生死の覚悟を読む

何処かのサイトだったか、TWITTERだったか、FACEBOOKだったかはもう忘れたが、高村薫氏と南直哉師が対談して「生死の覚悟」について語る書籍が05/20に発売されると知った。恐山院代の南直哉師と「マークスの山」の著者高村薫氏の対談であれば、この書を読まずして何書を読むと云うのかという思いでネット注文したのである。

本の題名が「生死の覚悟」(生死はしょうじと読む)であるのを見て、日頃読誦している正信偈にある「証知生死即涅槃」という語が浮かんだのである。『”生死即涅槃”とは、生死がそのまま涅槃(悟り)である、ということです。言い換えると、「迷いの状態」がそのまま「迷いのない状態」ということになりますから、互いに矛盾し合う二つのことが、そのまま一つになっているのです。』(東本願寺:正信偈の教えより

1953年生まれの高村薫、1958年生まれの南直哉、1995年1月発災の阪神淡路大震災を経験し(高村は吹田市居住)、1995年3月発生のオウム真理教による地下鉄サリン事件(南は「恐山日記」でオウムへの関心を語っている)、2011年3月発災の東日本大震災(南は青森県下北半島に所在する恐山菩提寺院代)に真近に向き合ってきた二人でもある。新書版200頁ほどの小さな書ではあるが、少しずつ重く読み進めたい。

更には、高村つながりというよりも、対談の冒頭で南直哉師と「太陽を曳く馬」(上下)の主人公福沢彰之(高村薫は自らの分身とも言う)との恐ろしいほどの相似性が語られていることから、「太陽を曳く馬」を読みたいと求める。久しぶりに高村薫描く合田雄一郎刑事に会ってみたいと思ったことでもある。

他には平成が令和に代わる折しも、内田樹氏が編者だという「街場の平成論」が2019/03/30刊行されたのでこれも求める。そして、05/16にお亡くなりになった加藤典洋氏の「9条入門」である。この書が刊行されたのは2019/04/19、その一ヶ月後にお亡くなりになったのである。05/03に内田樹氏が「憲法の日に寄せて」と題して「9条入門」の評論を記している。

「9条入門」について、創元社の惹句は「戦後日本の象徴として、多くの日本人から熱烈に支持されてきた憲法9条。だがそれを支持するリベラル派も、批判する右派も、自分に都合の悪い歴史にはずっと目をつぶり続けてきた。  多くの異説や混乱が存在するなか、あらゆる政治的立場を離れ、ただ事実だけを見据えて描き出した、憲法9条の誕生と、「マッカーサー」「昭和天皇」「日米安保」との相克をめぐる成立初期の物語。30年来の構想を書ききった著者渾身の一作。」とあるが、まさに渾身の一作となったのである。

気づけば加藤典洋氏は山形生まれである。内田樹氏の先祖伝来の墓地が山形県鶴岡市の宗傳寺にあると氏のブログサイトは伝える。その記事の中で内田氏はこうも言う。「そういえば、先日鎌倉で汲みかわした高橋源一郎さんも加藤典洋さんも、父祖が山形の出だった。何代か前には、高橋家の祖先と加藤家の祖先と内田家の祖先が山形のどこかですれ違っていたかもしれない。その子孫たちが鎌倉でシャンペンを飲んでいるというのも、何かの因縁なのかも。」

内田氏や加藤氏、高橋氏だけでなく、茫猿が敬愛する藤沢周平氏も山形県庄内地方そのものである。水面下で庄内平野の海坂藩につながる幾つかの書を求め、そして読むのである。

《追記》仙台を発して仙山線で作並、山寺、酒田、鶴岡を巡ったのは2011年11月のことだった。『膝笑う旅-鶴岡・鳥海山編   』

《追記》高橋源一郎氏にも加藤典洋氏にも内田樹氏にも、まして藤沢周平氏には語るまでもなく好まれそうな、庭先門先にみられる初夏の花々六題である。左上より時計回り巡に、馬酔木(アセビ)、昼顔、馬鈴薯(メークイーン)、茄子、赤茄子(トマト)である。そして、盛りは過ぎたが野薔薇も咲いている。
         

《05/30追記 何故にこうも痛ましい事件事故が続く》
04/20 に池袋で87才男性が運転する車が横断歩道で31才と3才の母子をはねて死亡させるという痛ましい事故が起きた。05/08に大津市大萱の県道交差点付近で保育園児の散歩の列に車が突っ込み、園児2人が死亡、2人が意識不明の重体となった。05/28川崎市登戸でスクールバスを待っていた小学生らが男に包丁で刺され2人が死亡、17人がけがをした。

いずれの事件も被害者は無防備な保育園児や小学生である、即ち紛れもない弱者である。加害者は高齢運転者、前方不注意と歩道分離帯未整備、引きこもり中年男性である。軽々しく”したり顔”で事件を論じることなどできない。

できないけれど、国後島で愚かな行為に及んだ丸山穂高議員、国技館でトランプ大統領とお友達が握手できる便宜を計らった安倍総理、政治資金パーティーで「結婚しなくていいという女の人が増えている。お子さん、お孫さんには子供を最低3人くらい産むようにお願いしてもらいたい」と述べた桜田前五輪相。 これらの人々の顔を思い浮かべると脳天気な政治屋さんたちと現実の悲惨さとの落差に暗澹とする。

From the emperor to sumo wrestling, Abe harnesses Japan’s traditions to impress Trump(天皇から相撲まで、トランプをの心を捉えるために安倍は日本の伝統を利用する)(2019/05/30  Washingtonpost.com)

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