LOG管理とは新スキーム改善問題に関連して、課題とされている取引事例閲覧の適正化、すなわち非正規利用の撲滅対策として話題となっている事柄である。 具体的には、閲覧者に閲覧LOGを交付して、閲覧者が発行する鑑定評価書や調査報告書に閲覧LOGの記載を義務づけようと云うことである。 LOG記載の無い評価書等は、事例収集の過程において日鑑連が定める正規の手続きを踏んでいない疑いありとするものである。
このLOG記載そのものにはさほど障害はない、オンライン閲覧が実施されれば直ちに実行が可能なものである。 しかし、非正規手続きにより事例を取得する者を完全に排除する為には、全評価書等に閲覧LOGが記載されていることを確認する方法が担保されていなければ、この手続きは画餅に帰してしまうであろう。 そこで、筆者は鑑定評価適正化特別委員会宛に以下の意見書を上申したのである。 以下、この上申書を開示します。
「Log管理のあり方」
鑑定評価業務適正化特別委員会 御中
2012.12.24 森島信夫
一、Log管理とは
新スキーム改善問題に関連して、不適切な(非正規の)取引事例取得を防止する為の施策として「Log管理」が課題とされています。 ここでいう「Log」とは、閲覧者が日鑑連サーバにアクセスして取引事例を閲覧する際に、サーバに記録される「閲覧者コード、閲覧日時分秒、閲覧した事例のユニークコード」等を指します。
現在、課題となっているのは、この閲覧Logを閲覧者に交付して、事例を採用した鑑定評価書や調査報告書に記載することを義務づけようということです。 このLog管理に際して、整理されなければならない課題が二点指摘できます。 一点はLogの交付方法です、印刷物として交付するのか、テキストデータとして交付するのかということです。 もう一点はとても重要なことですが、あまり話題となっていません。 それは、Log管理を徹底させる為の方策、別の表現をすれば不心得者を排除する方策です。
二、Log交付方法について
論者は、この二点について、提案を行うものです。 最初の交付方法については、データダウンロード策を提案します。 その理由は事後の扱いやすさを重視するのと、誤記入を防ぐという観点からは、データ交付が好ましいと考えるからです。 会員事務所パソコンからアクセスする会員には、会員パソコンにダウンロード保存すればよく、士協会事務局パソコンからアクセスする会員には、USBメモリーに保存すれば宜しかろうと考えます。 ダウンロードファイルの保存方法はCSVファイルまたはテキストデータファイルのどちらかを閲覧者が選択すれば宜しかろうと考えます。
《追記》交付方法については、閲覧交付する事例印刷物にLOGバーコードを付加するという御意見がありました。データダウンロードでなく、バーコード添付というのも評価できる御意見であろうと思われます。
三、Log管理を徹底する為に
閲覧者は発行評価書や調査報告書の末尾等に交付されたダウンロードLogを転載することを義務づけるものですが、これだけではLog管理を徹底できません。 即ち、発行評価書や調査報告書への記載の有無を確認する方法を用意しなければ、不心得者を排除することはできません。同時に手続きを踏んで記載した会員へのモチベーションも用意しておくべきであろうと考えます。
Log管理の裏道を行こうとする不心得者を完璧に排除する方法はとても難しいことです。 抜き取り検査も完全ではないし、全数検査は費用対効果の面から採用できないし、とすれば別視点の方法はなかろうかというのが、本提案の主眼点です。 ただ単に、事例の非正規取得者を排除防止するだけではなく、正規の手続きを踏んで事例を取得することに積極的動機付けを与えようというのですし、ひいては市場の淘汰に委ねようというものです。
四、具体的な手順
1.会員は鑑定評価書等にLogを記載すると同時に、書類の製本等最終工程の前に、日鑑連宛に下記事項を、日鑑連Log管理サーバ宛に送信する。
「閲覧者が送信する事項」
(1)対象不動産の所在、地番、地目、家屋番号、構造、用途、数量等
(2)鑑定評価額及び価格又は賃料の種類
(3)価格時点及び鑑定評価を行った年月日
※これらの事項をどのように報告送信するかは要検討事項であり、取りあえずは地番以外の所在地、価格時点、土地標準価格(㎡)、建物再調達原価(㎡)でスタートすればよいのではと思います。
(4)鑑定評価額の決定の理由の要旨(抜粋)
※一覧性を保持する書式にどのように記載するかは要検討事項、取りあえずは要旨抜粋報告までは求めないという考え方も有り得るだろう。
(5)当該評価等に際して取得した閲覧Log
以上について、最初から全ての報告送信を求めるものではなく、順次充実してゆけばよかろうと考えます。 また、これらの送信に代えて評価書等の全文PDF化ファイルの送信を求めても宜しかろうと考えます。
2.日鑑連サーバの行うこと、会員が行うこと
サーバは前項の送信を受け付けたら直ちに、閲覧Logを精査して重複するLogが既に送信されていないかを確認して、重複Logが受信記録ファイルに存在しなければ「(適)確認書」をPDFファイル等で発行し、送信者に返信します。 会員は受領した「(適)確認書」を発行書類に添付することにより、発行書類は日鑑連が定める正規の手続きを経て事例収集がなされたものであると証明できる。
五、「(適)確認書」について
表記の適正手続き確認書は、鑑定評価等の的確さを確認するものではないが、事例取得手続きの適正さを確認するものである旨を記載するものである。 確認書の評価書等添付は評価書等の価値を直ちに高めるものではないが、非添付評価書等については、その評価手続き全般に疑念を抱かせるものではある。 同時に将来的な課題として、以下の事項を考慮しておくべきである。
このLog管理における報告事項については一般公開も視野に入れておくべきである。
一般公開することは、鑑定評価の成果を社会と共有することにつながり、鑑定評価活動が市場における取引指標形成に寄与し得ると考える。 もちろん守秘義務との兼ね合いや依頼者の了解など越えなければならない事項は多いが、昨今話題となった「依頼者プレッシャー」対策の一環とも為り得ようと考えるものである。 それは広い意味での鑑定評価書レビューにつながってゆくものであろうと考えるのである。 同時にこのような措置を採用したことを折りにふれて、日鑑連は広報してゆくべきでもある。(以上)
鑑定業界に注がれる社会からの視線の厳しさを考えれば、この程度の自治・自律的改善策は取り得るものであろうと考えるが、如何なものであろうか。 この程度のことでも異論百出であろうと予想できるが、日鑑連が自治自律を標榜するのであれば、この程度のことは実行できなくてはならないと考えるのである。 先号記事「進化するGIS」にも書いたことであるが、外部環境は鑑定士の思惑を越えて日々変化し進化しているのである。内輪の易きに流される論理に留まっていれば、業界そのものが埋没してしまうであろうと、鄙の堂守は憂うのである。
※折しも、第30回国土審議会土地政策分科会不動産鑑定評価部会の開催が広報されている。 第29回不動産鑑定評価部会(平成24年6月)で示された「不動産鑑定評価基準等の見直しの方向性」を踏まえた検討状況について事務局から中間報告を行うため、第30回不動産鑑定評価部会が開催されるのである。
第30回国土審議会土地政策分科会不動産鑑定評価部会の開催
http://www.mlit.go.jp/report/press/totikensangyo02_hh_000065.html
※鑑定評価レビューについて
『鄙からの発信』:茫猿の提言:Rea Review 制度創設提案 2010年8月18日
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