拠ラシムベシ、知ラシムベカラズ

【茫猿遠吠・・拠ラシムベシ、知ラシムベカラズ・・04.09.01】
 8月25日付けの日本不動産鑑定協会・研修委員会よりの研修案内が届いた。
表題を一瞥してビックリである。
「改正鑑定法解説と取引価格情報提供制度の概要説明並びに倫理及び土壌汚染に関わる鑑定評価に関する研修の実施について」とある。
最も早い研修開催日は10月26日である。
 改正鑑定法の研修テーマは(1)試験制度の改正とそれに伴う新実務補習制度、(2)鑑定評価周辺業務の位置付けと鑑定評価業務に対する監督についてである。
 倫理研修のテーマは独占禁止法についてである。
土壌汚染問題と鑑定評価については、単位会や様々な組織・機関で行われており、今さらという感がないでもないが今回は運用指針2との関連での研修のようである。
 さて、茫猿が驚き、またもや「拠ラシムベシ、知ラシムベカラズ」かと嘆くのは、取引価格情報提供制度についてである。この問題を噂的に耳にしたのは年初のことであり、昨年話題になったが結局沙汰止みとなった取引価格情報開示に代わる何らかの措置が必要であり、その検討が行われていると聞いていた。
 それが、鑑定協会の資料委員会(7/13)及び地価調査委員会(8/03)で説明され、鑑定協会としての対応を検討しようという報告が協会サイトを通じて公表されたばかりである。
 それなのに、2005年04月試行を目指して制度設計が準備されているから、「不動産取引価格提供制度」の概要と、これに関わる情報の収集・調査・管理体制について、国交省担当官をお招きして講義をして頂くという。
 理事者をはじめ枢要にいる人々にすれば、不用意な情報公開は議論百出百家争鳴、総論賛成各論反対を招き、百害有って一利無しとお考えなのでしょう。
だから情報は小出しにして、全て決定済みになってから公開するということなのでしょう。拠らしむべしと云うことの本来の意味は、理事者に任せておけば安心だという処にあるのですが、孔子の時代ならともかく、この情報化の時代に情報を囲い込んで決定済み事項だけを配布し、服わせる(マツロワセル)という古めかしい遣り方には納得できないものがある。
 前号・前々号記事でこの取引事例収集新スキーム案について、検討すべきと考えられる事項を提案したばかりである。この間に理事会においてどのような審議が行われたのか、研修開始まで二ヶ月弱の期間中に地価調査委員会及び資料委員会はどのような提案をまとめるのであろうか、全て不透明のままである。
 7/20開催理事会についていえば、上程議案はなく、澁井資料委員長が主任研究員就任に当たり委員長を辞任したことに伴い、新委員長として田辺邦彦理事を選任の報告など報告事項だけである。以後研修開始までに開催が予定されているのは9/21開催理事会のみである。鑑定協会として新スキーム対応施策を真剣に検討しようとする姿勢が何処にも見えないのである。
 取引事例収集新スキーム案について、基本的に茫猿は賛成である。
すなわち、法務省→土地鑑定委員会→鑑定協会という流れで異動情報がテキストデータでもたらされることは歓迎する。しかし、その後が問題である。
 前号で記事にしたように、鑑定協会一括処理か単位士協会分散処理か、著作権問題をどう扱うのか、事例カード作成に至るまでのスキームをどう構築するか等々、考えておかねばならない問題は多いと思う。
 鑑定協会一括処理と云っても、鑑定協会はどのような準備を開始しているのであろうか。鑑定協会が『一括処理』を、一括して別の団体や組織に丸投げするのではないかと危惧するのである。鑑定評価の根幹を構成する事例収集整理という作業を外部に任せてしまうとすれば、鑑定士の自殺行為であろうと考えるのである。それがあり得ぬことではなかろうと云う茫猿の予想が、外れることを祈るのである。
※不動産取引価格提供事業の推進主体として最も可能性が高いと考えられるのは(財)土地情報センターである。土地情報センターは既に「国土利用計画法関連業務・土地取引状況調査統計分析業務・土地取引規制実態統計分析業務」の事業実績を積んでいるし、各種システム開発及び保守管理業務にも実績を有している。鑑定協会が押っ取り刀で始めるよりは、土地情報センターに全て任せた方が安心であろう。
 (財)土地情報センター http://www.lic.or.jp/
 それはさておき、異動通知書の閲覧を始めて以来、ほぼ30年振りのスキーム転換である。法務省から土地鑑定委員会への情報提供は間違いなくテキストデータによるものであろうから、事例収集システムが全面的にデジタル化移行するのであれば、それに伴う全体スキーム構築だとか、情報伝達手段の構築だとか、情報漏洩対策だとか、検討すべき事柄は多いであろうに、国交省担当官を招いて新スキーム案について講義を受けるという研修会日程のみ先行している。
 負んぶに抱っこで済ませるのであろうか、拠らしべし知らしむべからずと云うことであるのか、既に取引事例悉皆調査を実施している単位会は多く存在するし、見るべき実績を挙げてもいる。情報漏洩という不祥事を起こした例も茫猿は聞いたことがない。実際にデジタル化システムを運用している単位会の実績と実情を調査し、それらの発展系の上に新スキームが構築されて然るべきと考えるのだが読者諸兄姉はどうお考えでしょうか。
 研修会日程のみ先行し、既往例について見る目も聞く耳も持たず、
 鑑定評価の基盤である事例情報収集について安易に流れかねない。
 新スキーム&新システム構成がその後の全てを決めることに意を用いない。
 すべからく、拠ラシムベシ、知ラシムベカラズで動いてゆく。
 願わくば全てが杞憂であることを、祈るのである。
・・・・・・鑑定協会サイトよりの引用・・・・・・
地価調査委員会報告より 平成16年8月3日(火) 開催
5. 国土交通省の新たな取引事例の収集・提供スキーム(案)について
 田畑専務理事からスキーム(案)の概要について説明が行われ、この仕組みにより、法務省から土地鑑定委員会を通じて鑑定協会が定期的に異動情報を入手でき、かつアンケート調査の回収率が上がることが期待できるが、アンケート回答があったものは原則としてすべて事例カードにすることが求められているため、地価公示鑑定評価員にとっては現地調査等の作業が増えることが考えられる。
 また、鑑定協会としては情報管理の徹底、個人情報保護法に関するガイドラインの作成等を行うことが必要になる等、個別には検討課題があるが、基本的にはいい方向であるので、この仕組みに取り組む体制を確立していきたいとの提案があり、協議した結果、これを承認した。
 関連して、事務局から現在資料委員会において事例資料等の収集・管理・閲覧体制について検討を行い、規程の見直しを行っている。この仕組みを受け入れるためには、協会として利用者、管理者の責任体制について外部に対して説明できるよう整理していく必要がある。士協会等の意見をいただきながら規程を見直すとともに、この仕組みのスムーズな制度化に努めていきたいとの説明が行われた。
資料委員会報告より 平成16年7月13日(火) 開催
2. 国土交通省の地価公示の枠組みによる地価情報の収集・提供のスキーム(案)について
専務理事からスキーム(案)の概要について説明が行われた。
引き続き、増田副会長からこの仕組みにより
(1) 異動情報の情報源が確保され、かつアンケート調査対象者に対して明確に説明ができるようになる。
(2) 調査票の回収率が上がることが期待できる。又、収集事例資料が一般鑑定に利用できる。その一方で、国の制度で事例収集活動を実施するには、鑑定協会の責任において行政当局や国民各層に説明できる情報管理等についての内部ルールの策定、意識の徹底のための研修、不正利用を防止する情報の収集・保管・利用体制の整備を今にも増して図らなければならない。
 また、鑑定評価員にとっては取引事例カード作成のために現地調査等の作業が増えることが考えられる。このように細部については、様々な検討課題があるが上記(1)及び(2)についてはこれまで鑑定協会が行政当局に要望してきたことであり、実現に向けて積極的にこの仕組みを受け入れる体制を整えていくこととしたいとの提案があり、協議した結果、これを承認した。
・・・・・・いつもの蛇足です・・・・・・
 「拠(よ)らしむべし、知らしむべからず」という言葉がある。もともとは孔子の言葉で、「国民が専門的な知識を勉強しなくても安心して頼れるような政治をするべきだ」というのが本来の意味である。
 ところが、今は「国民には肝心なことは知らせないで、お上のいう通りにやっていればいいんだ」という形でもっぱら使われる場合が多い。官僚や政府の独善性、大衆を見下す「愚民」観の表れとしてしばしば使われる。
『琉球新報:金口木舌より引用』
・・・・・・蛇足その2・・・・・・
 鑑定評価の根幹を構成する事例収集整理という作業を他者に委ねてしまうとすれば、鑑定士の自殺行為であると何故考えるかと云えば、原始異動情報並びに回収調査票を含めた全データの鑑定協会への開示が約束されていないからである。(茫猿の得ている情報は僅かであり、全データ開示が約束されているのであれば、とても喜ばしいことである。杞憂であればよいと考えます。)
 だけど価格付与データのみの部分開示であれば、問題が多いと考えるからである。同時に前にも述べたが著作権問題とか二次三次加工に関する問題もある。
 事例のデジタル化は大量のデータを素早く確実に駆使できることから、限られた少数の事例を基礎にした比準価格試算手法から大量データに基づく試算手法の併用に進んでゆくであろうと予測する。大量データを基礎とする試算手法は統計解析的手法のみを云うのではない。数値比準表試算手法もその一つであるし、これから試行錯誤を繰り返して開発してゆけばよい。それこそが鑑定士のスキルを向上させてゆくであろう。
 しかし、外部組織丸投げは、その出発点で鑑定評価作業を従来型に封じ込めてしまいかねないから自殺行為と云うのである。
 また、両手法併用と云うのは、限られた(選択した)少数の事例について精密な調査を行って得た取引事例を基礎とする比準価格と、大量データを駆使して得た市場資料分析結果とも云うべき比準価格(価格を示すと云うよりも価格帯を示すことになるであろう)が併存する状況が現れて来るであろうと予測するのである。
 大量の原始取引データを駆使した地域分析を行うことが必要であるし、可能になるのに、それをスタート段階で放棄させかねないから自殺行為というのである。
 不動産取引異動情報は国民共有の財産である。この前提を忘れてはならないし、この前提に立って如何に公益に資する情報提供が可能であるかという視点で新スキームに対する鑑定協会の対応方針を考えたいものである。

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