取引事例悉皆調査

不動産の取引事例というと、多くの方は鑑定評価に採用できる事例を思い浮かべることが多いようである。しかし、よく考えてみよう。評価採用取引事例を価格事例と称することにして、この価格事例はどのような方法で収集するのであろうか。取引仲介業者からの聴取、取引当事者からの聴取、伝聞事例の収集等の様々な方法が考えられるが、これら収集の基礎とする原始データは所有権移転調査から始まるのではなかろうか。物件の所在地、地目・数量、取引時点、取引当事者等、即ち、所有権移転に伴う登記簿記載事項の調査を始点とするものである。


※取引事例悉皆調査の必要性
この所有権移転調査を悉皆的に行おうとすることを、取引事例悉皆調査と称するのである。では、何故に取引事例悉皆調査が必要なのであろうか。一般的に、価格事例は発生した取引の全てを網羅することはできない。取引当事者や仲介者の守秘義務の壁に阻まれることも多い。鑑定士間で資料交換を行っても士協会組織で閲覧をしても、発生取引の全てを価格事例として把握することはできないし、用意もされてはいない。評価を行おうとする時に、評価対象地の近隣地域或いは隣接する地域に価格事例が皆無の場合もある。しかし、価格事例が皆無であるとしても、原始取引事例が皆無であるとの証拠にはなりえない。取引価格が把握されていないだけで、取引が発生している場合は往々にして多いのである。
この原始取引事例のデータが整備されていれば、取引価格の追跡調査は可能であり、より詳細な取引価格データの収集が可能となるのである。鑑定士が様々な業務を通じて、個々に或いは組織的に原始取引データを調査し、次いで価格データを調査したとしても、その全てを把握することはできない。しかし、この原始データを組織的にファイル化すれば、後日必要に応じて追跡調査が可能となるのである。(この追跡調査或いは補充調査を行うに際して、原始取引データの調査から始めることは時間的にも費用的にも困難さがつきまとい現実的ではない。)取引事例悉皆調査とは、改めて悉皆調査を行おうと提案するのではなくて、各種業務の中で原始取引データを調査しているのであるから、この原始取引データを悉皆的に保存し、電子ファイル化しようと提案するのである。
※この取引事例悉皆調査の手順は次の通りである。
A.移動通知書の閲覧・閲覧に際しては、閲覧対象期間中の全ての取引を閲覧記録することが望ましい。(一定規模以下の取引は除外する等の方法もあり得るが、後述のデータ整備や利用の観点からは、全取引の記録が望ましい)
B.閲覧記録の電子ファイル化保存・取引記録の保存は、地価公示国土庁フォーマットに拠って、電子ファイル化されるべきである。ファイルのフォーマットは、以後の利用の便宜を優先する考え方から、当面国土庁フォーマット以外の採用は現実的ではない。国土庁フォーマットファイルであれば、公的評価フォームへのデータ移行が簡単であり、全体の統一性保持も容易である。
C.取引価格の調査と記録・取り引きされた価格は、面接聴取、アンケート調査等の現在採用されている各種の方法で調査し、把握できた取引価格はBで作成した悉皆調査ファイルに追記記録する。
※取引事例悉皆調査ファイルの利用最初に考えられるのは、評価業務に際して取引価格事例を補充するために、データファイルが利用できる。同時に評価調査対象地の周辺において、過去の一定期間取引が発生したか否か。発生件数はいかほどかが瞬時にして判明できる。都市圏では隣接地の取引すらも把握できない場合
が往々にしてあるが、そのような見逃しは最小限度に止めることができる。同時に必要な追加・追跡補充調査が容易となる。
次に考えられるのは、評価調査対象近隣地域等に於いて、過去の一定期間中の土地等取引動態が把握できる。取引地目毎に、取引規模毎に、取引当事者の属性毎に取引の動態を把握し、同時に類似する地域との比較が可能になる。別の云い方をすれば、土地取引を通じての地域分析が可能になるのである。
更に、土地取引状況詳細調査業務が行える。
都道府県下取引の全数入力結果を分析して、土地取引状況詳細調査報告を四半期ごとに行える。報告書分析内容は、全取引の取引態様別分析、取引件数の地域別分析、取引当事者の属性別分析、所有権の短期取引の把握等である。
又、成約価格に対応する相当価格の判定会を開催し、一定規模以上の取引について相当価格を判定して成約価格(取引価格)と相当価格(正常価格)との開差を分析し、四半期毎に成約価格動向調査(速報値)報告書を作成し報告できる。(前記二調査は公的調査事業である)

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