識の甘さが個人情報漏洩につながりかねないからである。個人情報保護法、同法ガイドライン、資料管理等規程、コンプライアンス、善管義務などと、規程を整え形式を整備してみても、その真に意味するところが理解できていなければ、「画餅であり馬耳」なのではなかろうかと危惧するのである。その意味するところとは、Winnyなどに代表されるインターネットの便利さの裏に潜む怖さであり危険について正しく理解し、安全管理措置に遺漏無きよう図って頂きたいのである。
 取引事例管理や地価公示作業工程管理について、巷間多く聞こえてくる話は、「前例がない」、「会員に馴染みがない」、「インターネット環境が整っていない」、「今までの方法で問題がないから面倒なことはしたくない」等々、コンプライアンス以前の事柄が多いのである。これらは厳しく云えば、会員の無関心、無気力、無理解に帰因するところが多いのである。とはいうものの状況は少しずつ前進しつつあり、協会地価調査委員会では地価公示のネットワークを利用したICT化を推進する動きが顕著になりつつある。公示評価員及び分科会幹事の負担軽減並びに公示作業の安全管理措置充実という側面からも歓迎されることである。
三、真に回答が得たかったこと
 今回の質問で一番に回答が得たかったことは、
1.新資格創設に関わる鑑定協会の見解であり、
2.証券監視委の疑念に対する協会の主体的・具体的に提言策である。
 新資格創設について云えば、協会回答は「質問7への回答」で、
「日経記事にいう「証券化シニアアプレイザー」なる新資格が創設されるか否かは、(検討対象になるかどうかも含めて)、今後の部会での話であり「新資格創設を検討中」というのは誤りです。」と記述する。
 がしかし、「(06.07.05)国土審議会土地政策分科会企画部会不動産投資市場検討小委員会最終報告の公表」、その本文「3.4.8トランスペアレンシー(透明度)向上策」には鑑定評価に関連する重要な施策の方向が示されてあり、以下の項目が列挙されている。
 1)不動産投資DCF基準の策定
 2)不動産EDIのためのデータコード統一
 3)投資不動産鑑定評価データベースの作成
 4)ベンチマークインデックスの作成
 5)不動産デリバティブ市場創設の研究
 6)鑑定評価信頼性向上のためのER評価
 7)証券化不動産の鑑定評価に関わる鑑定士の資質向上
 8)複数価格提示等、投資家ニーズに応えた鑑定評価手法の研究
 9)ビジネスモデルに応じたコンプライアンスの確立
 証券化シニアアプレイザー制度の創設は、その7に記述されている。
7) 証券化不動産の鑑定評価に関する不動産鑑定士の資質向上
 不動産鑑定士が不動産投資市場において信頼されるEvaluator集団として一定の役割を担えるよう、証券化不動産の鑑定評価を行う不動産鑑定士の資質向上を図ることとし、投資関連の知識及び技術、不動産証券化の実務等について資格取得後の研修で実施すること等を検討するとともに、不動産証券化という不動産、金融、会計等複雑で多岐にわたる分野の専門知識や、高度な市場分析能力を備えた不動産鑑定士(証券化シニアアプレイザー)制度について検討する必要がある。
 これは公表される最終報告であり、国土審事務局・霞ヶ関の意向が少なからず反映されていると解するのが相当であり、日経記事を誤りと決めつけるのはミスリードにつながりかねないと考えます。
 少なくとも霞ヶ関のみならずこの委員会に集う委員各氏の認識がこのようなものに近いという、鑑定協会の理解は不可欠なのであろうと考える。
「検討する必要」とはいえ、霞ヶ関発公文書に新資格創設が明記されることに関する危機意識とか、社会の認識についての鋭敏な感覚といったものを示して頂きたかったと思うのである。
 四、鑑定協会の主体性
 最も見たかったのは、『証券監視委の疑念に対する鑑定協会の主体的・具体的な提言』である。鑑定協会執行部の主体性、自治意識、先見性といった事柄なのである。国交省から6月中に二度も通達を受ける異常さについての率直な感想が見たかったと思うのである。
 国交省より二度目の徹底通知を受けているのと、会長談話サイト開示との時系列関係は【質問.3の回答】にて、「会長談話は29日午後3時頃にホームページで発表したのであり、国土交通省の通知「徹底について」は同時刻頃専務理事が国土交通省で受け取っています。」と記述されているが、ことの重大さを思えば会長談話の掲載を中止して「徹底通知」の意味するところを深く考えるべきだったのではなかろうかと思うのである。
 しかも、最終報告・トランスペアレンシー(透明度)向上策には9個の施策が示されているのである。この内の幾つかは、鑑定協会が主体的に主導的に直ちに着手可能なものである。
 回答が述べるような『ご指摘の点は、この度設置した特別委員会で検討するものと考えております。』といった、紋切り型の悠長な話ではないのである。
「何と何を、何月何日までに行います。少なくとも施策を取りまとめます。」くらいは云って欲しかったのである。
 更に云えば、どうして様々な情報伝達手段を用いて、会員のコメントを求めないのであろうか。特別委員会を創設するというのであれば、その審議過程を会員に逐一開示しようとしないのであろうか。 茫猿は既に「鑑定評価Review制度の創設」を提言している。レビュー制度を創設しても定着までには時間がかかるであろうが、それまでの期間は鑑定評価書の公開による透明性確保という施策を提唱することにより自らを律する姿勢を示すべきと考える。
 いたずらに時間を浪費して待っていれば、「その内に霞ヶ関が何かを示してくれるだろうから、それに従えばよかろう。」などと思考停止状態に居るのでなければいいがと危惧するが、どうやら茫猿の杞憂に終わりそうもない気配なのである。
 
 読者氏には厳しい表現に聞こえるかもしれない。厳しすぎるとお考えかもしれない。誤解の無いように申し添えるが、この記事の字面は鑑定協会上級役員を批判するように読めるでしょうが、その真意は理事各位、各都道府県士協会役員各位、そして何よりも鑑定協会会員各位を批判するのである。
 古来から言い古される俚諺にこういうのがある。「会員は会員以上の資質を有する役員を得ることは叶わない。」

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鑑定協会執行部への質問とご回答(3) への1件のフィードバック

  1. すーさん のコメント:

    一連の、ひととおりよみました。どこの業界もそれぞれですね。キーは「既得権」かなと。建築士資格ももめてますが、そこにも「既得権」

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