ファイナル・セミナー? -2

何やら、底なし沼のような虚しさを感じている。03/02の京都シンポジウムで感じた違和感の正体に気づいたからである。前号記事で、清水ゼミが目指すScienceとArtの融合について、『”Science”とはビッグデータを駆使した統計解析であり、より具体的には不動産取引価格情報を基礎データとするヘドニックアプローチなどである。

”Art”とはいわゆる芸術ではなく”リベラル・アーツ”などと同義であり、具体的には不動産鑑定評価を指す。言い換えれば「統計解析」と「鑑:目利き」の融合なのであり、統計解析を基礎とする不動産鑑定とも云えるであろう』と記した。鑑定評価にとって客観的に説明責任を果たすことはとても重要であり、そのことを担保するのは科学的実証性であろう。

さて、違和感のことなどに触れる前に、シンポジウム清水ゼミそのものには、流石と注目する成果発表が幾つかありました。先ずはその件について述べておきたい。

一つは価格形成要因・属性データと地価形成の相関関係について、解析結果として地域差が認められること。同時に属性データのアイテム数についても考え直す必要性があることや定性的要因の定量化手法の検討などへの言及である。さらなる研究の継続と深化が期待される。

《残念なことに、成果発表に当てられた時間が短かすぎた。全体の構成や集客力、あるいは初心者への気遣いもあったのだろうが、三〜四件の発表に二時間はとても短い。パネルディスカッションなどの形式を採用せずに、一つ一つの成果案件をじっくりと発表し、清水教授の補足解説を頂くというスタイルであったらと惜しまれる。苦言ついでに云えば、プレゼンスタイルも不十分だった。200人も収容する広い会場で、統計解析ソフト「Rの画面遷移を大型スクリーンで見せられても、何も解らない。》

もう一つの注目は京町家についての成果発表である。最近は京町家の取引後改装利用がブームである。再建築不可物件である京町家取引事例から価格動向を分析しようとする検証研究である。築年データが空白であることから事例資料として利用されてこなかった複合不動産取引事例について、築年データをS35年不動産登記法改正前の建物と推定し置き換えて分析対象とするものである。

退蔵データから読み取れる価格動向であり、同時に京町家ブームや訪日観光客数増加との関連など興味ふかいものがあった。統計解析を用いることによる新しい切り口の発見であり、全国各地のエリアごとに其々に異なる新しい切り口が得られるであろうと予感させる成果発表だった。近日中に、近畿不動産鑑定士協会連合会からまとまった成果物が公表されるであろうと期待される。

岐阜・清水ゼミの成果発表も岐阜会・元会長の久保輝氏よりあったけれど、よく理解できなかったし地元のことでもあるから割愛する。2015〜2016の岐阜ゼミに当初は茫猿も参加し、一度は講義も受講している。しかしながらダウンロードアプリを統一する上で、ブラウザーがIEであるノートPC持参が必須であることから断念した経緯がある。

当時、茫猿が保有していたのはMacBook Airだったから、使用ソフトのダウンロードすらできなかったのである。DOS-Vノートを購入してまで年寄りの冷や水を浴びる気が無かったということでもある。《統計解析ソフト「R」

さて、違和感の正体である。違和感が何からもたらされるかと、過去の「鄙からの発信」記事を「清水千弘」で検索してみたのである。検索結果は2010年以来、約30件の記事がリストアップされた。

それらの記事に引用している清水教授のレジュメや論考を再読してみて、違和感の正体に気づいたという訳である。すなわち、それらのレジュメや論考は今も新しいのである。つまり、基本的に鑑定業界は変わっていないということであり、鑑定業界は清水氏の講義を聞いてはいなかったということである。

一昨日、清水教授が講義を終えた後に言葉を交わす機会があった。その時、茫猿は「先生は相変わらず厳しいですね。」と申し上げたのである。パネルディスカッションの時間に教授は「聴講者から厳しいねと言われました。」と引用されていた。だけど、よくよく考えてみれば、十年前まだ四十代になったばかりの教授は歯に衣着せないところがあったが、五十代《1967年生まれ》を迎えた教授は、年齢相応に丸味を加えられたということである。

レジュメや論考を読み直してみれば、教授が講義されている本質は何も変わっていないのであり、最近は歯に衣をお着せになられただけのことである。受講する側の我々が「自らの変わらなさ」を棚に上げて、鈍感なだけなのだと気付かされたのである。

確かに、03/02シンポジウムには日鑑連執行部のお歴々が顔を揃えていた。統計解析を学ぼうという機運も、それなりの盛り上がりを見せている。でも本質は変わっていないのである。制度インフラとしての地価公示を否定しないが、地価公示原理主義的な鑑定士は今も多数であるし、地価公示事例を金科玉条とする鑑定士も多い。統計解析の基礎とする資料は鑑定士のバイアスがかかっていない生データを重視すべきと考える方は、茫猿の知る限りほとんどいないのである。

ましてやGISに至っては全くと言って差し支えないほどに理解されていない。GISを重視するということはデジタルマップを使うということではないのである。鑑定評価とGISのリンクという視点から云えば、取引資料も賃貸資料も建設資料も写真も、デジタル化可能な所在地を有する資料《パソコンに入力する資料》全てに、座標値《緯度経度情報》を持たせるということなのである。

ローマは1日にして成らずなのであり、日頃からのデータ蓄積がとても重要なのであり、同時に汎用性の高い制度設計も求められるのである。死に児の齢を数えはしないが、為す事なく過ぎ去った十年はやはり大きいのである。

別の表現をすれば、取引事例資料等は鑑定士等の恣意的な《主観の介在する》バイアスのかかっていない資料を基礎とすべきであり、デジタル化資料には座標値を持たせてGISの基礎的準備をしておくということなのである。その上で、ScienceとArtの融合を目指すのでなければならないと考えるのであるが、垣間見る斯界は十年前とさほどには変わっていないと気付かされたのである。

茫猿の感じた違和感が繰言や寝言であるか否かは、以下に引用する清水教授のレジュメや論考をお読み頂きたいのである。その上で、斯界は何が変わり、何が変わっていないのか、改めて考えてみたいのである。

※不動産市場情報整備の意義
「情報整備と不動産鑑定価格の社会経済的意義」
《静岡県不動産鑑定士協会における講義レジュメ、2010.01.19》

※不動産鑑定・地価公示の社会的意義
「不動産鑑定士の社会的使命は終わったのか」
《不動産鑑定 2010年12月号、2010.10.18》

※不動産取引価格と不動産鑑定価格
- Valuation Error, Smoothing and Client Influence -
《2011.11.20》

※不動産鑑定士
-これからの不動産鑑定士のあり方を再定義する-
《びわ湖会議  2012.07.27》

※住宅価格指数の具備すべき条件
-国際住宅価格指数ハンドブックの論点を踏まえて-
《2012.10.17》

※金融危機と不動産価格指数
「Property Market and Financial Stability」
《金融庁にて講演、2012.11.16》

※不動産価格の決まり方
「AIは不動産鑑定士に勝つことができるのか?」
《日本人工知能学会   不動産とAI  2017.05.13》

参考:清水教授よりの御寄稿
新スキーム問題の根源に関わるe.Mail
《「鄙からの発信」2011.07.31》

《蛇足または無駄足》
清水教授が某SNSにて「選択と集中が必要…..、本業に戻って研究に専念……」などとコメントされているのが、”糠に釘的な疲労感”に由来するのでなければよいのだがと考えるのである。

03/02シンポジウムの基調講演者は「国交省不動産市場整備課長の横山征成氏」である。横山氏はいわゆる”新スキーム”創設前後《2004〜2005年》の地価調査課・課長補佐であった。当時、就業時間後における国交省会議室での準備ミーテイングを懐かしく思い出しました。

今からでも遅くないだろうから、七十五の手習いに「R」マックOS版をダウンロードしてみるかと、無謀にも考えている。残日の残り陽を浴びるのが「R」であれば、面白かろうにと考えているが「R」マックOS版はとてもマイナーのようである。

関連の記事


カテゴリー: 茫猿残日録 パーマリンク

ファイナル・セミナー? -2 への2件のフィードバック

  1. 後藤です のコメント:

    「残日の残り陽」には、是非、Python…。
    hacker(MIT定義の方で)の道行き、お供します。

    • Nobuo Morishima のコメント:

      Python…。《パイソン:プログラム言語》
      hacker(MIT定義)の道行き、お供します。
      《皆をうならせるようなイタズラをする人?》

      どうしましょう? 険しい山道のようですね。
      お先にどうぞ、老体は足手まといでしょう。
      それよりも、こんなに七面倒臭い記事を
      最後までお読みいただいたことを感謝しなければ。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください