固評価格の開示

 Evaluation.No5で平澤氏は、実績報告書を分析することにより鑑定業界の現状と将来動向について示唆に富む予言を展開している。業界が(財)日本不動産研究所に代表される態様と(株)三友システムアプレイザルが代表する態様とに分離してゆく様相を指し示すと同時に、全国展開をする大臣登録鑑定業者及びその系列に属する業者と、零細な知事登録業者とに二分されてゆく状況も述べている。


 研究所型の示す方向は、依頼件数の拡大よりも依頼1件当たりの鑑定報酬の増加を狙う方向であり従来型ともいえるが、実態は証券化等複合錯綜案件対応型といえるであろうし質的拡大を狙う方向ともいえるであろう。 三友システムの示す方向は鑑定報酬を低廉に押さえることにより、鑑定依頼の底辺を拡げ、依頼件数を拡大するという方向であり、量的拡大を狙う方向とでもいえよう。
 さらに、不良債権処理(特にバルク処理にともなって)に伴って、急速に進んでいる鑑定業者の系列化についても注目しなければならない。昨今の民間鑑定依頼は(時価会計等に対応する)従来型鑑定評価よりも物件の現況と地価水準調査業務を主とする依頼が増えていることから、報酬は低く抑えられる傾向にある。そして、そういったタイプの鑑定依頼は全国各地に不動産を保有する企業等(債権者等も含めて)からの依頼が多いから、全国的に瞬時に対応可能な鑑定業者もしくは業者組織が求められている。平澤氏が示すEvaluation.No5.90頁4表及び5表の売り上げ上位業者は、そういった展開が可能な大臣登録業者である。
 氏はさらに深刻な問題は零細業者の増加と、零細業者の件数及び報酬額の低下であると云う。そしてこの現状を打破するには、鑑定市場の動向なかんずく社会が不動産鑑定業に何を求めているかを察知してそれに対応してゆく我々の努力を欠クベカラザルことと述べている。
 鑑定評価市場の大きな柱であった用対連を中心とする官公需が減少の一途をたどることは避けられない現実である。それに対して新しい業務提供を我々が行い得るか、新しい市場を開発できるかどうかが鑑定評価の将来を決定するであろうし、新しい業務展開を行うに際して何が必要であるかも示している。
 まさに座して死を待つか、撃って出て新しい業務分野を開拓するかであろう。
表現は異なるが別の局面から、その気概と努力意志が我々にあるのか否かを福井氏は問うてもいるのである。先号掲載のM.H氏の投稿も、ふれている事象は異なるモノの、我々の自助努力とか自主性とかの有りや無しやを問うているのでしょう。
Evaluation については、以下のURLからご覧下さい。
http://www.progres-net.co.jp/
 さて、話題を替えて前々号末尾でふれた(財)資産評価研究センターが展開を企画している電子地図情報システム(GIS)による公的評価情報の公開について述べてみよう。
(財)資産評価研究センターについては、以下のURLからどうぞ。
http://www.recpas.or.jp/
 同センターが全国の自治体に無償配布を予定してるシステムは二つある。
一つは、「路線価等情報公開システム」である、
もう一つは、「路線価等業務管理システム」である。
前者は、GISを利用して、固評路線価をはじめ、地価公示、地価調査、固定資産評価標準宅地価格等を情報開示するシステムである。基礎となる地図は 1/25000ベクトルデータ地図と同じく1/2500地図である。1/25000地図は国土地理院提供のものであろうし、1/2500地図はゼンリン提供のモノであろう。
(株)ゼンリンの1/2500ベクトルデータマップ等が基礎になっている GIS(地図情報システム)がもたらす影響の大きさは想像できないくらいに大きなモノと考えます。簡単に云えば、DVDナビの詳細市街図に公示や地調や固評標宅さらには路線価が搭載された状況だと云えるでしょう。
 茫猿は、99/3/21付けで「公的評価情報のCD-ROMデータ化」と題して、本ウエブサイトで提案を行っています。また茫猿の周辺ではこの一部を実現させています。しかし、現実はこの提案を一気に乗り越えてゆきました。 さらに地価公示、地価調査、相続税路線価、固評標準宅地価格及び固評路線価が一元的に電子地図情報システムで開示されることの衝撃は計り知れないものがあります。
 ゼンリンの1/2500ベクトルデータ地図については、カーナビの市街詳細図をイメージしてください。別の言い方をすれば住宅地図がデジタル化されたものと云えばよいでしょう。
 この地図を利用することにより、開示情報の精度と扱い易さは格段の向上を果たします。個々の零細業者ではとても購入できない高価な電子地図が利用できることによって可能な情報公開でもありますし、逆な観点から云えば零細業者の組織化と団結がなければ不可能なことともいえます。
 ゼンリン電子住宅地図と公的評価情報のリンクは鑑定評価にとって全く新しい状況を生み出すでしょう。1/2500地図が表示されたモニター画面の上で、地価公示地点をクリックすれば公示地の属性データが示されると同時に、その前面固評路線価が示され、同時に周辺の固評標宅価格が示されます。
 いわば、固評路線価ネットワーク上で地価公示や地価調査や固評標宅価格がふるいにかけられる状況と云ってもよいでしょう。その状況はビジュアルであるだけに、ユーザーフレンドリーであるだけに、我々を取り巻く環境を一変させるでしょう。
 さらに同財団法人が予告している業務管理システムは、もっと大きな変化を窺わせます。同システムは路線価評価敷設を可能とする比準評価システムのようです。詳細が明らかにされていないのですが、路線価を敷設するための比準表評価システムのようです。
 固評路線価網の支柱ともいえる存在が地価公示価格・地価調査価格や固評標準宅地価格ですが、固評路線価網を作製する比準評価システムと公示や標宅評価システムが内在させている比準評価システムとのあいだに整合性がない場合に起こり得る事態は、改めて云うまでもないことです。
茫猿はこの数年間、おりにふれてこれらの状況を予想してきました。それらの予告や予想や提案は以下のキーワードで鄙からの発信を検索して見てください。
「数値比準表」、「GIS」、「地図情報システム」、「情報公開」等々
 茫猿が思っていたより早くに、そして予告もなしに事態は急展開し、情報公開の波は我々鑑定士を洗うでしょう。この二、三年、地価公示自体の情報公開に対応するための手当が折にふれて云われてきました。しかし、実態は違うのです。
 公的評価全般の情報公開のなかで、地価公示の存在意義、存在理由、その精度的優位性が問われる状況に立ち至ったのであり、そのことを予見されていたが故にこそ地価公示そのものの精度向上価格試算過程の透明化が標榜されていたのでありましょう。
 比準価格の精度、なかでも比準表の有り様と精度、収益価格の有り様とその精度、そしてさらには公示価格の選定・配置にもことは及ぶでしょう。いわゆる公的評価ジャンルに「鑑定士の判断」などというブラックボックスが存在することを許さない状況に、立ち至ったと知るべきでしょう。
この新しい状況展開に我々不動産鑑定士はいかに対応してゆくのか、鼎の軽重が、今まさに問われていると身震いするほどの思いでいます。
・・・・・・いつもの蛇足です・・・・・・・・・
 資産評価システム研究センターの研究委員会に下記の方々が名を連ねているこ
とをどのように受け止めたらよいのか、少し悩んでいます。
固定資産評価の基本問題に関する研究委員会委員名簿より抜粋
石橋  勲 (財)日本不動産研究所理事システム評価部長
泉  達夫 (社)日本不動産鑑定協会常務理事
岡  淳二 (財)日本不動産研究所システム評価部次長
中島 康典 (財)日本不動産研究所理事研究部長

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