2017憲法記念日

今年の憲法記念日は衝撃的だった。衝撃的なニュースの割にはなぜかマスコミの取り扱いは押さえ気味でもあった。先号記事にも記述した、憲法記念日に安倍自民党総裁が日本会議が主導する美しい日本の憲法をつくる国民の会などの改憲集会によせたビデオメッセージのことである。 《安倍総裁のビデオメッセージ》

この安倍総裁ビデオメッセージについて、識者は何を語っているかとiNetを検索してみた。安倍総理に拍手するネトウヨは多いが、彼の二枚舌欺瞞性や改憲論議の本質に踏み込んだ論説は少ない。少ないなかで内田樹氏、堀田勝己氏の論説を引用して考える。

内田樹氏はこう述べている。
「対米従属を通じて対米自立を達成する」という国家戦略と喝破し、次いで「アメリカに対して主権的にふるまうことができない政府が、憲法上の主権者である国民に対して抑圧的にふるまい、国民主権を否定する」とも述べる。 内田樹氏の憲法記念日前後の二つの記事は刮目して読むに値し、瞠目すべしでもある。

内田樹の研究室 2017/05/03   神奈川新聞のインタビュー
日本が属国なのだと明確に認識したのは、鳩山由紀夫元首相が2009年に米軍普天間飛行場の移設を巡り「最低でも県外」と発言した際の政治と社会の反応を見たときだ。
鳩山氏は軍略上の重要性を失った日本国内の米軍基地を移転し、日本固有の国土の回復を求めただけである。首相として当然の主張をしたに過ぎない。だが、これに対して外務省も防衛省もメディアも猛然たる攻撃を加えた。その理由は「アメリカの『信頼』を損なうような人間に日本は委ねられない」というものだった。ニーチェの「奴隷」定義を援用するならば、宗主国の利益を優先的に配慮することが自国の国益を最大化する道だと信じる人々のことを「属国民」と呼ぶのである。

北朝鮮を巡る情勢が緊迫している。米国が北朝鮮に対し先制攻撃した場合、日本国内にミサイルが飛来して国民が死傷するリスクはある。だが、これを「アメリカがする戦争になぜ日本が巻き込まれなければならないのか」と憤る声はほとんど聞かれない。主権国家であれば、国土と国民を守ることをまず第一に考えるはずだが、日本政府は北東アジアの危機を高めているアメリカに一方的な支持を与えて、米国に軍事的挑発の自制を求めるという主権国家なら当然なすべきことをしていない。

正論である。由緒正しい紛うことなき正論である。だが、マスコミは鳩山元総理を総理にあるまじきとか非国民とか、信じ難い扱いをする。
安倍総理も日本国民を守るのが総理の第一の責務と言うのであれば、日本が戦場とならない、戦火に巻き込まれない道を模索するのが第一の仕事であろう。

内田樹の研究室 2017/05/06 朝日新聞のインタビュー
属国であることのフラストレーションをどこかで癒す必要があるからです。現実には日本は重要政策についてはアメリカの許諾を得ることなしには何一つ自己決定できない。沖縄の米軍基地は返還されないし、地位協定は改定されないし、首都の上空には主権の及ばない横田空域が広がっています。この屈辱感と不能感をどうやって癒すか。日本人が選んだのは「アメリカが怒らない範囲で、反米的にふるまう」というひねこびた解でした。それが安倍政権の極右政治路線であり、そこに相当数の日本人が共感している。

東北の人々は、東日本大震災と原発事故で政府の無策とシステムの脆弱さを思い知ったはずです。国をあてにせず、自力で生き延びる方法を模索しているだろうと思います。
僕が最近注目しているのは、若者たちの地方移住傾向です。東北にはまだ山河という豊かな国民資源があります。帰農する若者たちと豊かな山河の出会いのうちに、経済成長至上主義者たちが考えている「地方創生」とは別の地方の未来が開けるのではないかと僕は思っています。

東北震災後に茫猿はこう考えた。阪神淡路大震災の神戸と今回の東北は違う、大きく違う。大都市で発災し大阪が隣にある阪神淡路と、もともと過疎化高齢化が進む三陸沿岸とは大きく違う。仙台や磐城が隣接するとはいえ直接被災しているわけではない。

だから現状復旧とか以前より巨大な防潮堤建設という発想に違和感を持っていた。ましてや原発被災という未曾有・未経験の事故が重なっているのである。三陸沿岸は白砂青松の日本を取り戻すという発想を中心に据えて、観光や癒し、伝統産業維持保存といった考え方をコアにしたらよいのではと考えていた。数度、被災地を訪ねたのちの今もそう考えている。《政府は復興の名のもとに、巨額巨大な鉄とコンクリートを東北に投じた。》

畏友堀田勝己氏はこのように述べている。
「利酒日記別室」時事ネタコラム 2017/05/04
首相は、9条1項、2項を残すとは言っているが、まったく手を付けないとは言っていない。 条項そのものは残すけれど、書き換えることまでは否定していないのだ。 「基本的に条項は残したでしょ? 文言は現実に合うように少しだけ変えたけど」 と居直ることくらい、あの人にとってはたやすいこと。うそをついたという意識すらなく、 そういう騙しをやってのけることは十分に考えられる。

 また、教育無償化を唐突に言い出したことも、実にわかりやすい詭弁であると感じる。 きっと「これは使える」と思ったのだろう。 憲法を変えることさえできるのなら、本当は自分がやりたくないことでも、 すべて飲み込んだっていいという考えに見える。

つづけて堀田氏は「第99条に関し、憲法尊重擁護義務を負っているのは天皇や公務員であって、 国民は負っていないことに注意してほしい。国民は憲法の制定者であり、権力者を縛るために憲法が存在するというのが、 立憲主義の要諦である。国民にも義務を負わせろという主張は、まったく民主国家における憲法議論とは相容れないものなのだ。」と述べている。

小林よしのり、鈴木邦男、白川勝彦、その他各氏は連休中とあってか、特段のコメントは発せられていない。

4月29日、北朝鮮の弾道ミサイルの発射を受けて、東京メトロが午前6時7分から、約10分間、安全確認として全線での運転を取りやめた。朝鮮半島緊張激化という政府反応、マスコミ報道それらに対する、これが過剰反応なのか、マンガチック反応なのか、それとも過剰”忖度”反応なのか。このような対応方針を決めた企業執行部背景も知りたい。

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