森友案件鑑定評価&調査報告-1

 2020.05.15 公益社団法人大阪府不動産鑑定士協会より「森友学園案件に係る不動産鑑定等に関する調査報告書」が公表された。表題の森友学園事件とは、2016年6月学校法人「森友学園」に大阪府豊中市の国有地が払い下げられた。その際、不動産鑑定士が出した土地の評価額は956,000千円だったが、近畿財務局が出した払い下げ価格は「約800,000千円引き」の134,000千円だった。事件詳細は2018.05.13付けのこの記事に詳しい。


 世間の耳目を集めた事件であり、安倍総理夫人の関与、公文書改ざんや関係者の自死もあり今も折にふれて話題となっている事件である。最近は検察庁法改正案(今国会成立は見送り)反対を巡ってモリ・カケ・サクラにキク(検察官の秋霜烈日バッジは菊と旭日がデザイン)などと揶揄されている。

 安倍総理オトモダチの関与が噂される一連の森友学園事件、加計学園事件、桜を見る会事件そして黒川検事長定年延長問題の発端を為す事件である。不動産鑑定士にとって、とても重要な事項を含む報告書であり、全鑑定士必読の報告書と考える。そこで、同報告書を読み解く謂わば頭の体操を試みようとするものである。

 公益社団法人大阪府不動産鑑定士協会(以下は大阪会と略称する)は、森友学園へ の国有地売却を巡って不動産鑑定評価書等の信頼性が問題として取り上げられたこと から、その鑑定評価等の受任に至る経緯や評価過程並びにその成果品などを調査・検 討することにより、業界として解決すべき課題を提言し、今後の鑑定評価業務に活か すとともに、国民の鑑定評価に対する信頼性の維持・向上を図ることを目的として、 当協会と利害関係を有しない外部の弁護士及び不動産鑑定士で構成する調査委員会を設置し、2019年11月22日から調査を開始し2020年5月14日に調査報告書を受領した。(報告書冒頭記載の経緯より引用、冒頭から難解な長文である。)

 調査委員会は大阪弁護士会所属の弁護士2名、宮城県不動産鑑定士協会所属の不動産鑑定士2名で構成されている。

 云うまでも無いことであるが、齢77歳に至った”元”不動産鑑定士の茫猿(筆者)が、開示された大阪会調査報告書を基にして、現役を離れて早や十年今や半ばは忘れた過去の知見に頼り、世俗を離れた自由な立場から考察を加えるものである。認識違いや理解不足も少なくなかろうが其処はご寛恕願いたい。ネットに類似の意見開示が認められないことから、何がしかは意味あろうことと考え記事にする。

一、前説
 大阪会調査報告書は下記の如く述べる。
『不動産鑑定士に悪意がないとしても、悪意ある依頼者又は不動産鑑定制度の趣旨や価格等調査業務を正確に理解せず、あるいは十分に理解しない依頼者(※近畿財務局)が不動産鑑定士の作成した成果品の都合のよい部分のみを利用しようとすることに対し、不動産鑑定士があまりにも無防備または慎重さを欠いていることが明らかになった。』

※(公社)大阪府不動産鑑定士協会 2020/05/15 報告書開示
森友学園案件に係る不動産鑑定等に関する調査報告書の全文を公表いたします

※元NHK、現大阪日々記者 相澤冬樹氏 (2020/05/14 開示期間限定)
財務局の意向で都合良く利用、国有地値引きの鑑定書”否定”で再調査必至

※毎日新聞 (2020/05/15 開示期間限定)
”森友”国有地鑑定書”財務局が都合良く利用” 鑑定士協会の第三者委が報告書

 調査報告書も、それを受けたネット報道も、不動産鑑定依頼者である近畿財務局が都合よく鑑定評価書を利用するものであり、不動産鑑定士はあまりにも無防備または慎重さを欠いていたとする。尚、本記事を書くに際しての基礎とする資料は大阪会調査報告書のみである。不動産鑑定評価書は部分開示であり、埋蔵物調査報告や会計検査院報告は非開示である。

 報告書はとても丁寧に分析され詳細に記されているものと認められる。然し乍ら、時に隔靴掻痒の感も否めない。間接的或いは婉曲且つ慎重な言い回しが多く、とても難解な文書になっている。其処で己の非力も顧みず、調査書を一般人が理解出来るように読み解いてみようと云うのである。

前栽の槙の木陰に植えてあるユキノシタが花を咲かせた

二、調査対象となった不動産鑑定評価書の概要
 調査の対象となった不動産鑑定評価書等は4通ある。以下は大阪会調査委員会に倣って、4通の評価書等をX1、X2、Y、Zと略称する。
x.近畿財務局がX鑑定事務所に依頼した不動産鑑定評価書(X1)と価格調査報告書(X2)
y.近畿財務局がY鑑定事務所に依頼した不動産鑑定評価書(Y)
z.森友学園がZ鑑定事務所に依頼した不動産鑑定評価書(Z)

 先ずは、ことの発端であり近畿財務局担当官が不動産鑑定評価評価というものを理解する緒になったであろう、X鑑定事務所発行の不動産鑑定評価書(2015/01/16発行)と価格調査報告書(2015/04/27)について検討する。

 大阪会報告書は不動産鑑定評価書と価格調査報告書について、その差異異同について詳説するが、茫猿は”価格”調査報告書なるものを基本的に認めない。不動産鑑定士が「不動産鑑定士」を詠って「不動産の価格または賃料を表示した書類」を発行すれば、書式や名称の如何を問わず、それは「不動産鑑定評価書」である。

 不動産鑑定評価基準に則らない価格などと云うものを鑑定士が安易に公表すべきではないと考えている。不動産鑑定士が不動産について書類を発行するということは、相応の矜持が求められるものであると茫猿は考えている。では茫猿が考える価格調査報告書とは何であるのか。

《注》鑑定評価基準に則らない価格について価格等調査ガイドラインはこのように述べている。ガイドラインⅠ総論2定義(7)「不動産鑑定評価基準に則らない価格等調査」とは、不動産鑑定評価基準に則った鑑定評価以外の価格等調査をいう。
(6)「不動産鑑定評価基準に則った鑑定評価」とは、不動産鑑定評価基準のすべての内容に従って行われる価格等調査をいい、例えば、不動産鑑定評価基準に定める要件を満たさない価格等調査の条件を設定した場合等、不動産鑑定評価基準の一部分のみを適用・準用した価格等調査は含まれないものとする。

 調査報告書は価格(賃料)ではなく価格水準の表示に止めるべきであると茫猿は考える。平たくいえば、点の表示ではなく範囲の表示に止めるべきである。一般に調査報告書を求められる場合は、⑴低廉報酬しか用意できない場合、⑵不動産鑑定依頼の前段作業として、⑶社内協議の資料など事業検討資料が欲しい場合、⑷不動産鑑定評価書に特段の条件を付した場合の価格変動等補足意見、⑸時点修正意見を求める場合、などである。

 この点に関して、現行基準が改定された当時、こんな記事を「鄙からの発信」に掲載している。(平成14年7月3日全部改正・不動産鑑定基準)
新基準を考える-特定価格とコンサル 投稿日: 2002年10月16日』

 不動産の証券化などに対応してDCF法収益価格(投資採算価格)などの”価格”調査報告書を求める関連業界の需要に呼応した価格種類や調査報告書の拡大であり、いわば其処に需要が存在するから応えると云う市場原理行為でもあり、一概に批難されるものでも無い。

 とはいえ、国有財産の売却や賃料査定に際して鑑定評価(或いは価格査定)を求められれば、価格調査報告書を発行すべきではなく鑑定評価書の発行であるべきだった。ましてや依頼書には鑑定評価と明示されているのであるから(報告書4〜5頁)、価格調査報告書で対応したX鑑定事務所は論外のことであったと考える。

 価格調査報告書依頼は1社指名見積ということであるから、事実上の随意契約である。背景は「三ヶ月前に鑑定評価を貴事務所に依頼しましたから、今回は異なる条件で追加の鑑定評価を願えませんか」、「ついては予算がございませんので、廉価でお願いします」ということではなかろうかと推量する。

 年度が変わっているから新たな予算立てが不可能でもなかろうが、同一案件で何度も鑑定評価を依頼するのは担当者として憚られることであろう。先の依頼は何であったのか、無駄遣いではないのかと批判されかねないことでもある。其処で、先の鑑定事務所に別の評価依頼条件を付した補足意見書または補充意見書を求めたというのが実情であろう。受託者としても然程の手数が掛かる業務でもなく、アフターサービスに近い感覚が有ったのだろう。

 本来的に競争入札や見積合わせ等が馴染まない鑑定評価依頼に際して、廉価報酬を競わせる三者指名見積合わせを実施することの実態(弊害)がここにも現れていると云えよう。見積指名を獲得する上で、容易には依頼者に逆らい得ない実態が存在するのでなかろうか。これも一つの 『Client Influence Problem』であろう。

三、X鑑定事務所発行の鑑定評価書X1と価格調査報告書X2
 X鑑定事務所発行の鑑定評価書と価格調査報告書の差異について、茫猿が読み解くポイントは次の二点と考えている。両書類の異同については下記に記すPDFファイルに一覧表で比較する。 

a.最有効使用の意図的或いは無意識の誤解について。
 X鑑定事務所は鑑定評価(事業用定借10年)X1と価格調査(定借50年)X2とで、最有効使用の判定を違えている。事業用定借10年の場合は低層店舗用地とし、定借50年の場合は高層の共同住宅用地と判定している。この差異は最有効使用の差異ではなく、事業用定借10年と定借50年の契約の差異によるところの「いわゆる契約減価」であろうと考える。わずか三ヶ月の経過で最有効使用が変化するとも考えられない。

 この件に関して理解できないのは、利用形態がこれほど異なるのに、X1とX2の所有権価格(更地価格なのか否かは不明)に殆ど差が無いことである。この件に関しては価格試算の詳細が明らかにされていないので読み解き不可能である。

b.埋設物除却費額を利用した値引き価格報告額について。
 X1鑑定においてもX2調査報告においても、X事務所は依頼者が提示する「地下構造物状況調査・報告書 H22/01」等を参考資料として除却費用の査定を行なっている。除却費用査定額は開示されていないし、その積算過程も開示されていないので、詳細は不詳である。

 依頼者提示資料とは、大阪航空局が2009年から2012年にかけて行なった調査により、「土壌汚染、廃材・コンクリートガラ等の地下埋設物」の存在が明らかになったとする航空局調査報告書である。

 この件に関してX1及びX2は共に次のように述べている。 深度3m以内のレーダー調査及び試掘調査により「建設・建築廃材処分ガラ」等の埋設物が認められた。また、今後更なる埋設物が発見される可能性と新たな費用負担が生じることも否定できないことに留意する。

 つまりはこう云う事である。埋設物の存在は明らかであるが、その種類も量も定かで無い状況において、どの様にして鑑定評価や価格査定を行おうと云うのであろうか。茫猿には理解不能である。

 森友学園が(2013/09/02付け)土地取得を要望しているにもかかわらず、何故に事業用定借10年を評価条件として賃料鑑定を依頼したのであろうか(2015/01/16 評価書発行)。 次いで2015/04/16付けにて定借50年を評価条件とする賃料評価を何故依頼したのであろうか。ここでも理解不能である。

《本日はここまで、以下は次号記事にて。調査報告書がネットに開示されてから既に5日が過ぎた。毎日、65頁に及ぶ報告書を開き、細かい字や専門用語と格闘しているが、茫猿衰えたりを実感させられている。》
《先ず眼をやられた。そして、鑑定評価基準や実務準則の変遷が大きいから今や門外漢を味わわされている。門前の小僧、経を読む程にも至らないと嘆くのである。》

次号:森友案件に係る鑑定評価&調査報告(2)

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