取引情報の開示から

【茫猿遠吠・・取引情報の開示から・・03.11.27】
かねてから話題の不動産取引情報公開について、国交省・国土審議会・土地政策分科会企画部会では具体的方針を定めたようである。 本日の朝日新聞朝刊は、この件に関して1面に詳細に報じている。


公開事項は、所在について町丁目単位、取引価格、面積、建物種類・床面積、取引時点が予定され、詳細地番や取引当事者名は開示されないようである。さらに地理情報システムを利用して、インターネット上から、地図上で検索した対象地域毎に取引価格を表示できるようにすると記事は伝えている。 土地政策分科会企画部会では今月末に最終報告書をまとめて国交相に提出する予定とのことである。
・朝日記事 http://www.asahi.com/national/update/1127/003.html
・企画部会 http://www.mlit.go.jp/singikai/kokudosin/tochi/kikaku/kikaku_.html

 

この件に関して、国交省は03/07/30にパブリックコメントを募集していたが、日本不動産鑑定協会は澁井資料委員長名で8/29付けにて意見書を提出している。
・パブリックコメント募集・・(募集終了)
http://www.mlit.go.jp/kisha/kisha03/03/030730_.html
・鑑定協会意見書は会員専用ページのみに公開。
協会(資料委員会)は、この意見書のなかで、A案(個別物件情報開示)に賛成と表明し、収集開示された取引価格の地価公示制度や鑑定評価制度への活用を求めている。また同時に、異常と認められた取引価格に関する調査権の付与を求め、「地価の番人」たる機能と権限の付与を求めている。
この意見が採用されれば結構なことであろうが、現実はB案(一部個別情報秘匿)に沿った内容に落ち着くようである。さて、そこで我々不動産鑑定士並びに鑑定士協会は如何に対応したらよいのであろうか。

 

取引不動産を確定できる情報(所在地番情報)が開示されない以上、どのようにして開示される取引価格の対象である不動産を具体的に確定したらよいのであろうかということである。
※地番情報まで確認できなければ、個々の不動産に関する分析が不可能であるから、取引事例情報としては活用できない。
B案で開示制度がスタートすれば、個別物件情報は厳重に秘匿されるであろう。しかし企画部会中間とりまとめでは、「取引価格情報を地価公示に提供することにより、地価公示価格がさらに精度を高めてゆく」といった記述があることから、何らかの方法で提供されるであろうが、具体的にはまだ見えてこない。近く公表されるであろう最終取りまとめ案が待たれるところである。
ところで、茫猿はこの取引価格開示制度の具体化に先だって鑑定協会業務推進委員会から「新しい鑑定評価業務の創設に関しての意見募集」が行われたことを興味深く思っています。業務推進委員会が「新しい鑑定評価業務分野を開拓したいと考えること」に異論はありませんし、意見を募集する委員会の善意や意欲を疑うものでもありません。
しかし、新規の有望業務分野が、それ程簡単に登場するとも思えないし、仮に登場したとしても、新分野はより高度な知識や技術や経験を要求するものであろうと考えるのです。

 
茫猿が預かっている2名のインターン生と、常々鑑定評価の今後について会話しています。というよりは、今後の展望をどのように考えますかと質問されるのが常です。 そんな折りに茫猿は、こんな風に答えています。
・鑑定評価の今後は、鑑定評価の範疇外にあるだろう。
・鑑定評価の専門家たらんとするよりは不動産の専門家を目指すべき。
・単なる価格評定業務は、その歴史的役割を終えつつある。
・土壌汚染、埋蔵文化財、埋蔵物、DCF、証券化 etc、いずれも今以上に高度な専門知識を要求するものである。
・土壌汚染資料や埋蔵文化財資料、最終処分場履歴などにも云えることだが、取引事例や賃貸事例など大量の資料を効率的に効果的に利用してゆく技術力が必須であろう。
・取引事例比較法も収益還元法も原価法も、従来型の評価作業工程に止まっていては社会のより高い評価と信頼が得られないであろう。
・大量データを基礎とする分析手法の確立が急がれる。
・同時に、個別データの精緻かつ詳細な分析も求められるであろう。
・もちろんのこと、複合不動産評価に関して言えば、高度な建築知識が求められるであろうし、企業収益分析に関しては経営分析能力が求められるであろう。
そして、それらを会得したとしても、直ちに鑑定及び鑑定関連業務受託に結びつくと考えるのは早計に過ぎるだろう。

 
高度な専門分野を持ち、全国的な展開が無理でも広域的業務展開が図れる専門家を目指すか、エリアを限定するなかで幾つかの専門分野で社会的評価が得られる専門家を目指すか。それとも従来型業務を効率的に消化してゆく方向を目指すか。ただし、前二者は非価格(業務水準)競争にさらされるし、後者は価格(業務報酬)競争に否応なくさらされるであろう。
制度改革により、近い将来には、不動産鑑定士が倍増はおろか数倍増することが予想されるし、多くのデータが溢れる状況からはそれらの的確な処理能力が問われる事態が予想される。
鶏頭(鶏口)を目指すか、牛後に甘んじるか。いずれにしても悩ましいことである。

 
・・・・・・いつもの蛇足です・・・・・・
地理情報システムによる取引価格開示は、相続税路線価や固定資産税路線価を利用した地価検索システムを充実させるだろうし、それらの無料情報提供が幾つかのサイトで行われるようになるであろうと予測します。
鑑定士は、多量事例に基づく価格試算や賃貸事例の充足を視野に入れなければならないだろうと予想するし、個別事例及び個別不動産についてより一層精緻な分析能力を獲得しなければならないであろうと予想します。地理情報にも習熟しなければならない。

パブリックコメント募集や役員会・委員会報告、さらには国際評価基準、留意事項、鑑定のひろば等を会員専用ページに掲載する意味が、よく理解できない。公益法人が個人情報については専用ページに掲載することが当然としても、公益法人の活動内容やその経緯を社会に開示することに何の不都合が有るのだろうか。日々の活動状況を開示すれば、一般人のアクセスがより増えるであろうに。
過日、協会役員選挙のおりに、メールマガジンの活用や役員のメールアドレス(協会活動専用)の開示などを、テーマとして公開質問しました。 多くの役員候補者は前向きに好意的に受けとめて頂いたのですが、アドレスの開示もメールマガジンの積極的活用も実行されていません。
会員のコンピュータ・リテラシー向上に役立つだろうにと考えるのですが。

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