タイトルは、「4月2日号AERA(アエラ)・朝日新聞社発行」に掲載される記事見出である。『地価急騰・膨張するリートの危険・ずさんな鑑定、不透明な会計処理で業務停止処分も・・・』とある。 AERA中吊り広告の画像を見る
記事の内容に取り立てて新しい事実はない。ダヴィンチ・グループやJPモルガン信託銀行、新生信託銀行等の行政処分に関わる記事であり、斯界に身を於く者であればいずれも旧知のことばかりである。しかし、週刊ダイヤモンド誌、日経ビジネス誌、そして週刊AERA誌などに立て続けに取り上げられることが問題なのであり、しかもその都度「偽装鑑定」とか「ずさん鑑定」と囃されることが迷惑千万なのである。
とはいっても、「火のないところの煙」、「李下に冠、瓜田に履」なのかもしれない。今起きつつある事象からは遙か遠く居る者としては詳しい実態は判らないけれど、垣間見える幾つかの事象から云えることがある。
一つは、地価が急騰するなかでの、収益還元利回りの低下である。純収益が変動しない状態で地価が上昇すれば見掛けの利回りは低下するし、純収益が上昇し利回りが変動しなければ地価は上昇する。【純収益÷地価=利回り、純収益÷利回り=地価】
しかし、この状況を鵜呑みにすれば不動産鑑定士など不要なのである。収益の変動状況に安定性は認められるのか、賃貸市況や市中利回りは上昇傾向にあるのか下降傾向にあるのかを見据えた上での判断が求められる。
現象として地価の急騰を追認し、市中取引における粗利回りの低下を追認するだけであれば専門家など不要である。賃料が変わらない状況で、テナントビルの取引価格が急騰すれば、見掛け上粗利回りは低下する。この事象を鵜呑みに追認するか、否かを云うのである。
『純収益が上昇しなくとも利回りが低下すれば、評価結果としての収益価格は上昇する。しかし、地価急騰を追認するか、急騰故にその背後にリスクを織り込むべきかは別次元の問題である。』
比準価格や積算価格との対比(比較考量)が必要なのであり、何よりも純収益の推移動向に関して的確かつ厳しい考査が必要なのである。利回りについても同様である。不動産市場における利回りの動向やリスク動向の慎重な予測が必要なのである。
収益還元法の特性は地価動向に対して保守的であることに最も特徴的なのである。だから不動産鑑定評価基準は収益還元法についてこう述べる。
「市場における土地の取引価格の上昇が著しいときは、その価格と収益価格との乖離が増大するものであるので、先走りがちな取引価格に対する有力な験証手段として、この手法が活用されるべきである。」
この件に関しては堀田勝己氏のOPION/私の主張「ここにも居た収益還元教の信者」に詳しい。
AERA4/2号記事はかく云う。
大口機関投資家を募った私募不動産投資ファンドでビルを買い、それをリートに転売して差益を派生させようとする。この段階の不動産鑑定評価額が適正でなければ利益背反を引き起こす可能性もある。
AERA4/2号記事はかくも云う。
昨年秋の金融庁調査によれば、主要11銀行の不動産投資ファンド向け融資は前年比29%増の6兆5505億円ということである。バブルの頃に辿った道と同じなのではなかろうか。
この件に関しては田原拓治氏の鑑定コラム「316:不動産ファンドへの貸出規制」に詳しい。
さらに平澤春樹氏のAPPRAISAL OPINION:07.03.23記事「鑑定協会の倫理 1 」では、このように云う。
急激に拡大したREIT市場の鑑定を受託している鑑定会社は30社前後であり、プライベートファンドの鑑定の受託会社を含めてもせいぜい100社前後と推測されます。鑑定協会会員の大半が偽装鑑定とはなんの関係もない人々です。また、ファンド鑑定に参加している約100社の大半は、自己の見識と倫理を持って鑑定評価活動に従事しているのです。
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