証券化鑑定実務指針(案)公表

 06.08.08付(社)日本不動産鑑定協会発行メールマガジンは、[不動産の証券化に係る「不動産鑑定評価基準等適用上の評価手法等の実務指針」の作成を予定しており、公開草案を公表しパブリックコメントを募集しております。]と伝えている。
 日頃から拙速よりも巧遅をモットーとする鑑定協会にしては素早い対応だなと思いながら、公開される「不動産鑑定評価基準等適用上の評価手法等の実務指針(案)」を拝見したのである。


 茫猿としては、06.06.29発信の会長談話が「協会と致しましては、従来より、精度の高い統一的不動産投資DCF基準の作成に努めてきましたが、今後、証券化関連鑑定評価の水準向上及び適正確保に関し早急に特別委員会を設置して現下の課題に対処してまいりたいと考える次第です。」と約束する特別委員会が早速に公表する試案と理解したわけである。
しかし当然のことながら、違っていたのである。
 このパブリックコメントを募集するのは鑑定協会・業務課であり、所管委員会は法務鑑定委員会(委員長:熊倉隆治氏)の内部専門委員会:証券化関連不動産専門委員会(委員長:村木信爾氏)のようである。ようだというのはコメント募集要項・注意事項に「皆様から頂いたご意見につきましては、当会の証券化関連不動産専門委員会において検討を行う際の資料とさせていただきます。」とあることから、推測されるのである。
 改めて調べてみると、法務鑑定委:証券化関連不動産専門委は既に06.03.22に、「不動産の証券化に係わる鑑定評価等の留意事項の作成について」という予告を行っているのである。その予告の中で証券化専門委は概略次のように述べているのである。
1.はじめに(概略)
 不動産の鑑定評価は不動産証券化取引のなかで、そのスキーム組成の基礎的条件の一つとして。他の専門家によるサービスとともに不動産投資市場の基盤を支えるものとして位置づけられてきている。
2.課題(概略)
 不動産投資市場の発展に寄与するためには、鑑定評価の説明責任を十分に果たすとともに、不当な不動産の鑑定評価を防ぎ、不動産鑑定評価制度への信頼性を一層向上させることが必要である。そのためには、不動産鑑定士等が、不動産証券化マーケットの急激な成長、環境の変化に即応して、その責任を果たしていくための体制を整えていく必要がある。一方、不動産証券化市場は多様な専門家によりその信頼性が担保されているものであるので、必ずしも全てについて不動産鑑定士が調査し、その結果について責任を負うものではなく、不動産鑑定士の職分、果たしてゆく役割について、依頼者等に明確に示していくことも必要である。
3.検討項目の概略
(1)証券化関連業務にかかる不動産鑑定士等の倫理
 06.03.22 新倫理規程及び懲戒規程が施行されている。
(2)鑑定評価基準等適用上の評価手法等についての実務指針
 06.08.07 実務指針案を公表してパブリックコメントを募集する。
(3)証券化に関わる多様な業務に係る指針について
(4)専門性向上・サービス品質管理のためのインフラ整備
 この一連の流れをよくよく見てみれば、専門委は年初において既に今日の状況を見通していたのであり、会長直属の特別委員会などはいまさらの屋上屋に見えるのである。せめて証券化関連不動産専門委をよくバックアップするとともに、「(06.07.05)国土審議会土地政策分科会企画部会不動産投資市場検討小委員会最終報告」が公表する、「3.4.8トランスペアレンシー(透明度)向上策」策定に鑑定協会が深く関わり、その実現を目指して欲しいものである。
※最終報告が示すトランスペアレンシー向上策
 1)不動産投資DCF基準の策定
 2)不動産EDIのためのデータコード統一
 3)投資不動産鑑定評価データベースの作成
 4)ベンチマークインデックスの作成
 5)不動産デリバティブ市場創設の研究
 6)鑑定評価信頼性向上のためのER評価
 7)証券化不動産の鑑定評価に関わる鑑定士の資質向上
 8)複数価格提示等、投資家ニーズに応えた鑑定評価手法の研究
 9)ビジネスモデルに応じたコンプライアンスの確立
 E.Mailを交換する朱夏大兄は「いま業界周辺で問題とされていることは、すべて「倫理」です。鑑定士の評価技術や基準が劣っていると言うのではなく、それを使う鑑定士の倫理意識が低いことが問題です。倫理を高めるために、DCF基準の費用項目の統一化や(いまは鑑定士によってバラバラ、価格を出すために計上しない項目もあるので、J-Reitですら比較できない)、証券化の研修などが提案されている。」と云う。
 確かに倫理の問題なのかもしれない。不動産鑑定士が専門職業家を自負するのであれば、『専門家として「何をなすべきか」、そして「何をなしてはならないか」という強く厳しい行動規範が求められるのであり、それを社会全体で共有する社会規範としての存在が必要なのであろう。(内橋克人氏著:節度の経済学の時代より)』
 茫猿は思うのである。不動産鑑定士のみが孤高の存在であり得るはずもなく、社会の風潮から無縁ではいられないものであろう。であればこそ、鑑定士に「高い倫理性」を求めたり、「高潔な志操」を求めたりすることは無駄とは云わないが、迂遠な道を目指すものと云わざるをえない。
 むしろ、志操堅固であろうと目指す動機付けを考えるべきであろう。つまりモチベーション探しでありインセンティブ形成である。もう少しあからさまな表現をすれば、「不動産鑑定士が基準や実務指針に忠実であろうとし、公正で中立で在ろうとするための誘因形成」なのである。
 その意味からは、「不動産の証券化に係る鑑定評価とデユー・ディリジェンスのあり方に関する検討委員会」が06.07.06に公表する議事要旨のなかで、「鑑定評価に求めるもの」はとても寂しいのである。
(鑑定評価書に求められるもの)
●最近、かなり強気の鑑定評価書もあるが、100人いれば100通りの評価もあり得る。高額鑑定も見解の相違とは言えるが、一概に悪いとはいえない。「速い(仕事が)、安い(フィーが)、高い(評価額が)」が求められ、保守的評価をする鑑定業者は仕事をとれなくなる構造も否定できない。
●鑑定評価が依頼者の影響を受けるのはむしろ当然であり、その上で評価書に期待することは、第一にどのような前提で評価したものか、第二にERをどのように反映させたのか、明記することである。例えば違法建築について、鑑定士に細かいことは分からない場合もあるが、コストにどのように反映したのか等、記載されていない評価書も多い。ERを参考にしていない場合は、その事実を記載してほしい。
 さて、せっかくのコメント募集である。証券化業務等経験が乏しい茫猿には理解の彼方である事項も少なくないが、そこは茫猿なりに考えてみたいのである。特に「モチベーション誘発」、「インセンティブ形成」という視点から何か得られないか考えてみたい。(以下、次号記事に続く)

関連の記事


カテゴリー: 不動産鑑定 パーマリンク

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください