最後の瞬間

昨夜午後7:30、NHKの東海地区限定番組では「ナビゲーション“最期の瞬間”をどう迎えますか?」という番組が放送されていた。《21日(日)午前8:00再放送予定》
自らの両親の看取りを振り返ってみても、自身の最後を想像してみても考えさせられることの多い番組だった。

【末期がんや心肺停止から長時間が経過しているなど、救命困難な高齢者が救命センターに運ばれるケースが増えている。2040年には東海北陸地方で亡くなる人が年間23万に達するとみられ、救急医療システムの崩壊が危惧される。全ての高齢者を救急車で搬送すると、蘇生で無用なダメージを与えたり、家族が静かに看取る時間を奪ったりすることにもつながりかねない。多死社会が迫る中、どのように最期の時を迎えるべきか考える。】《NHKサイトより引用》

母は短期間の検査入院を別にすれば、自宅で最後を迎えることを望み、本人の希望どおりに自宅介護で看取ったのであるが、最後の対応についてだけは今も悔いを残している。

末期には往診もお願いしていた「かかりつけ医」からは、容態が急変したら深夜でも連絡するようにと携帯電話番号も教えて頂いていたし、往診できなくて救急車を要請する時には渡すべき”病状診断書類”も手渡されていた。

母が心肺停止状態におちいったのは、2010.05.08《土曜日》の午後八時頃のことだった。医院は休診日だったし、医師は学会で遠隔地へ出張されていた。そこで、夜分ではあったが、医師に電話してご指示を仰いだのである。先生は救急車を依頼するように指示されたので、119番に連絡したのであるが、あとから考えれば、これが大きな悔いとなったのである。

救急車が到着し、お決まりの胸骨圧迫による心肺蘇生処置が延々と施されたのである。母の余命が旦夕に迫っていることは、既に医師から聞かされていたし、呼吸も脈拍も無いことも確認していたから、蘇生処置の中止をお願いしたけれど、決まりだからと聞き入れられずに、救急指定病院へ搬送されたのである。救急車のなかでも蘇生処置が続けられており、痩せ衰えて既に亡くなっている母には「とても酷い《むごい》措置」のように思えてならなかったのである。サイレンを鳴らして病院に到着するまでの二十分ほどの時間が、とても長く感じたのである。

病院に到着して直ちに処置室に運ばれ十数分も過ぎた頃だろうか、処置室の前で待たされていた私は、当直の医師に呼ばれて「蘇生措置を施しましたが、回復されません。蘇生措置を止めてよろしいか?」と尋ねられたのである。私やともに看取っていた息子たちが心肺停止を確認してから、既に一時間以上が過ぎていたことでもあるし、蘇生措置の中止をお願いし、深夜の治療にお礼を申し上げ、母を自宅に連れ帰ったのである。

我々遺族にしてみれば、何とも無意味な病院への搬送であったが、心肺停止は救急隊員が確認できても、死亡確認は医師にのみ許されているという、これも浮き世の手続きとあれば致し方ないことなのであろう。また世間には平穏な死ばかりでもなかろうから、このような手続きも不可欠なのであろうと思われる。 それにしても、永眠後に与えられたであろう静かな時間を、慌ただしくかき乱された母自身と家族にとっては、とても迷惑な数時間であった。

この経験があったから、半年後の夕刻遅くに父が亡くなった時には、私独りで父を看取り余裕を持って先生に連絡して、死亡確認をしていただいた。母のときのような慌ただしさは無く、静かに落ち着いて父を見送ることができたのである。

末期癌や老衰で、かかりつけ医から指示を受けられる場合はよいとしても、急死の場合などには当てはまらないことであるし、患者の年齢も左右することではあるだろうが、特に自宅介護の場合には、静かで穏やかな別れの時間が望ましいと思えるのである。そのためには日頃から「かかりつけ医」とのあいだで十分な意思の疎通が欠かせないことに思える。

父も母も見送った私にとって次は、自らの最後にどう対応するか決めておかなければならないと思っている。同時に老妻の考えも日頃から確かめておかなくてはならないことである。此の世の倣いとして願ったり叶ったりなどとはゆかないかもしれない。

しかしながら、樹木希林さんが云う「お正月かなんかに、『死ぬときぐらい好きにさせてよ』なんて(広告の写真が)出ると、なんか自分の死への考えがあるみたいだけど、そんなにおこがましくはないのね。もう少し、死っていうものに対して謙虚で、じたばたしてても、みっともなくても、それはそれで、子どもに受け継がせていくというような気持ちでいるの。」という言葉に深く共感するのである。

 

 

関連の記事


カテゴリー: 茫猿残日録 パーマリンク

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください