差額配分法を否定する高裁判決

【茫猿遠吠・・差額配分法を否定する高裁判決・・03.01.12】
 東京高裁2002.10.22判決は、注目すべき判決である。
※賃料減額確認請求控訴事件・東京高裁平13(ネ)6510号事件
 判決は地価と固定資産税の下落を根拠として賃料減額請求を認めた地
裁判決を取り消して、被控訴人の減額確認請求をすべて棄却するもので
ある。同時に、判決は継続賃料鑑定評価に関して、多くの事項を指摘し
ている。以下は判決が指摘する幾つかの事項です。詳しくは判例時報
1800号か判例タイムズ1105号をご覧下さい。
1.土地の適正な継続地代は、地上建物の賃料をもとに土地残余法などに
より算定されるべきである。
2.土地の市場価格が将来の値上がり益を織り込み、収益還元価格と異な
る水準にあるときに、市場価格の値下がりは「値上がり期待値部分の下
落」に過ぎず、直ちに地代の下落を認めるものではない。
3.利回り法を採用するに際して、利回りを乗じる基礎価額は、土地の価
額から借地権価額を控除したものを採用すべきではない。
すなわち、賃借人の借り得部分(借地権価格)を減額するということは、
その計算の結果算出される額が、合理的な理由もなく賃借人に有利にな
ることを意味する。そのような算出方法は公平なものとはいえない。
 利回り法を採用するのであれば、そのなかに値上がり期待値がどれだ
け含まれるか不明な市場価格を基礎価格とすべきではなく、土地残余法
収益還元価格をそのまま基礎価格とすべきである。
4.比準賃料は、それが地代の適正額に関する相場を意味するものであれ
ば、地代算定上はもっとも重視すべきものである。
それゆえに、できる限り広く事例を収集して、適正な地代の相場を発見
するように努めるべきである。
5.スライド法については、固定資産税の変動をそのまま反映させること
は妥当ではない。固定資産税は経済外的な理由で増減しているのであり、
固定資産税の増減があっても、そのことは地代を増減すべき経済的条件
があることを意味しない。
6.差額配分法について(最も手厳しい指摘である)
 差額配分法は、土地の市場価格が収益還元価格と乖離して変動してい
た過去の時代に、土地の市場価格を基礎にして算定される地代と実際支
払い地代との差額を賃貸人と賃借人との間で配分するという思想で作ら
れていた。しかし、それがなにがゆえに正当なのかを検証することは極
めて困難であった。
 現在は、土地の市場価格のうち将来の値上がり期待部分が減少し、次
第に収益還元価格に近づこうとしているのであって、そうであれば土地
の収益還元価格を計算して、それによって適正な地代を算出すればたり
るのであり、差額配分法の存在意義を認めることは困難である。
・・・・・・茫猿独白・・・・・・・・・
 改正されたばかりの新鑑定評価基準は、継続賃料評価手法の冒頭に差
額配分法を掲げているが、差額配分法はこの高裁判決によって真っ向か
ら否定され、過去の遺物呼ばわりされた訳である。
 憲法判断や法令解釈に著しい誤りがなければ、この高裁判決は確定す
るであろうが、さて鑑定士は何処に向かうのであろうか。

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