今年も鄙桜が開花しました。 鄙桜が咲くと、点滴からの帰り道、車椅子のうえから静かに眺めていた母を思い出します。あれからもう五回目の桜の春が巡ってきました。 この日、父方八名母方八名を数えた兄弟姉妹のうち、男としては最後に残っていた叔父が逝きました。
戦後まもなく父の末妹と結婚し我が家の近くに一家を構え、戦後の混乱期に我が父母を支えて頂いた叔父でした。 私にとりましても、物心つかないうちから「おいちゃん、オイチャン」と慕って暮らし、父亡きあとは我が一統の長老として頼りにした叔父でございました。 今や自他共に認めざるを得ない親戚一統の長老として葬儀を執り仕切りながら、叔父に感謝し、自らの年齢もまた自覚していた一日でした。 九十歳の長寿を全うした人生でしたから、「一日早ければ、消費税も少なかったのに」などという軽口が出る幕間もありましたが、花が好きで、庭には椿、皐月、躑躅、牡丹など様々な花木を丹精していた叔父にふさわしく、咲き誇る桜に見送られた葬儀でした。
写真は冒頭に述べました鄙桜です。 父母を偲び、叔父を悼んで灯りをつけて鎮魂の夜桜としました。まだ咲き始めたばかりですが、四、五日もすれば僅かに紅をひいた白い花弁と若葉の緑が、美しいグラデュエーションを描いてくれるだろうと思います。 年度変わりの忙しいなかを大叔父の葬儀に参列すべく妻と娘を連れて帰ってきてくれた長男は、葬儀が終わると慌ただしく独りで帰京しました。 妻と娘には鄙里の桜を楽しませてやりたいと言っていましたが、たぶん私たち夫婦に孫と遊ぶ機会をくれたのであろうと思います。 今日は何処の桜を眺めに行こうかと、考えることから楽しみを始めている、此の春の茫猿なのです。
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