事例と情報保護

【茫猿遠吠・・事例と情報保護・・04/09/04】
『取引情報悉皆調査から取引情報開示まで、並びに保護ガイドライン』
 去る04/09/01より09/03まで、二泊三日の日程で標題について情報収集を行いました。現在は検討中、企画中、試行前等の事情がございますから、役職名等は仮名にて記事に致しますが、茫猿の拙い取材でも様々な問題点が指摘できます。今回の取材においてお伝えしたいことは山ほどございますが、取り敢えずの優先順位を設けて記事にします。


 ただ、記事は茫猿すなわち茫け猿の取材と記憶に基づくものであり、メモ並びに録音はとっておりませんから、記憶違い物忘れ事実誤認のおそれがあるだろうと推測される点にもご留意頂いて、行間をお読み下さい。
 取材先  霞ヶ関方面(官公庁)  虎ノ門方面(財団社団等公益法人)
 参考資料 国土審議会企画部会議事録 個人情報保護法ガイド
一、情報関連用語定義 (茫猿による定義)
A.一次データ (取引全量約3百万件)
 売買による所有権移転情報、土地所有権移転情報は含むが建物所有権移転情報について未確定部分が多い。(即ち、複合不動産取引、区分所有権取引等)。
一般に異動通知情報と称するものであり、不動産取引情報の内、売買を原因とする所有権移転情報である。
 情報はテキストデータファイルにより、法務省から国交省に提供される。
提供目的は、国交省が行おうとする「土地情報の整備・提供事業」の原始資料として位置づけられるものである。
所管課は国交省・土地水資源局・土地情報課である。地価調査課ではないことに留意するべきである。勿論、土地情報の整備という面から地価調査課が重要な位置を占めていることは云うまでもない。
・提供範囲は、地価公示施行区域・都市計画区域内の予定である。
・提供開始は04/10より試験提供が始まる。
・05/04よりは三大都市圏にて試験運用が開始され、
・三年後には全国的に展開される見込みである。
・年間の延べ件数は300万件強と見込まれる。(内、都計区域内取引のみ)
・法務省よりの提供は一ヶ月単位の予定である。
・施行目的は土地情報整備である。
・データアイテム 所在,地番、地目、地積、取引時点等
B.二次データ (取引価格情報)
・主に取引価格についての郵送アンケート調査を行う。
・回収結果を一次データファイルに入力する。
・アンケートは土地鑑定委員会及び鑑定協会名にて行われる予定。
・回収率は30~50%が見込まれている。
・アンケート内容に、底地、複合不動産価格等を含むべきか否か検討中。
・同じく、底地賃料、収益物件賃料等についても検討中。
C.三次データ (取引事例カード)
・回収された二次データの全てを事例カード化する予定。
・事例化の目的は情報提供の内容充実の為である。
・またインターネット公開により土地情報へ国民の関心を高める目標がある。
・事例カードは公示取引事例カードに準拠するが、詳細は検討中。
 この三次データの作成について鑑定協会に委嘱されるものであるが、業務量の増加と委嘱予算が限られることから、事例カードの記載内容が多項目であれば鑑定士の負担が重くなると云う認識が施行者に存在する。
 同時に土地情報整備・提供という事業目的の到達度を高めるためには、『取引価格をそのまま提供するとしても、いろいろな周辺情報もあわせて提供していかないとわかりにくい。
 土地に関する情報がインターネットで広く伝わることによって土地取引に関心が高まることが重要。
 地方公共団体が持っている物件特性情報、特に環境汚染情報や履歴情報などは重要。
 取引価格の公開は、進めていくべき施策であるからこそ、何故、誰のために提供していく必要があるのか、一般の人にわかってもらう努力が大切。』
という基本認識が存在することに、鑑定士は留意すべきである。
D.四次データ (地価公示)
 四次データは従来から施行されている地価公示である。公示評価書の全面公開が(一部はマスキングされる)、近い。
この開示情報のなかには、地価公示価格情報、標準地属性情報、取引事例等情報が含まれるものである。
二、事例収集の作業工程 
A.一次データのフロー
 法務省より毎月一回程度の頻度で国交省経由土地鑑定委員会に提供される予定である。その後、主管課である土地情報課を経て財団法人土地情報センターよりアンケート調査書が回答依頼書や趣旨説明書等を添付して当事者に発送照会の予定である。05/04より三大都市圏において試験運用の予定であるが、年内にも都心三区等で事前試験運用も検討中である。
 アンケートの回収結果は、データファイルに入力して、二次データファイルが作成される。
B.二次データのフロー
 (財)土地情報センターより土地情報課並びに地価調査課を経て、鑑定協会に二次データ(取引価格情報)が提供される。
この二次データが公示評価員に示され事例カード作成作業が行われるものであるが、二次データの流れは、日本鑑定協会から都道府県鑑定士協会に提示されるか、地価公示代表幹事会次いで各分科会幹事そして評価員という流れになるのかは不明である。
 何故に不明であるかと云うと、05/04施行の個人情報保護法ガイドラインと各士協会或いは地価公示分科会の情報管理準備進捗状況が大きく関わるからである。
 すなわち、所管庁から示されるガイドラインを充足しない組織には情報提供が出来ないからである。(個人情報保護法対策ガイド参照)
平たく云えば、情報保護、特に機密漏洩を防ぐ規程、防備手段等ガード整備が実現していない組織には情報提供が不可能となる所以である。
 つまるところ、ガイドラインの難易度と事例作成組織の整備充実度は並行する関係にあると云えるものであり、鑑定士の情報保護についてのハード・ソフト両面での整備が急務である所以でもある。
C.三次データのフロー
 取引情報開示用の事例カード(三次データファイル)は、一次データ提供頻度に合わせて、各月報告となるものであり、事例作成が通年業務となることに留意しておく必要がある。当然のことであるが、地価公示評価員委嘱期間との整合性をどのように図るかという課題が残されているし、鑑定士側の準備も大きな課題である。
 鑑定士側の業務量増加に対する見返りは、様々なものが考えられるが、最も重要なのは、取引価格情報が充実することであり、一次データ及び二次データ作成作業から解放されることである。
 さらに、個人情報保護ガイドラインが未提示であるから、軽々な予測は避けたいが、不透明な扱いを完全には否定できなかった事例収集源等について正統理由が用意されるという点にも注目したい。
 同時に個人情報保護法が重くのしかかるということも忘れてはならない。
 尚、データのフローはB二次データフローの逆の流れとなる。
三、鑑定士の課題
 鑑定士にとって最大の課題は、近く主務大臣より示されるであろう「個人情報保護法ガイドライン」に即した事例収集体制をハード、ソフト両面において整備できるか否かである。
 例えば、万が一にも個人情報が漏洩した場合に於ける対処規程・規約が整備できているか、責任者が明確になっているか、データの移送手段が整備されているか、等々が考えられる。
 現時点で、地価公示分科会或いは都道府県士協会に於ける主な情報移送手段はFD(フロッピーデイスク)或いはE-Maill添付ファイルが主流と側聞する。
しかし、ガイドラインにおいてFD・MO等デイスケット利用や、E-Maill添付ファイルは、否定されるか否定されないまでも、大幅な制約が課せられるであろうことは十分に推測される。
 それは、現在までに起きた漏洩事故の多くはFD、MO、CD等媒体利用によるもの、或いは、E-Maill等インターネット関連によるものであるからである。
 別の表現をすれば、簡単に複写されないこと、置き忘れ紛失盗難等の事故が防げること、他者の進入を簡単には許さないハード・ソフト構造であること等が求められるであろう。
 サーバーやクライアントパソコンに誰でもが容易に接触できる状況(鍵のかからない部屋、パスワード未設定の無防備パソコン)。
 または容易にオンラインアクセスを許してしまう無防備なパソコン(インターネット常時接続であるのに、ファイヤーウオールも整備されていないサーバーやパソコン)などは否定されるであろう。
 これらの防御手段整備が急務なのである。
防御整備が整わない事例収集受託組織は、整備が整うまで業務委託が止められるであろう。その間は従来型手法に事例収集を行わざるを得ないが、従来型の資料収集の継続可能期間が限られているであろうことも留意しておかなければならない。
四、個人情報保護法の概要
 取引事例という重要な個人情報を取り扱う鑑定協会並びに士協会は、05/04施行の個人情報保護法並びにガイドラインについて、早急な準備が求められる。
「法の概要」
・個人情報を収集する際には利用目的を明確にしなければならない。
・目的以外で利用する場合には、本人の同意を得ないといけない。
・個人情報を収集する際、利用目的を通知・公表しなければならない。
・情報が漏洩しないよう対策を講じ従業員だけでなく、
・委託業者も監督しなければならない。
・個人の同意を得ずに第三者に情報を提供してはならない。
・本人からの求めに応じ情報を開示しなければならない
・主務大臣の命令に違反した場合や、報告義務に違反した場合には
・罰則が科せられる。
・主務大臣の命令に対する違反の場合 
・6月以下の懲役または30万円以下の罰金
・報告義務違反の場合 30万円以下の罰金
個人情報保護法
http://www.kantei.go.jp/jp/it/privacy/houseika/hourituan/
本人の求めによる提供停止(オプトアウト)の仕組み
http://www.kantei.go.jp/jp/it/privacy/houseika/hourituan/pdfs/04-2.pdf
個人情報保護法対策ガイド
http://www.ntt.com/vcn/security/
五、近い将来の課題、実現目標
 以上が、新しく運用されようとしている事例収集新スキーム案並びに個人情報保護法について、茫猿の関係筋への取材に基づく概要である。茫猿の推測も含んでいるが、隣接資格者団体等に於ける準備状況等に照らして検討すれば、大きな相違はないと考える。
※税理士会の電子認証局制度
 http://www.nichizeiren.or.jp/02info/denshi.htm
※経済産業省分野を対象としたガイドライン
http://www.meti.go.jp/policy/it_policy/press/0005321/index.html
※プライバシーマーク付与指定機関(指定機関)
 付与機関 によって指定された民間事業者団体です。
指定機関は、会員からのプライバシーマーク付与に係る申請の受付・審査と付与可否の認定等、付与機関と協調してプライバシーマーク制度の運用に重要な役割を担います。
 http://privacymark.jp/list/dlist
 さて、鑑定協会並びに士協会はプライバシーマーク付与機関を目指すことが必要なのでしょうが、それと並行して地価公示制度発足以来最大とも云える地価公示等業務スキームの変更に際して、為すべきことが多くあると考える。
 今回の事例収集事業の事業目的が「土地情報の整備・提供」にあることを考えれば、鑑定士の為すべきことは、自ずと明らかである。
・単にテキストデータによる事例提供に止まっていてよかろうか。
・土地情報の社会還元という視点からすれば、多面的な属性情報付加が肝要。
・社会還元情報量の充実が、即、鑑定士の社会的存在感を向上させる。
それらの視点から求められる鑑定士の積極的な情報整備寄与
・GIS、つまり地図情報、地理情報システムの縦横の活用(必須であろう)
・事例地地形図、写真等画像データの整備(当面の開示提供とは無関係)
・オンラインシステムのセキュリテイ整備(必須であろう)
 等々、取引情報の内容充実とシステム整備が求められるものである。
 これらを、詳細に検討すると身震いするほどの緊張感と、この新スキームがもたらすであろう情報量の充実への高まる期待感を感じるのである。
 二次、三次、四次データが重要であることは今さら云うまでもない。
しかし、それと同等、いやそれ以上に一次データが重要であり、鑑定士の生命線とも云えるのである。一次データの活用が多くの情報を鑑定士にもたらすであろうし、社会還元情報の内容を多面的に充実するであろう。
本記事において詳細に述べるゆとりは無いが、過去の『鄙からの発信』記事を参照すれば理解して頂けるものと茫猿は考える。
『鄙からの発信』関連記事
※取引事例悉皆調査 
http://www.morishima.com/cgi-bin/np_boen/newspaper.cgi?action=view&code=985099381
※ブロードバンド化
http://www.morishima.com/cgi-bin/np_boen/newspaper.cgi?action=view&code=1082479745
※ブロードバンド化(2)
http://www.morishima.com/cgi-bin/np_boen/newspaper.cgi?action=view&code=1082913919
※ブロードバンド化開始
http://www.morishima.com/cgi-bin/np_boen/newspaper.cgi?action=view&code=1091557408
・・・・・・いつもの蛇足です・・・・・・
1.地価公示評価書の開示
 鑑定士に十分に認識されているとは言い難いことであるが、公示評価書が開示されたときに、標準地近隣地域内に発生した取引事例を的確に把握しているか否かが問われるであろう。これら調査不足等の指摘や批判に対応する手段として一次データの把握と分析は大変に重要である。
2.地域分析、市場分析基礎データ
 同様に、一次データの加工による取引動態分析は、鑑定評価の精度向上に必ずや寄与すると考える。
3.セキュリテイ
・事故は起きるという前提条件付きで考えること。
・事故の範囲を小さくするべく努力する。(地理的範囲・時系列的範囲の縮小)
・常に情報漏洩への注意が喚起されるシステム構築
・不注意事故が避けられるシステム構築
・それでも便利さの追求と安全性追求は二律背反的命題である点に留意する。
・・・・・・委員会出席報告・・・・・・
◎不動産鑑定士法検討専門委員会(委員長:都築武保氏) 09/01開催
 委員会審議概要、議事録、委員提出資料について、鑑定協会サイトに速やかに掲載するべく努め、可能な限り情報公開を行うべきと茫猿は提案しました。
 提案は委員会の賛同を得て認められ、近日中に多くの資料が公開されますことから、詳細は鑑定協会サイトに委ねます。。
尚、年内答申を目標に各月一回以上の委員会開催と、E-Maillを利用したオンライン審議(情報交換中心)も認められました。
◎鑑政連組織改編委員会(委員長:稲野辺良一氏) 09/02開催
 第一回の会議でもあることから、鑑政連財政の現状と活動状況等について意見交換を行いました。
 財政基盤充実を重視すべきと云う意見と、鑑政連の活動内容の周知徹底、さらには鑑政連の具体的且つ会員の利害に直結する活動目標を明示することの重要性等の意見が示され、次回会議までに問題点を整理することを約して散会しました。(鶏が先か、卵が先かということですが)

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