異常を異常と気づかない非情

 異常なのである。今をときめく政治家各氏の経歴を並べてみると異常なのである。小泉純一郎、安倍晋三 、麻生太郎、谷垣禎一、福田康夫、小沢一郎、鳩山由紀夫各氏経歴の何が異常なのか判りますか。各氏の経歴には共通項が認められるのである。

《この原稿の初出は「2006/07/30」である。今を去ること13年も前のことである。今読み返して、些かも古くなっていない。いいや今も新しいと思えるどころか、状況はさらに悪化し劣化している。だから状況を情けなく思いつつ涙しつつ再掲する。》


「共通項その一」、世襲議員である。一部の方は必ずしも地盤を承継しているわけではないが、二世、三世議員であることに変わりはない。

「共通項その二」、父親の選挙区即ち自分が承継した選挙区が地方であるにも関わらず、自身が卒業した中学高校は東京都内である。そして鳩山氏を除けば親の引退または死亡を機に選挙区地盤を承継しているのである。

「安倍晋三」
・成蹊小中高を経て、平沢勝栄を家庭教師に(山口4区)初当選39歳
・三世議員、祖父・安倍寛、岸信介(元総理)、父・安倍晋太郎

「福田康夫」
・麻布学園中学校卒  麻布学園高等学校卒 (群馬4区)初当選54歳
・二世議員、父・福田赳夫(元総理)

「谷垣禎一」
・麻布中学・高校卒業(京都5区)初当選38歳
・二世議員、父・谷垣専一(衆議院議員)

「麻生太郎」
・学習院初等科、中等科、高等科卒業(福岡8区)初当選39歳
・三世議員、曽祖父・牧野伸顕、祖父・吉田茂(元総理)、父・麻生太賀吉

「小沢一郎」
・都立小石川高等学校卒業(岩手4区)初当選27歳
・二世議員、父・小沢佐重喜(衆議院議員)

「鳩山由紀夫」
・都立小石川高等学校卒業 (北海道9区)初当選39歳
・四世議員(地盤の直接継承なし)、曽祖父・鳩山和夫、祖父・鳩山一郎(元総理)、父・鳩山威一郎

「小泉純一郎」
・県立横須賀高等学校卒業(神奈川11区)初当選30歳
・三世議員、祖父・小泉又次郎(衆議院議員)、父・小泉純也(衆議院議員)

 いずれの方々も昔の参勤交代のお殿様みたいである。父親議員は国元と東京を往復し家族(子弟)は在京である。江戸時代と違うのは奥方(妻)が江戸に留め置かれるのではなく、お国もと選挙区の留守を預かるという大事な役目を担っていることである。

 世襲何が悪いのか、本人の資質が優れていればそれで善いのではないか、何よりも選挙を経ているのである。世襲、世襲というのは逆差別なのだという意見も聞こえてくる。

 しかし、子弟を東京におき、良い教育環境を用意して養育し後継者を育てる。東京に居を構え有名私学に入学させるなどという恵まれた教育環境を誰もが実現できる訳ではない。また後援会にとっては、よほどのボンクラでなければ子息承継がベストの選択である。後援会のなかで血縁以外の者が承継しようとすると、とんでもない争いが起きる。そういう争いが起きた事例も少なくないのである。

 若殿を囲んだ後援会という私的集団にとって、内部利益の極大化を目指すのには血縁継承が好ましいのであろうが、それが選挙区や日本の利益と合致するとは限らないのも当然のことである。それでも習わぬ経を読む門前の小僧が増えてゆくのは異常であり非情なのである。

 小泉氏を承継する次の自民党総裁即ち日本国総理は、安部氏であれ麻生氏であれ谷垣氏であれ、いずれも親元を離れた東京の中高一貫私学校を卒業する世襲議員であるという事態は異常事ではないのだろうか。

 様々な複合する利益集団の固定化がますます進みつつあるのではなかろうか、小選挙区制になってそれが加速しているように見える。ワーキングプアが増えている現実、格差の拡大や固定化が子どもにしわ寄せされている現実、格差がもたらす教育水準の低下、そして負の再生産が繰り返される現実、人口の10%が沈殿する社会に将来が見えるのであろうか。

 所得格差が教育格差に直結する社会、トライもできない社会、明日が見えない社会。働いても生活保護以下の暮らしでは優れた労働の再生産ができない社会が目前に存在するのである。にもかかわらず江戸屋敷の若様達は「ワーキングプアは自己責任と片づけて」、涼しい顔なのである。

 もう一つ大きな問題がある。景気回復が云われているが、景気回復の大きな要因の一つが「非正規雇用」の拡大である。S電気やT自動車の空前の好収益は季節工とか期間工とか派遣工といった非正規雇用に支えられている実態に注目すべきなのである。親企業にすら蔓延する非正規雇用であるが、系列下請け企業では親企業以上の非情な実態が存在するのであろうと想像できる。

 そしてこの労働市場の末端に「ワーキングプア」が存在するのであり、戯画的にいえば国元を遠く離れた江戸屋敷には「世襲議員とその予備軍」がひしめいているのである。これを異常と云わずして何が異常か、非情な現実と云わずして何が非情か。

 (AERA:2005年6月6日号)ルポ・有効求人倍率を支える「請負社員」が記載する、異常で非情な現実を剔る記述である。あなたは、どう受けとめますか。
「アマゾンはネットで本を買う人と物流センターで働く人とは別の階層になっています。希望のない労働の階層構造が広がることは、国にとっていい結果を生まないと思います」

シャープはこの状況をどう見ているのか。「労働条件などは個々の請負会社で異なり、把握していない。辞める人が多いと聞くが、うちでは詳しくはわからない」(広報室)

 先の世襲議員の教育環境からもう一つ見えていることがある。彼等自身が(正確には彼等の親自身が)、選挙区の教育環境よりも東京の教育環境を選択したという事実である。今確かめてみたいのは、世襲議員彼等の子弟(三代目や四代目襲名予定者)をどのような教育環境に置いているのであろうかということである。自身の選挙区別邸に住まわせているのか、それとも江戸本邸に住まわせているのであろうか。

 未来を託す子弟は東京において高度な教育を受けさせる、自らの選挙区には生活の基盤を置かず、ただただ集票マシンとしての後援会のみ機能させる。選挙区民はこんな下支え集団に甘んじることに何の疑問も持たないというのか。それともその代償として入手できるものにそんなに大きな価値があると云うのだろうか。

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