先日のエントリーで「生物と無生物のあいだ」という書籍を紹介し、鑑定評価に臨む不動産鑑定士の姿勢にも通じる「仮説と実験結果」に係わる学者の知的条件についての一節を紹介したのである。
「生物と無生物のあいだ」福岡伸一著 講談社現代新書
この書籍について、もう少し述べてみようと思うのである。生物と無生物のあいだに位置するウイルスを素材に生物について著者は語るのである。著者の定義によれば、生物の要件とは「自己複製」を行うことに加えて、「動的平衡状態」にあることも要件であるという。動的平衡とは、生命の代謝の持続的変化であり、この変化こそが生命の真の姿であるという。つまり生体を構成する高分子も低分子代謝物質も常に変化してやまず、外観上は一見して何の変化もみられない生命体も、その構成要素である分子は常に代謝して止まず、ある時間を経過すれば生命体の全構成分子は入れ替わっているという。
このあたりのところを、ざっと読んだだけの門外漢があれこれ云うのは烏滸がましいのであり、鑑定評価が社会科学であると自認する不動産鑑定士であれば是非とも一読して頂きたいと薦めるものである。鑑定評価の手法は仮説に基づいて価格に至る過程を構築する演繹的手法と、市場資料を分析して地価に迫る帰納的手法とがあげられるが、その際にどのような基本的姿勢に立つべきであろうか、別の言い方をすれば如何に謙虚にデータに向い、如何に謙虚に仮説を検証するかという姿勢を糺しているように読めるのである。
ところで、同書のP189以下に「トポロジー」という用語が述べられる。著者によれば、トポロジーとは「ものごとを立体的に考えるセンス」であるという。同語彙を広辞苑によれば「トポロジー:Topology:位相幾何学」とあり、トポロジー心理学を人間と環境を含む生活空間の場理論的構造をトポロジーの概念によって記述しようとする心理学と注解する。
さらにところで、鑑定協会会員ではないようだが、標準宅地鑑定評価システムや路線価地図情報(GIS)システムを扱う企業に「トポロジー」という会社がある。同社のHPによれば「トポロジー社は、標準宅地鑑定評価システム 、路線価評定システム 、路線価地図情報(GIS)システムなどの土地評価に関するコンピュータソフトウェアの開発販売や不動産評価等に関するコンサルタント業務を通して、正確な不動産鑑定を効率よく、スピーディーに行うためのお手伝いをさせていただきます。」とある。この会社の代表者の一人は茫猿の尊敬する岐阜県士協会の会員である。
茫猿の見るところでは、トポロジー社のサイト・トップページに「TOPOLOGY APPRAISAL」と記される以外には社名の由来は何も記されていないが、福岡伸一氏のいう「ものごとを立体的に考えるセンス」という解釈にたてば、鑑定評価とトポロジーは密接な関係にあると云えるのであろう。 トポロジーを連続性とか位相とかいう数学的概念で解することからも「不動産学:トポロジー」は深い関連があると云えるのであろうが、さらに社会科学などと云わずとも、「人が生まれ、活き、死ぬ」場に係わる様々な現象を捉え、分析し、一つの解に到達するのが不動産鑑定評価であるとすれば、それらの事象を立体的・三次元的に、さらに時間を加えて四次元的・時空間的に考えようとするのが鑑定評価であるといえるのではなかろうか。 だから、鑑定評価はトポロジーであると云う見識も宜なるかなと考えるのである。
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