境港そして倉敷へ

 09.03.02 もう午後二時を回っていたでしょうか、遅い昼食に境港ならばお鮨屋さんをと、水木ロードを探したのですが、見あたりません。 改めて案内地図をよくよく見ると水木ロードを離れて二軒の鮨屋さんが掲載されています。 先号記事のシャッター街を通り抜けて左に曲がると二軒の鮨屋さんが見つかりましたが、一軒は最近に廃業した様子、残りの一軒に覚悟を決めて入りました。 昼食時を大きく過ぎた月曜午後のこと、店内に先客はどなたも見えません。 「よろしいですか?」と声をかけると、「いらっしゃい。どうぞ」と中年の女将らしき声に迎えられました。 付け台の向こう側では職人とおぼしき若者が何やら仕込み支度中です。


 そこで、「地物を一貫握りで、適当に」とお願いしましたら、彼が初めて口を開いていわく、「うちは地物以外扱いません。今日のネタは後ろの札の通りです。」 改めて札を見るまでもなく、それで結構ですとお願いしたところ、冷蔵庫から既に支度済みの鮨ネタを取り出して、手早く七貫だったか八貫だったかを握って供してくれました。
 メモを取ってなかったからうろ覚えですが、シロイカ、ノドグロ、オニエビ、イサキ、ハタ、ヨコワあとは忘れました。 魚の名前を尋ねますと、いずれも写真を見せながら丁寧に説明してくれます。 とりあえずは付け台の寿司をあてに熱燗酒を飲み、食べ終わったあとは台抜き、つまり刺身で幾つかの魚を頂きながら四方山話に花を咲かせました。 その頃には彼ものってきたようで、さっきまでの無口が嘘のようです。
 創業60年くらい、彼で三代目の境港で一番古いお鮨屋さんの屋号は「いろは寿司」です。 境港の鮨屋さんは跡継ぎが無くて廃業する店が多いこと。 たまに立ち寄る観光客はマグロ、ヒラメ、タイがないと文句を言うから、ついつい「マグロが欲しかったら回転寿司」へどうぞと言ってしまいそうになること。 オール地物(時価)で営業するには一人前2500円頂かないと苦しいこと。 地元の人は漁師さんをはじめ、皆さんが浜値までよく判っているから、無茶はできないこと。
 開業した当座は、漁師さんから飯に刺身を載せて食わせると言われたこと。 養殖物を使わずに地物で営業を続けるには、温暖化のせいか漁獲量が減っているから次第に辛くなっていること。 などなど、ついついお酒の追加をするほどに楽しい話でした。 魚臭くないこと、どのネタも新鮮で美味しいこと、昨年秋に訪ねた富山県氷見の「蛇の目寿し」さんと同じでした。旨い鮨屋さんは何処でも共通するものがあるのだと思わされたことです。
 なかでも秀逸だったのは、夏から秋にかけて小魚を追って日本海を遡上するマグロは能登半島沖で産卵して、普通はそこからUターンして対馬方面へ向かうのだそうです。 ところがなかには、ふらふらと餌の乏しく水温の低い秋田青森方面へ向かうキマグレマグロもいるようで、十月過ぎに日本海北部でとれるマグロを珍重するのは本物を知らない《貧乏舌》なのだそうです。 比較したことがないから、堂守には真偽のほどは判りませんが、理屈は合っています。
 境港でもたまにはマグロは水揚げされますが、マグロを捌いて血抜き内臓処理をする割裁(切)人(カッサイニン)がいないので、値が出ないのだそうです。 ちょうど5人連れの客が入ってきたのを潮に、白みそ仕立ての汁を頂いて「いろは鮨」をあとにしましたが、職人気質(カタギ)は色濃いけれど、興に乗ればとても愉快な彼でした。 
 地方都市でまともな鮨屋さんを続けてゆくのはとても大変なことであろうと思われます。 それでも回転寿司に慣れた判らない観光客とは喧嘩せず、判らない客にも丁寧に教えてあげて、お店を長く続けてくれることを願います。 続けてゆくことは力だし、彼のような地道な努力が境港に粋な光りをさらに増してゆくことだと思います。 なお、彼は大阪で数年修行したとのことで、西日本というお店の場所からしても鮨飯、醤油をはじめ全体に関西風の味付けです。 読者の皆さんも「境港へ行けば”いろは寿司”さんへ」立ち寄ってみて下さい。
 お店の全景

 粋な職人のいろは鮨三代目とムラサン

 ふと店内のテーブルの上を見たら、名詞がおいてあり、そこにはURLが書いてあるではないですか。 【いろは寿司 境港市相生町17】
お店の詳しい話や、店で供している魚の話は、こちらでどうぞ。 《お盆、年始と木曜日定休にご注意、営業時間AM11:00からPM7:00まで》
 ひと気の少ない境港、隠岐行きフェリー乗り場

 いろは鮨をでたら、いつのまにかもう4時過ぎです。 境港線経由米子駅、米子からは最後の宿泊地倉敷へと向かいました。 米子発17:25 倉敷着19:28 伯備線やくも26号 米子駅を出て直ぐに運良く大山が見えました。本当に運良くでした、写真は明るく修正しています。

 弥次喜多気まま旅は、まだ続きます。 あとはまた明日、だんだん。

関連の記事


カテゴリー: 只管打座の日々, 茫猿の旅日記 パーマリンク

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください