2018/03/02 京都駅前のメルパルクにて近畿不動産鑑定士協会連合会主催の「不動産価格指数公表の意義を考える」シンポジウムが開催された。特別講義の講師清水千弘教授は某SNSにて「選択と集中が必要…..、本業に戻って研究に専念……」などとコメントされていることから、ファイナル・セミナーになるやもしれず聞き逃してならじと聴講したのである。
シンポジウムの詳細については、近畿会発行の案内パンフレットを参照してください。
3月2日地方不動産価格指数シンポ案内
清水教授は「不動産鑑定士はAIに勝つことができるのか?」をメインテーマに講義されました。講義の詳細は「不動産価格の決まり方-AIは不動産鑑定士に勝つことができるのか?」から参照してください。
シンポジウム会場にて頂いたスナップです。(左)清水教授、(中)パネルディスカッション・村木コーディネーター&久保パネリスト、(中)熊倉日鑑連会長&西川近鑑連会長、(右)熊倉日鑑連会長&村木康弘氏
《村木氏は、3/2シンポジウム、2012/7/20びわ湖会議の実質プロデユーサー&プロモーターである。他にも住宅ファイル制度の推進役として東奔西走の日々を過ごしておられる。》
以下は聴講を終えての茫猿の雑感です。
「清水ゼミが目指すScienceとArtの融合」について。
ここで云う”Science”とはビッグデータを駆使した統計解析であり、より具体的には不動産取引価格情報を基礎データとするヘドニックアプローチなどである。”Art”とはいわゆる芸術ではなく”リベラル・アーツ”などと同義であり、具体的には不動産鑑定評価を指す。言い換えれば「統計解析」と「鑑:目利き」の融合なのであり、統計解析を基礎とする不動産鑑定とも云えるであろう。
シンポジウム全体を通じて感じたのは「融合未だし」である。属性データが限定されると共に不動産鑑定士のバイアスがかかることの多い Jirei10.txt(地価公示取引事例資料)に拘泥すること多く、本来の不動産取引価格情報を基礎とする姿勢の乏しさが残念である。また取引価格情報あるいは登記取引情報とGISとの連携も踏み込みが乏しかったし、統計解析を基礎とする比準表作成についての言及も少なかった。
AIと不動産鑑定は勝ち負けを云々するものではなく、不動産鑑定士が如何にAIを取り込み自家薬籠中のものとしてゆくかが問われているのであろう。その観点から云えば、近く地価公示評価書がCSVデータで開示されることが予定されている。その時に公示評価書CSVデータと云うもう一つのビッグデータ開示に不動産鑑定士がどのように向き合うかが問われることとなるであろう。
地価公示評価の比準表が鑑定士の「鑑:目利き」に留まっていてはならないのでありビッグデータ解析結果に依る比準表を基礎とする時期に至っているのであろう。そこにこそ、地方《地域》市場における取引価格情報解析が求められていると考える。
「ビッグデータ」について。
鑑定業界や連合会がJirei10.txt(地価公示取引事例資料)にとらわれ、狭い資料提供閲覧システムを墨守している間に社会は急速に変化している。RESAS (経済産業省と内閣官房が提供する地域経済分析システム )やe-Stat(日本の統計が閲覧できる政府統計ポータルサイト)にみられるが如く、データの開示は急激に進みつつある。このままでは鑑定評価のガラパゴス化が避けられないと危惧するのである。GISの進化も目覚ましいものがある、不動産鑑定評価はビッグデータともGISとも無縁ではあり得ないのである。斯界の業益にとらわれる旧態は速やかに打破されるべきであろう。
「業界の高齢化」がささやかれている。
このままでは公的評価体制や取引価格情報収集体制の維持すら難しくなるのではとも危惧されている。会場には熊倉日鑑連会長をはじめ福田副会長、今西副会長、玉那覇前副会長などのお歴々が全国各地から私費参加されていた。日鑑連執行部の関心の高さをうかがわせるものである。同時に茫猿も含めて高齢者の姿も目立った。業界は公的評価《依頼者が国及び地方公共団体》を主たる業務とする方々と、証券化や相続・事業承継など”私的評価《依頼者が法人並びに個人》”重視グループとに二極分化しつつあると聞こえる。
前者は「ScienceとArtの融合」などには関心低く jirei10.txt現行閲覧体制の堅持に傾き、後者は「地方市場における価格指数公表」などには関心を示さず公示事例のオンライン開示に傾きがちなのであろう。とても残念なことであるが、であればこそ日鑑連執行部やシンポジウムのプロデューサーでもある村木氏の更なるリーダーシップが期待されるのである。
岐阜・清水ゼミ(2015-2016)に始まり、京都・清水ゼミ(2016-2017)を経て、今回のシンポジウムに結実するまでの清水教授のご尽力に深甚の謝意を表して本稿の結びとしたい。叶うことであれば、清水教授にはこれからも折々のご指導と忌憚のない激励をお願いするものである。
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