Intelligenceの戦略的活用

前号記事[Data,Information,Intelligence]では、情報を収集し分析した結果に基づき、次の戦略並びに戦術を確立することがとても重要であろうと述べた。 Information と Intelligenceの戦略的活用なのである。

日鑑連が直面している取引価格情報提供制度(以下、新スキームと云う)の改善に関わる諸課題(情報利活用における安全性担保と透明性の確保)を考える上では、国交省の目指す方向性を正しく認識することがとても重要であろうと考える。その意味からは、2013/04より新スキームを所管することが確定している国交省土建局不動産業課の基本方針が重要であり、その基本方針をうかがうことができる「不動産流通市場における情報整備のあり方研究会」 中間とりまとめ(2012/09)が、とても重要と考えるのである。

日鑑連が検討している新スキーム改善策が、この「中間取りまとめ」が示す「情報整備の方向性」を逸脱すれば所管課から再び否定されることであろうし、むしろ積極的に「中間取りまとめ」を取り入れてゆくことが、自らを取引価格情報提供制度の中核的(ハブ的)位置に落ち着かせることにもなるのであろうと考える。
ひいては、不動産市場のなかにおける鑑定業界の確固たる位置を取り戻すことにもなろうと考える。 それらの視点から、中間取りまとめを検討してみる。 以下、少し長くなるが中間取りまとめを引用しつつ、筆者の注書きを随時加えてみることとする。(以下、Webサイトへのリンク並びに※下線部分は筆者の注書きである。)

「不動産流通市場における情報整備のあり方研究会」
中間とりまとめ (平成24年9月)
(事務局:国土交通省土地・建設産業局不動産業課) 委員名簿(省略)

1. はじめに
「不動産流通市場活性化フォーラム」提言(平成24年6月)において、物件情報提供の充実及びそのためのシステム等の整備など、中古住宅市場を中心とした不動産流通市場における「情報の非対称性」を克服するための方策について、その必要性が改めて指摘されている。また、我が国の不動産流通システムの中核である指定流通機構(以下「レインズ」)についても、情報の提供及び活用のあり方について議論する必要性が指摘されている。

中古住宅の質を高め、国民の住生活の向上を図るためには、住宅の売り主・買い主である消費者の利益が実現するよう、情報の整備・提供により市場の透明性・効率性の向上に取組むことが重要であるが、中古住宅市場に係る情報の整備・提供の充実に関し取組を強化することは、同時に非住宅を含む不動産流通市場全体の透明性の向上につながり、将来的な不動産市場の規模拡大、不動産流通市場全体の活性化につながるものと考えられる。したがって、このとりまとめの中では、不動産流通市場及び不動産情報については、基本的に中古住宅流通市場及び中古住宅に係る情報を念頭に置いて議論を展開することとする。

そこで、不動産流通市場の透明化・効率化を図るためには、まずは、
ⅰ)「住宅履歴情報(いえかるて)」を含めた不動産情報の集約・整備
ⅱ)市場流通物件に係る情報提供の充実
等について、市場の実情を踏まえた実効性のある方策を検討することが必要であると判断し、特に、不動産情報の集約・整備については、分散している各種情報の一元的集約の可能性と方法、成約情報の共有の是非などこれまでにない視点・発想や、技術的にも精緻な検討が必要であることから、本研究会を設置したところである。

本研究会においては、
ⅰ)不動産に係る情報ストック整備のあり方に関する基本的な課題と方向性
について議論し、また、同時に、
ⅱ)レインズの運用を通じた情報の提供及び活用のあり方
についても議論を行ってきたところである。

本中間とりまとめは、これまでの研究会における議論を踏まえ、今後検討を具体化していく不動産に係る情報ストック整備とレインズ機能の充実における課題を整理し、その方向性について一定のとりまとめを行うものである。

※「分散している各種情報の一元的集約」のなかには、新スキームも含まれていると筆者は考えている。

2. 不動産流通市場における情報整備の必要性
(1)透明性向上による市場規模の拡大・投資環境の整備中古住宅購入の局面において、住宅購入希望者の判断を助ける情報が事業者を通じてより適切によりわかりやすく提供され、そして、その様な判断材料が数多く提供されている事を知ってもらう工夫をしていくことが、住宅の選択段階における中古住宅の選好を後押しし、同時に不動産流通市場に興味を持つ人を増やしていくことにつながり、ひいては将来の市場参加者の拡大に貢献する。

また、不動産の価格に関する情報、履歴情報、物件調査に必要な情報等の情報ストックをインターネットによって提供可能な仕組みを整備すれば、宅地建物取引業者、消費者、金融機関等の情報収集に要する時間が短縮されるため、物件滞留時間も短縮されて効率的な市場となることが期待される。

一方、先進諸国はいずれも投資環境を整えて自国の不動産市場へより多くの投資資金を呼び込むための方策を講じており、何の対策も講じない場合には、我が国が取り残されることが危惧される。不動産情報を市場へ提供して透明性を高めることは、投資環境整備の要の一つでもあり、情報ストックの整備・提供によって、欧米諸国の諸都市のように透明性の高い市場環境となることが期待される。

※国際基準に則した不動産価格指数制度の創設を含めて、不動産情報整備の方向性が不動産市場の透明化及び活性化にあると同時に、海外の投資資金の呼び込みにもあるという点に注目しておきたい。

(2)事業者の信頼性向上及び取引の安全性確保(省略)

3. 現状認識
(1)不動産に係る情報の整備及び提供に関する現状
① 住宅購入希望者が求める情報ニーズの増加
住宅購入希望者は、中古住宅の購入に際し、価格の妥当性に関する情報、瑕疵の有無(建物検査結果)、耐震性・省エネ性等の性能・品質に関する情報を求めており、特に最近は、安全性(耐震診断結果、地盤等)等に関する情報へのニーズが増加していると考えられる。しかしながら、現状ではこれらの情報の整備及び提供が十分でない。

② 仲介に当たり事業者が収集すべき情報の分散
不動産取引に係る情報が各機関に分散しているため、それぞれの情報の収集・確認のために宅地建物取引業者の従業者が多くの手間と時間を割かれており、効率的な業務執行、ひいては円滑な不動産流通の阻害要因となっていると考えられる。

③ 成約情報の高い秘匿性と共有化の難しさ
不動産取引当事者へのアンケート調査に基づく不動産の実際の取引価格に関する情報について四半期毎に提供しているほか、事業者間の取引情報交換システムであるレインズが保有する不動産取引価格情報を活用した消費者向けの情報提供サービスを行っているが、いずれも国内不動産取引の大半をカバーするには至っておらず、また個人情報保護の観点から秘匿処理等を行い、個別の不動産取引が特定されないよう加工しなければならない制度になっている。

※「不動産取引当事者へのアンケート調査」とは、取引価格情報提供制度即ち新スキームであることは云うまでもないが、中間取りまとめはここで新スキームとレインズを並列的に扱っていることに注目しておきたい。

④ 流通時における時間軸に沿った情報提供の不十分さ
「いえかるて」等においては、住宅の新築、改修、修繕、点検時等に作成される設計図書や施工内容、点検結果等の情報(住宅履歴情報)が蓄積されているが、住宅全体に占めるシェアはまだ小さく、中古住宅の売買に際し、それらの履歴情報を引き継ぐという意識も十分に醸成されていない。さらに、住宅リフォームについても、十分に住宅履歴情報が蓄積されている状況にない。

(2)媒介・レインズ制度に関する現状
① 流通市場の環境変化に対応した情報内容の不十分さ
物件種目、価格等の基本情報のほか、面積、住所(丁目まで)、間取り等のレインズ登録必須項目以外では、中古住宅購入・リフォームの際に重要な情報と考えられる「建物工法」「増改築履歴」「施工会社名」「分譲会社名」「建築確認番号」等の項目については登録率が50%未満となっている等、住宅購入希望者が関心を有する項目に情報の入力がされていない場合が多い。これには、別途の図面情報に表示されている情報が、文字としてはデータ登録されていないことが多いことも影響している。

② 蓄積される情報の活用の難しさ
専属専任媒介契約及び専任媒介契約による売買物件を登録し、事業者間で広く情報を交換することで、適正かつ迅速な不動産取引の成立と流通の円滑化を促すことに併せ、事業者から通知された成約情報をもとに、市況の分析情報を公開すること等により、不動産市場の透明性の向上を推進する役割も期待されているが、現状では個別の不動産取引が特定されない範囲でのみ成約情報を開示せざるをえない等、個人情報保護の要請もあり蓄積された情報の活用が十分とはいえない。

③ 媒介活動等に係るルール遵守の不十分さ(省略)

4. 不動産流通市場における情報整備に関する基本的な考え方
(1)情報整備にあたり共有すべき理念
不動産流通市場の現況を顧みた場合、中古住宅に対する需要を実際の購入に確実に結びつけるに足るだけの情報整備を行おうとすれば、事業者のみならず売り主、買い主といった消費者にも相応のコスト負担が発生する。しかしながら、不動産流通市場において的確な情報整備が行われれば、それらの主体が担うコストを上回る利益が得られる可能性があることを忘れてはならない。

個々の取引に即して見れば、情報整備が進むことにより優良なストックの差別化が図られ、売買価格の上昇につながる物件も増加し、そのことが売却収入の増加、資産価値の増加、仲介手数料の増加にもつながるという効果が期待される。

また、不動産流通市場全体で見れば、不動産流通市場の信頼性の向上、物件の差別化による淘汰に基づく既存ストックの品質の向上、取引の活性化及び潜在的需要の喚起による市場規模の拡大という効果をもたらす。

言うまでもなく、我が国経済が需給ギャップ、所得の減少、負のスパイラル等によるデフレから脱却するためには、需要の増大、ストックの有効活用による資産価値の増大等を目指した経済活性化に向けた適切なマクロ経済政策が求められている。不動産流通市場における情報整備・提供の充実を進め、透明性の向上を図ることは、消費者にとって信頼できる円滑な不動産取引の実現に資するものであり、上述の通り、ひいては市場規模の拡大・資産価値の向上、経済全体の活性化につながるものである。

言わば消費者、関係事業者、そして日本経済全体にとって有益な三方一両得をもたらすものであり、関係者間の連携により総力を挙げて取り組むことが望まれる。この点については、特に売り主の理解を得ることも重要である。市場の実情を見れば、現在は売り主には住宅履歴等の情報を整備し、売買に当たりそれを開示・提供するインセンティブが十分に与えられていないが、それらに的確に対応することが結局は自らの所有する住宅の資産価値を高め、あるいは再販価格を上昇させることにつながることについて、今後は積極的な周知に努めるべきである。

※ここに云う「共有すべき理念」は、新スキームに関わる行政機関(土建局・不動産業課)・団体(日鑑連)にも共有されなければならない理念であることに注目しておきたい。

(2)レインズ情報の充実及び情報ストックの整備
不動産流通市場における情報整備のあり方として、事業者間に開かれた情報交換組織(レインズ)の中で、充実した物件情報が活発に流通すること、また、それがレインズに集約・管理され、多数の物件が市場の中で比較選択されることにより、消費者にとって満足のいく物件の取得、成約の迅速化、適正な市場価格の形成等が実現されることが望まれる。

一方で、レインズ情報や不動産広告だけでは、多様化する消費者ニーズに十分に対応できていないとの指摘を踏まえ、住宅購入希望者が中古住宅に抱く不安を解消するための情報(住宅履歴情報等)を如何に整備・提供していくかといった課題について検討することが求められている。この点については、市場において様々な機関・情報サービスに分散している不動産に係る情報を一元的に収集・整備する情報ストックに係るシステムの構築を目指すこととする。これにより、住宅購入希望者が求める情報を適時適切に提供し、安心して購入できる環境を整備し、消費者保護の徹底を図るとともに、事業者の事務の合理化・効率化を図っていくこととする。

※「様々な機関・情報サービスに分散している不動産に係る情報」のなかに、新スキーム情報が含まれるのは自明のことであろう。そして、新スキーム情報も含めてを一元的に収集・整備する情報ストックに係るシステムの構築を目指そうと云うのである。

(3)システムの機能に係る基本的なイメージ
例えば、媒介物件の相手方の探索・紹介(マッチング)段階における情報提供については、レインズがこの機能を主に担うこととする。レインズはその際、建物情報を中心に消費者向けの情報項目を中心に充実を図るとともに、情報ストックから提供される建物履歴情報の有無、耐震診断の有無等の建物情報の概要を用いることで、中古住宅流通の促進を図るための情報提供機能を向上させる。また、成約価格情報などについても、①適正な相場観の形成に資する不動産取引情報提供サイト(RMI)のような市場参加者に広く提供される仕組みの充実、②売り主と買い主間のマッチングに際しての透明で高い納得感をもたらすルールの形成を通じてその一層の活用が図られることが期待される。

また、具体的な住宅購入希望者との取引・交渉(バーゲニング)段階における情報提供については、分散する各種情報を収集・整備した情報ストックがこの機能を主に担い、事業者向けの情報項目を中心に充実を図ることとし、これらの情報項目については、事業者を通じて消費者に適時適切に提供することとする。

また、レインズと情報ストックとの関係については、相互に双方向の情報融通を可能とするシステムとし、情報ストックはレインズ登録データを補完し、レインズ成約情報は情報ストックに蓄積されて、当該物件が再び市場に供給された際に、レインズにフィードバックされるシステム構造とする方向で検討・調整を行うことも考えられる。なお、情報ストック等の機能を、レインズに持たせるのか、それ以外のシステムに持たせるのかについては、今後、十分な議論が必要である。

さらに、レインズと情報ストックの双方に蓄積される成約情報については、近年成約情報の提供の必要性を認める意見が増えつつあることから、これまで以上にオープンな成約情報データの消費者への提供のあり方について検討を行っていく。

※RMIと情報ストックの関係イメージがやや不鮮明であるが、新スキームが情報ストックの一部であることは自明であろうし、その情報ストックとレインズとの関係の上で見逃せないのは、成約価格情報のみならず取引情報(新スキーム一次データ)についても履歴情報の一部として位置付けられるであろうと云えるのである。

5. 情報整備に当たっての検討課題
(1)不動産流通促進の観点に立ち収集・整備が必要となる情報項目
① 消費者のために収集・整備するべき情報項目
まずは、消費者側のニーズの高い住宅自体の属性に係る情報項目を収集・整備するべき情報項目として考えることとする。例えば、主要サイトでカバーされている情報項目(例:価格、面積、交通条件、間取り、部屋数、建物構造、築年月、管理費等)が最もベーシックな項目であり、収集も容易である。次に優先すべき情報項目として、住宅履歴情報(住宅性能情報、住宅診断・点検情報等を含む。)がある。これらの情報項目は、売り主等から入手しなければ収集が困難であるため、今後、売り主のインセンティブをどのようにして醸成を図るかを念頭に置きつつ、情報サービス機関等との連携の仕組みの整備を視野に入れた検討が必要である。

次に、住宅自体の属性ではないが、法令に基づく制限やハザードマップの類は近年特に消費者も意識を高めていることから、オンラインによる取得が可能なものから優先的に収集・整備を行うこととする。

※「法令に基づく制限やハザードマップの類は、オンラインによる取得が可能なものから優先的に収集・整備」と述べていることはすなわち、都計用途情報や各種ハザードマップ情報等を、GIS機能を整備することにより簡易に収集できるように整備を進めてゆくと云うことであり、そのまま新スキームデータの属性情報取得にも云えることである。

② 事業者側から見た収集・整備するべき情報項目
現在、重要事項説明に必要な情報が各機関に分散しており、事業者にとっては、複数の窓口に出向く物件調査の負担が大きく、特に中古住宅の調査は複雑で時間も手間も掛かるため、消費者への情報提供が不十分になりやすい。
このため、事業者の事務負担が大きく、かつ、一定の信頼性が確保されている情報項目、例えば行政機関の保有する情報の優先的な収集・整備を基本とすることが適当である。

※鑑定評価においても、整備が進むことを期待したい事項である。評価対象不動産や評価の基礎とする取引情報等について、行政機関の保有する属性情報の優先的な収集・整備が実現することは望ましいことである。

次に、例えばマンション管理組合に係る情報など売り主が保有する情報や現地確認が必要な情報(例:境界確認や周辺施設等)についてもストックされれば有益であるが、情報の入手及び最新性の確保という課題があり、一部の地方公共団体で検討が行われているマンションに関するデータベースの構築の動きとの連携や情報更新に係る情報ストック運営体制の整備の状況等を踏まえた段階的な対応が必要である。

③ 収集・整備に当たっての留意点
情報の収集・整備に当たっては、その目的を達成するだけのコアとなる情報が最低限必要であるが、それらについては全てを一度に収集・整備することに固執せず、可能なところから段階的に行うという柔軟な考え方も持ちながら検討を行うべきである。また、収集・整備するべき情報項目は、新築と中古、戸建とマンションに分けて整理していくことを基本とする。その際に、国や地方公共団体の官公署、あるいは、マンション管理組合、管理会社等の民間機関、さらには中古住宅の所有者である個人の売り主から情報を収集する際の課題の把握・対応が今後求められる。 また、情報整備のためには、情報を出す(調査する)側のコストや手間を上回るインセンティブを与えることが必要になると考えられる。

(2)分散している各種情報の一元的集約の可能性と方法
情報ストックの一元的整備の方策については、新たに全ての情報を一元的(一箇所)に集約する仕組みにこだわらず、既存のデータソースとの連携による中核機能(ハブ)として、情報保有について権限と責任を有する各情報保有機関との連携により情報整備を行うことも選択肢に入れた検討が考えられる。

それに際しては、協力可能な主体との連携から始め、段階的に連携先を拡大する方向で検討することを基本とし、各種情報のデータソースとの連携の可能性、情報収集の具体的な方法論については、可能な限りそれらの主体の協力を得て技術的な課題を含め専門的な調査・研究を経てとりまとめていく。

また、各種情報を収集・整備・管理・提供する主体には、効率的かつ安定的な業務執行が可能な体制及び情報セキュリティの確保等が求められるが、具体的にどのような機関が担うべきか、一元的集約に係るシステムの調査・調整を進めていくことが必要である。その際に、国、事業者団体、事業者、その他関係団体等がどのような役割を担うべきかについても明確にすることが求められる。また、消費者等から得られる情報を一義的にシステム入力する事業者、業界団体においても、新たなシステム対応のため多大なコストを要するため、その負担についても整理が必要である。

なお、各種情報の収集・整備における不動産に係る情報の名寄せの方策やセキュリティの確保方策については、不動産に係る共通IDの開発・利用を視野に入れた検討が考えられるが、今後、その実現可能性、制度上・運用上の様々な課題の把握を行っていくこととする。

※「各種情報の一元的集約」は、一番注目しておきたい事項である。何となればレインズは指定流通機構が管理保有する情報ストックであるが、新スキームは国交省が管理保有する情報ストックである。中核機能(ハブ)を指向する主体が自ら管理保有する情報ストックについて「中間取りまとめ」が示唆する方向へ、その運営を目指すであろうことは自明であり、そうであってこそハブを目指すことも可能となるのである。

(3)成約情報の共有の是非と収集・集約の方法
不動産流通市場においては、これまで住宅購入希望者が、価格の妥当性について判断できなかった等の理由により中古住宅の購入をしなかった割合が高いとする調査結果もあり、住宅購入希望者により多くの判断材料を提供し、中古住宅の選好を後押ししていく観点から、参考情報として既往の取引に係る成約情報をどこまで誰に提供するか、どこまで制度的に充実できるか等について検討が必要になっている。
特にレインズを通じた成約情報の活用に当たっては、売り主や買い主の要望がある場合に、宅建業者を通じて成約情報等を提供する標準となるルールを形成することで、透明で納得感の高い事業者のマッチング機能の発揮につなげることが望ましい。

これに対して、市場参加者に広く提供される方法については、以下のような検討が必要だろう。不動産取引価格を一般に公表・活用することについては、不動産売買をしたことがある層を中心に賛成派が増加傾向にあるが、自分自身の取引が一般に知られることについては、物件が特定できる方法よりも物件が特定できない方法を了承する者が圧倒的に多数となっている。

このような状況を踏まえ、今後は、
ⅰ)RMIの機能改善を図るとともに、よりオープンなデータベースとして
消費者に提供するための方策
ⅱ)個人情報保護の観点からの秘匿処理のあり方
ⅲ)成約情報提供の意義を浸透させ理解を深めてもらうための方策
等について、事業者、消費者の反応を見極めながら検討・調整を進める。

※よりオープンなデータベースとして消費者に情報提供してゆこうという姿勢は、新スキーム並びに土地情報ライブラリーに提供する「不動産取引価格情報」についても同様であると考えるのである。

(4)住宅履歴情報とのリンクのあり方
マンション共用部分については基本的に管理組合による履歴情報の整備・保存が行われている。また、戸建て住宅については、意識の高いハウスメーカー・工務店等による履歴保存の取組みが行われている一方で、それ以外の戸建て住宅は、新築時の各種図面が保存されていない、履歴が保存されていない等の理由により、リフォーム時において住宅履歴情報が十分に活用されない状況にある。

このような現状の中で、履歴情報を保有する主体や、あるいはインスペクション、瑕疵担保保険、リフォーム等の関連事業分野との連携は、不動産流通市場における情報整備において重要なポイントとなる。

今後、情報整備に係るシステム構築を行う中で、住宅履歴情報とのリンクを進めていく過程で、これらの主体とどのような連携の仕組みを整えていくか、情報内容の共有の是非等について、技術的な課題も含めた専門的見地からの調査・研究のとりまとめを踏まえながら、不動産に係る共通IDの導入・活用の可能性も含め、検討・調整を行うこととする。また不動産流通業界として、住宅業界あるいはリフォーム業界に対して、住宅履歴情報の蓄積を促す旨の提言を行っていくことも必要ではないか。

(5)情報提供のあり方
① 情報ストックの情報提供に関する基本的課題
レインズと情報ストックとの連携により収集・整備する情報項目と、事業者及び消費者に提供・開示する情報項目とは直ちに一致するものではなく、それぞれの意義や目的に照らしながら切り分けて検討されるべきである。特に、収集・整備した情報ストックについて、どのように事業者間で共有するのか、あるいは、具体的にどこまで消費者に提供するのか等を考えるに当たっては、個人情報保護法への的確な対応が必要であり、来年度以降、提供時期、目的、相手方等に応じた検討・調整が必要であると考える。また、消費者に提供する情報が多くなればなるほど消費者にとってより分かりやすい提供の仕方についても基本的な課題として検討が必要である。なお、正確な情報が収集できないもの、情報の所在や内容が分からないものについては、不確実である、分からないという事実を伝えていくことも消費者にとって必要である場合があることに留意すべきである。

② 不動産に係る情報の責任の所在に係る課題
情報ストックの一元的整備の方策について、既存のデータソースとの連携による集約・提供を行う場合に、情報の権限・責任は各情報保有機関に帰属するのかどうか、情報ストックの整備・提供に伴うトラブルには誰が対応するのか等の課題がある。各事業者が消費者に提供する情報内容に関する責任については、直ちに軽減・免責されるものではないが、いずれにしても、不動産に係る情報は、個人に帰属する情報から公共施設、制度的事項等に関する情報まで多種多様であることから、情報の内容、提供のタイミング・状況等によって責任がどこに帰属するのかの整理が必要となる。

③ 不動産に係る情報の正確性・信頼性の確保
不動産に係る情報の正確性・信頼性の確保という課題が情報ストック整備の隘路とならないように、システムの仕組みとしてどのような方策が必要か、情報の最新性をどう担保するのかなどの課題について、今後、的確に対応することが必要である。

また、事業者が保有している不動産に係る各種情報の消費者への提供においては、信頼性確保の観点から、第三者による情報内容の監査・検証という方策についても検討する必要がある。
さらに、そもそもの問題として、誇大広告、おとり広告を排除するために、不動産広告の適正化やレインズから取り出した情報開示の適正化のための手立てや、あるいは事業者のモラルの確立が必要であり、そのために業界において取り組むべき方策等についても別途議論が必要である。

④ 価格査定への反映のあり方
住宅履歴をデータベースに入れただけでは、流通を活性化させるには不十分ではないか。取引の出口である住宅ローンにおいて、金融機関が担保評価しやすいようなデータとして提供できるかどうかが重要だと思われる。価格査定に住宅履歴が適切に反映されその価値が客観的に明らかになれば、金融機関による適切な担保評価が可能となるとともに、消費者の価格の妥当性に関する不安も払拭されることが期待される。これらに関する検討に際しては、金融機関と十分な連携を図ることが重要である。

※レインズ情報ストックの開示利用について、宅建業者の価格査定のみならず「金融機関の担保評価」にも言及していることに注目しておきたい。 この開示利用は新スキーム情報についても含まれると解しておくべきであろう。

(6)レインズ機能の充実の必要性
① レインズ機能の充実による流通促進の効果(省略)
② 登録情報の充実の必要性(省略)
③ 住宅購入希望者への提供の是非
住宅購入希望者に対するレインズを通じた情報の提供については、現在は事業者から住宅購入希望者へ必要に応じ情報の提供がなされている。今後、情報ストックとレインズとの連携によりレインズの登録情報が拡充されるに当たっては、情報内容や提供方法が事業者によりばらつきが出ないよう考慮することも必要であり、レインズを通じて事業者が住宅購入希望者に対して、どの情報項目をどのように提供できるのかについて、情報ストックの一元的な集約に係るシステムの調査・研究を行う中で、レインズの機能や業務内容などを勘案しながら検討・調整を進めていくことが求められる。

④ 事業者に対する媒介契約及びレインズ制度に係るルールの徹底(省略)

6. おわりに
本研究会は、不動産流通市場活性化フォーラム提言を踏まえ、不動産流通市場における情報整備のあり方についての議論・ヒアリング等を行ってきたが、不動産に係る情報ストックの一元的整備及びレインズ機能の充実の必要性について、問題意識の共有、課題の整理、一定の方向性のとりまとめを行った。

今後、情報ストック整備の具体的なシステムに関する検討は、平成25年度において予算措置を講じて、専門的見地からの調査・研究を行い、システムの基本的な構想を策定するべきである。また、レインズの運用のあり方についても、国、レインズ、流通関係団体等の実務に精通する関係者により引き続いて検討・調整を進めることが必要である。今後も、本研究会で整理した課題に関する具体的な検討が進められることが望まれる。

最後に、本中間とりまとめの位置づけは、あくまでも現段階における、不動産に係る情報ストック整備とレインズ機能の充実についての課題を整理し、その方向性について一定のとりまとめを行ったものとする。今後も、不動産流通市場の活性化、市場規模の拡大を目指し、事業者及び消費者(売り主・買い主)双方の利益の実現に向けて、不動産流通市場における情報整備のあり方に関する意見交換、調査等を必要に応じて継続していくこととする。 (以上)

 ※この中間取りまとめを受けて、既に国交省土建局は指定流通機構へ然るべき改善策の検討を働きかけているやに仄聞する。 レインズや不動産取引情報提供サイト(RMI)が、今よりも社会に開かれた不動産情報システムへと変化してゆく時に、新スキームもまたその潮流から無縁であることはあり得ないと考えるのである。

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